アジアズームイン−空飛ぶバス上陸へ
朝日新聞(2007.2.24-3.1 by 三嶋伸一)
安さ最強「空の黒船」 アジア最大手、日本照準(2007.2.24)
「2008年、日本からマレーシアまで往復150ドル(約1万8千円)で飛びたい」。
マレーシアを拠点とするアジア最大手の格安航空会社エアーアジアの最高経営責任者(CEO)トニー・フェルナンデス氏(43)は、こともなげにそう言った。
東京から広島までの新幹線片道料金で東南アジアを往復。
「最安値でも3万円が限界」と、日本航空の担当者は悲鳴をあげる。日本では考えられないほど安いアジアの格安航空会社が、昨年後半から続々と欧州などの長距離国際線に乗り出し始めた。
その行き先に日本が入っていることを、フェルナンデス氏は初めて公言したのだ。

■7千円VS.2万円

エアーアジアが長距離国際線への進出を表明したのは1月。
これまでマレーシア国内と、タイやインドネシアなどへの短距離国際線を飛んでいた。
7月から、まずクアラルンプールとロンドン、中国の天津、杭州をそれぞれ結ぶ。
「空の黒船が来る」。日本航空や全日空の担当者は気が気でない。
その運賃がアジアではもちろん、世界で最も安いからだ。
例えば、クアラルンプールから2時間半かかるコタキナバルまで、1週間前予約で片道7千〜8千円。
同様の条件で羽田−福岡の約2時間が、日航も全日空も2万円前後と約2.5倍もする。

なぜ、これほど安いのか。その秘密は、クアラルンプール国際空港にある格安航空専用ターミナルに集約されていた。
世界でも珍しい専用タ−ミナルは、壮麗な国際線ターミナルから車で約10分の貨物地区にあった。
2階建ての倉庫のような建物は終日にぎわう。
年間の利用者は500万人。国際線ターミナル利用者の4分の1だ。
搭乗券はない。販売は原則インターネットで、予約画面などを旅客が印刷したものを搭乗券代わりに使う。
搭乗橋もなく、旅客は航空機のそばまで歩き、タラップを上って乗り込む。
航空機の多くが故障しにくい新造機で、機種も2機種にしぼって整備費を落とす。
航空機はターミナル前に「縦列駐車」して駐機料を節約する。
座席はエコノミーだけで、すべて自由席。
早い者勝ちにして搭乗時間を短縮し、空港での折り返し時間を大手航空会社の半分の25分にした。
1機でなるべく多く飛ぶためだ。
機内サービスはなく、コーヒーを約140円、簡単なランチなら約240円で販売する。
これで、1座席を1キロ運ぶコストを2.33セントと大手の3割に抑えた。
「もともと人件費が安いうえに、欧米の格安航空会社の手法をうまく使いこなしている」と、日航経営企画室の丹治隆次長は舌を巻く。

■豪から来月就航

エアアジア並みの格安航空会社は、アジアにすでに十数社ある。
香港のオアシス香港航空は昨年10月、片道約1万5千円(税別)でロンドン線に就航。
オーストラリアのジェットスターは3月、シドニーから大阪へ往復6万円からで就航、日本一番乗りを果たす。
インドネシアのライオンエアは2008年、成田と長崎へ就航する方針を明かした。
「往復300ドルほどで、バリ島かジャカルタまで飛びたい」と、ルスディ・キラナ社長(43)は意気込む。
長距離国際線への相次ぐ進出は、海で隔てられたアジアならではの動きといえる。
同時に、こうした動きを各国政府が積極的に支援しているのもアジアならでは、だ。
シンガポールはチャンギ空港に格安専用ターミナルを設置し、新空港が開港したばかりのタイでは、新空港の滑走路に亀裂が見つかったこともあり、旧空港を格安に開放する。
マレーシアのチャン・コンチョイ運輸相は「エアーアジアの進出で、マレーシアは今後、アジアの格安航空の中心になれる」と期待する。

