倫理的(SRI)投資はいかが?

年金投資先、社会貢献尺度に選別 都教職員互助会
(2003.5.31 朝日新聞)
東京都教職員互助会(会員数約11万2000人)は、年金積立金の運用で「社会的に責任を果たしている」企業を選んで投資していることを明らかにした。
環境問題への対応や社会貢献に積極的かどうかなどで、投資先を選別している。欧米で「社会的責任投資」(SRI=Socially Responsible Investing)と呼ばれるこうした投資は日本でも注目され始めているが、証券関係者は「年金資金のSRI運用はおそらく国内初」としている。

約250兆円の日本の年金資金が、一部ではあるが社会的貢献度で企業の選別を始めたことになる。
同互助会の年金積立金は840億円。このうち20億円を、独自の社会貢献型ファンドを作って今年から運用を始めた。

選別の第一の視点は「環境」。環境会計の導入や廃棄物ゼロの取り組みなどを評価する。
次に教育制度や従業員の処遇、社会貢献活動などの観点で選別。学生を就業体験させるインターンシップ制度の導入状況や、女性管理職の比率、不祥事による企業イメージの低下などをみる。
そうして絞った約100社の中から、時々の株価などを考慮して実際に投資する。

年金資金の運用では、株価低迷などで利回りが低下するなか、投資先選びに苦慮するところが増えている。
SRI投資を徹底すると、短期的に株価が上昇しているような企業への投資がしにくくなる面もある。
しかし、同互助会の鳴川智久事務局長は、「社会的な問題に配慮しない企業は、目先の業績が良くても長期的には生き残れない。社会的責任投資の方が結果としてリスクは小さい。」と話している。

今回、選別の助言を請け負ったSRI専門投資顧問会社「グッドバンカー」によると、世界のSRIの資産総額は推定3兆ドル(約350兆円)で、米国では13%が年金資金からの投資。
日本でも1999年に環境を選別基準とする投資信託が発売された。(エコファンドの検索=モーニングスター
同社の筑紫みずえ社長は「年金資金が流入すれば日本でもSRIが盛んになる。今回の投資は歴史的な一歩だ。」とみている。
投信アナリストの視点−注目が集まる社会的責任投資(SRI)(2003-09-08 モーニングスター/金融・投資信託評価)
投資アナリストの視点−日本のSRIの現状と将来について (2003-09-16 モーニングスター/金融・投資信託評価)

修道女財テク右肩上がり
「仏のカトリック修道会」−投資先は「倫理的」企業(2001.1.27 朝日新聞)
財テクでもうけたい。でも、首切りで株価をつり上げたり、環境を汚染したりしているような企業に投資するのは嫌だ−そんなあなたにぴったりの投資信託があります。
投資先は、倫理的に問題のない企業の株や債券ばかり。
つくり育てたのは、フランスのカトリック修道女。修道会の財政難を乗り切るための窮余の策だったが、ほかの投信にもひけを取らない運用実績で、一般の加入者も続々と増えている。(パリ=大野 博人)
■一般からも引き合い
「投信"Nouvelle Strategie 50 (新戦略50)"は株式と債券に半分ずつ投資しています。年間利回りは約10%。このタイブの投信の平均的な運用実績は8%程度ですから、かなり上出来でしょう。」
仏ノートルダム修道会の修道女でこの投信を作ったニコル・レイユさんは誇らしげに折れ線グラフを示した。立派な石肩上がりだ。
fact sheet of Nouvelle Strategie 501983年から始めたこの投信の実績に勢いを得て1998年に株式だけを対象として打ち出した二つめの"Actions Ethique C (倫理的株式)"はこの2年で60%も上がった。
レイユさんは二つの投信の加入者会の会長である。
「加入者のうち修道会は50。一般の加入者は100人以上で、加入希望が200人以上から来ています。」
この記事が掲載される前の2000年当時までは右肩上がりだったこれらの投資信託もその後の株式市場の低迷により、基準価格の低下を余儀なくされている。(Standard & Poor's Fund Services)
始まりは高齢化だった。修道会は若い修道女たちによる学校経営などで年老いた修道女たちの生活を支えていたが、修道会に入る若い女性が減ってうまくいかなくなった。
「1980年代、私たちは年金基金を作って、利益の上がる運用を考えなければならなくなりました。つまり、株です。」
カトリック教徒にとって「金もうけ」は必ずしもほめられた行いではない。
「開発途上国の搾取に加担したくないし、金持ちに利益をもたらすばかりの投資もしたくない。」
そこで、環境問題や従業員の待遇にきちんと配慮して、しかも利益が上がりそうな企業だけに投資することにして20項目の投資基準(表)などを決めた。
日々の売買はフランスの投資顧問会社メスカルト(La Financière Meeschaert)に委託している。
ただし、新しい企業に投資する場合は、加入者の会がチェックする。
たとえば、ペット用の食品会社への投資には待ったをかけた。「飢えに苦しんでいる人がたくさんいるのに、犬のえさに投資するわけにはいかないでしょう。」
新規投資の際には企業幹部に会って「基準」にかなっているかをただす。
もうけるには厳しすぎるようだが、運用がもたついたのは最初だけ。「社会的に正しい姿勢の企業は高い利益を上げるようです。」
■倫理志向投資欧米で高い関心
メスカルト(La Financière Meeschaert)の担当者、ウラディミール・ナロズニアク氏によると、「新戦略50」の時価総額は約2億フラン(約34億円)、「倫理的株式」は約1億フラン(約17億円)。
投資の半分以上は一般の加入者からのものだ。「もうかれば何だっていいとは考えない人たちだ」。カトリック教徒や若いころに学生運動を経験した世代も目立つという。
"Nouvelle Strategie 50 (新戦略50)"以降、各金融機関とも競うように同様な投信を売り出している。
雇用増に取り組む企業の株に投資する「