「長距離線に乗り出した彼らにとって、巨大な日本市場は魅力だ」。オーストラリアのシンクタンク「アジア太平洋航空センターのピーター・ハービソン代表は指摘する。
「日本を目指す社はさらに増えるだろう」しかし日本の旅客が、ただ安いだけで無名の航空会社を使うだろうか。
実際には、エアアジアの希望通りの運賃で日本政府が認可するのか、日本の旅行会社とどう提携するかなどの問題もある。
「大丈夫、やってみせる」と、フェルナンデス氏は自信を示す。
すでに格安専用ターミナルを用意できる空港を、日本でも探し始めた模様だ。
「マレーシアでも最初は相手にされなかったが、価格で認められた。日本でも粘り強くやっていく」

その安さから「空飛ぶ乗り合いバス」とも呼ばれるアジアの格安航空会社が、日本に迫ってきた。
コスト削減の遅れで低迷する日本航空や、世界トップクラスのコストの成田空港を抱える日本に新たな激震が襲いつつある。
空飛ぶバスの現状を見た。
■格安航空会社

1970年代の米国での航空自由化を契機に誕生し、その後、欧州やアジアに広がった。
直行路線を小型機で多頻度運航して効率を上げ、機内サービスを最小限にし、機材や座席のクラスを単一にして大手の半額以下の運賃を実現した。
米国ではサウスウエスト航空などが国内線の3割を、英国ではライアンエアなどが国内線の半分近くを占める。
アジアは十数社でシェアはまだ1割程度だが、爆発的に旅客を増やしている。
中でも、2001年に格安航空会社としてスタートしたエアーアジアはすでに年間1210万人を運び、黒字を達成している。
日本ではスカイマークエアラインズなどがあるが、大手より2割程度安いだけで少し様相が異なる。
「陸」「海」の客 次々吸収(2007.2.26)
バンコクに本社がある薬品販売会社で働く若手女性社員チョンラックさんが国内出張に出る時は、空港でちょっとした品定めの時間が必要だ。
比べるのは格安航空会社の運賃。日によってはもちろん、時間によっても変わる格安運賃を、各社のカウンターで聞いてから、どれに乗るか決める。
以前は最大手のタイ国際航空を使っていたが、半値近い格安運賃の登場で変えた。
「会社の指示ではないけれど、コスト削減のために社員はみなやっていますよ」
昨年9月に開港したタイの新たな玄関、スワンナプーム国際空港。
ここには6社と、アジア最多の格安航空会社が集まっている。
狙うのはチョンラックさんのような、「新中間層」と呼ばれる新しい高所得者だ。

「新中間層はすべてもらう」と息巻くのが、ノックエアのパティー・サラシン最高経営兼任者(CEO)。
出資会社のタイ国際航空から国内線を護り受けて、急速に旅客を増やしている。
「全路線約6300円」という均一運賃を掲げるのがワンツーゴーだ。
「毎日変わる運賃では消費者の不信を招く」と、ウドム・タンティプラソンチャイ会長は指摘する。
両社とも安いだけでなく、座席指定ができ、コンビニ店でも航空券を購入できるなどの新サービスを付加して新中間層に訴える。

アジア工科大学院(バンコク郊外)の花岡伸也助教授の調査では、タイの格安航空会社は2004年、一気に国内線旅客200万人を獲得した。
花岡助教授は「格安が新中間層を取り込んだ」とみる。
この結果、一部の路線で大手会社のシェアが減り始めている。
プーケットと並ぶ観光地クラビでは、2004年のスマトラ沖大地震・インド洋大津波の被害で、それまで毎日11便あった大手便が一時3便まで減った。この機に乗じて参入した格安会社が、今や大手の倍の8便乗り入れている。
クラビ観光協会のタラット・タニットノン前会長は「昨年から観光客が戻ってきたのは格安便のおかげだ」と話す。
花岡助教授は「大手は収益性の高い国際線に特化することで、格安とすみ分け始めた」とみる。

大手から客を奪うだけではない。
格安会社は、これまで大手が手をつけてこなかった新たな客層の開拓も始めている。
エアーアジア(マレーシア)の拠点、クアラルンプール国際空港の格安専用ターミナルは毎日、インドネシアやカンボジアなどからの出稼ぎ労働者でにぎわう。
その多くが、これまで船やバスを利用してきた人たちだ。
インドネシア・西ジャワからメードの仕事に就くために来たロハニさん(21)は「飛行機なんて初めて。怖くて窓際に座れなかったの」と笑う。
3年ぶりにインドネシア・スラバヤ近くの故郷に帰るジーさん(29)は「エアーアジアなら僕にも買えたから」。
ビルの建設現場で千円の日給で働いてきた。「来るときは船で3日かかった。帰りぐらい早く帰りたかった」

この結果、インドネシア国鉄では、ジャカルタとスラバヤ、ジョグジャカルタ間など格安航空と競合する路線で、乗客が2〜3割減ったという。
担当者は「1日2往復あったのを半分に減らした」と嘆く。
フィリピンでは全国の船の旅客数が2004年をピークに減り始め、2006年上半期は2295万人と前年同期を15%も下回った。
マニラにある大手フェリー会社は「昨夏から2日前に購入すれば半額になるなど、様々な割引運賃を導入している」と、巻き返しに必死だ。
格安航空は「空」はもちろん、「陸」や「海」まで、東南アジアの交通網全体を変えつつある。
効率優先、安全は後回し(2007.2.27)
残骸を最初に発見したのは地元の漁師だった。
インドネシア・スラウェシ島南部のロジエ村。モハマド・バックリーさん(45)が、沖に仕掛けた網に奇妙な板を見つけたのは1月9日のこと。
翌日、たまたま遊びにきていた銀行員のいとこが「これ、飛行機の部品じゃないか」と言い出してから大騒ぎになった。

スラバヤからマナドに向かったインドネシアの格安航空会社アダムエアのB737型(乗客・乗員102人)が、スラウェシ島付近でレーダー画面から消えたのは1月1日午後3時ごろ。
高度約1万メートルを飛行中、悪天候を避けるためコースを変えた直後だった。
「島の山中に墜落、12人生存」との情報が流れたが、不確かな住民情報による誤報だった。
捜索は振り出しに戻り、事故機の行方はわからなくなっていた。
バックリーさんの発見で海への墜落がはっきりした。
島の西約80キロの海底約2千メートルに機体が確認されたのは22日。
悪天候のせいなのか、機体に問題があったのか、何も分からない。

格安航空会社は安全なのか。
アジア各国のなかでも、特に大事故が相次ぐインドネシアで議論を呼んでいる。
インドネシア消費者協会が昨年、ジャカルタ空港で旅客に苦情アンケートをしたところ、345人中206人がアダムエアヘの苦情だった。
遅れやチェックインのトラブルなどに続いて、「シートベルトなどの機内装備がない」が18件。「アンケートは事故を予告していた」と、協会代表のインダさんは指摘する。

事故機が製造から17年たった中古機だったことも議論に拍車をかけた。
インドネシア・メダンで2005年に墜落事故を起こしたマンダラ航空のディオノ・ヌルジャディン社長(44)は「2年で新造機28機に入れ替える」と話す。
中古機は安くても整備費がかかり、多くの格安航空会社が新造機に切り香えている。
その点、インドネシアでは古いままの会社が多い。

機体の年齢だけではない。
アダムエアは昨年から、主脚の破損や運航装置の故障など深刻なトラブルが相次ぐ。
現地の航空関係者は「多頻度運航で効率を上げようと、パイロットや整備士が十分点検していなかった可能性がある」と明かす。
マレーシアを拠点とするエアーアジアのパイロットも「早く次の飛行に移れるように、着陸直後の地上走行中から離陸準備を始めている」と話す。
効率優先の陰で、余裕がなくなっている機内の現状が垣間見える。

「こうした格安の現状を政府が監査できていない」と、ガジャマダ大学のダナング・パリケシット博士(交通計画)は指摘する。
インドネシア運輸省は事故後、監査を強化した。
しかし、格安航空の乱立で、同国の2006年の航空旅客数は5年前の3倍の約3千万人に膨れあがっている。
これに対し政府の検査官は10年前と比べても倍の約100人。
監査体制の不備は各国でも心配されている。
事故から2カ月たったが、沈んだ機体から原因解明に不可欠な飛行記録装置などをいつ引き揚げるか、めどは立たない。
「回収費が問題だ」と事故調査委鼻会幹部は頭を抱える。
回収しても自力で分析する能力はなく、他国に頼むしかない。

事故後も、安さでアダムエアは人気だった。
満席のジャカルタ発ジョグジャカルタ行きに乗っていた男性客は「アダムより危ない航空会社のほうが多い。気にしていられないよ」と、苦笑した。
アダムエアは今月21日、スラバヤでまた事故を起こした。
悪天候のなかで着陸に失敗。
けが人はなかったが、機体に亀裂が入り、運輸省は事故機と同型機を運航停止にして調査を始めた。
格安航空会社が無事に育つかは、その国の行政能力にもかかっている。
異国の空へ格安周遊(2007.2.28)
「またバーゲンが始まったよ」。坂本圭吾さん(66)の部屋に、近くに住む赤山紀夫さん(66)が新聞の広告片手に訪ねてきた。
「では旅行の計画をたてましょうか」。坂本さんは手元のパソコンを開いて、格安航空会社の予約サイトを探し始めた。
ここはマレーシア屈指の高原リゾート、キャメロン・ハイランド。
常夏の国にあっても年中涼しいとあって、退職した日本人の長期滞在地として人気がある。
長年住む坂本さんたち十数世帯の楽しみの一つが、格安航空券を使った旅行だ。

マレーシアの格安会社エアーアジアは年に数回、破格のバーゲンをする。
最安値は「無料」、つまり空港税などの必要経費だけ。
あらかじめ空席が見込まれる便では、いっそ一部の席を無料にして宣伝効果を狙おうというわけだ。
これを利用して、坂本さんたちは昨年1月、ボルネオ島観光の玄関口クチンまで約1700円で往復した。
大手航空会社の1割以下の値段だ。
「私たち年金生活者にとって、1回の旅行代はせいぜい2万円まで」と坂本さんの知人の八幡国子さん(67)。
「日本ならバスツアーぐらいしかできませんが、ここならアジア周遊ができるんです」
「団塊の世代」の大量退職を迎えて、どうすれば年配者に旅行してもらえるか、日本の航空会社や旅行会社は知恵を絞っている。
坂本さんは笑う。「日本にもこんな格安運賃があれば、喜んで旅行に行きますよ」

インドネシアの首都ジャカルタの日系企業に勤める山内佳代さん(35)の週末は慌ただしい。
会社が終わったら、友人と空港へ直行。午後7時台の便に乗り込み、パリへ向かう。
週末のバリを満喫し、月曜早朝の便で帰ってくる。
使うのはバタビアエアなどの格安会社。往復9千円前後だ。
日本で会社勤めをしていたが、インドネシア語を学びたくて留学、そのまま現地で就職した。
「日本では自分の部署の仕事しかできませんでしたが、ここではいろいろな仕事ができます」と、山内さんは話す。
日本では格差社会に派遣社員問題など、若者の労働環境は悪化するばかり。山内さんのように、アジアで就職する若い世代は増えているという。
格安航空は、そんな人たちの「週末の足」にもなっている。
坂本さんも山内さんも、格安会社の安全性には「そんなこと心配していたら、何もできない」と話す。
マレーシアで旅行会社を経営する日本人女性も「格安では1、2時間の遅れは当たり前なので、乗り継ぐには半日以上余裕がないと危ないけれど、これだけ安ければ・・・」と認める。

その点、ジャカルタの日系企業に勤める日本人営業マンの男性(34)の考えは違う。
これまで出張には、安全性を考えて大手のガルーダ・インドネシア航空を使ってきた。
しかし、社長の方針で、昨年1月から格安航空会社を使うことになった。
「ガルーダを使えたのは日本人社員だけだったのですが、格安を使わされる地元スタッフから不満が出るのを心配したようです」
そこへ今年1月、インドネシアの格安会社アダムエアの墜落事故が起きた。
男性は「やはり格安は危ない」と社長に申し出た。
結果は「アダム以外の格安を使うように」。
「これからは保険に入ってから乗るようにします」と男性は苦笑する。

ジャカルタで危機管理のコンサルタント会社に勤める後藤輝久さん(37)は、アダムエアの事故後、多くの企業から「どこの航空会社が安心か」と聞かれた。
後藤さんの答えはこうだ。「格安会社は避けた方がいいでしょう。私たちの調査では、整備や機体の面で格安と大手では差があることが分かっていますから」
日本の「壁」なお高く(2007.3.1)
「航空運賃のおかげでオーストラリアをあきらめていた皆さん、お待たせしました」。
こんなテレビCMが2月、大阪で流れ始めた。
オーストラリアの格安航空会社ジェットスターのものだ。
アジアの格安会社の先陣を切って、今月25日、関西空港とブリスベン、シドニー間に就航する。
「往復6万円から」が売り。既に関西では「ゴールドコースト4日間8万2900円から」などのツアーが登場している。

オーストラリア国内では、親会社のカンタス航空の6割の運航コストで旅客を増やしてきた。
昨年末からはタイやホノルルなど、長距離国際線に次々と進出。勢いづく同社だが、日本就航にあたってはいくつもの「初めて」を経験した。
初めて外国でテレビCMを流した。
インターネットを多用する格安会社の多くはCMに熱心ではない。
しかし、同社は日本でのPRに5億円あまりをかけた。
機内で初めてジュースを飲み放題にした。
飲み物は販売して収入源にするのが格安会社の手法。「国内線を接続してもらう日本航空から、飲み物だけでも無料にすべきだと言われた」と、機内サービス担当のスーザン・ヤングさんは言う。

そして今回初めて、運賃の制限を受けた。
「もっと安くしたかったんだが、日本の国土交通省が認めてくれなかった」。アラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)は残念そうに話す。
日本で販売される航空券の値段は、外国の会社でも国交省の認可が必要だ。
同省は認可にあたって、「国際航空運送協会(IATA)で定められた運賃の3割まで」という目安を設けている。
3割以下の申請は個別審査を通らないと認可されない。
「不当競争を防ぐため」と同省担当者は説明するが、日航や全日空の国内大手を格安会社から守るためともいえる。
実際には下限以下の航空券が一般に流通している。
旅行会社で売られる航空券が認可の対象外となっているためだが、格安会社は旅行会社を使わず、ネットによる直売でコストを落としてきた。「3割下限」はやはり大きな障壁だ。
6万円という価格に、関西の旅行業者は「格安としてはそれぼど安くない」と指摘する。
「まず日本の市場に受け入れてもらうことを優先した」と、ジェットスターの片岡優・日本支社長は説明する。

障壁は他にもある。
大都市圏の空港は使用料が高い上に、規制や混雑でなかなか便数を増やせたい。使いやすい小さな空港もない。格安航空専用ターミナルがある東南アジアとは対照的だ。
また、旅行会社を使う人が多く、価格やサービスで旅行会社の影響力が大きい。
運賃も、旅行会社が半年ごとに作るパンフレットにあわせてしか変えられない。
これでは機敏に安い運賃を打ち出す格安会社の機動力は発揮しにくい。
日本の格安会社の運賃は大手の2割程度しか安くない。
背景には、格安を阻む日航や全日空を中心とした業界秩序がある。
アジアの格安会社にとっても状況は同じなのだ。

首都圏では2009〜2010年、羽田空港に4本目の滑走路が完成し、成田空港の2本目の滑走路が延長される。
これに備え、日航も全日空も収益の悪い地方路線から撤退し、ビジネスクラス以上のサービスを充実させつつある。
しかし、格安会社のような低価格のサービス展開は少ない。

成田や羽田の整備に危機感を抱く関西空港会社の平野忠邦副社長は、逆にアジアの格安会社の動きに注目する。
関空の2期用地内に格安専用ターミナルを建設する構想を持っているからだ。「専用ターミナルを用意して格安を誘致することも検討したい」
ジェットスターは近く日本に旅行会社を設立する方針だ。「そこを通せばもっと安い価格が出せると思う」。ジョイス氏は期待を込める。
「空飛ぶ乗り合いバス」は日本の空を激変させる力を秘めている。
実際に羽ばたけるかどうかば、利用者の使いこなし方にかかっている。

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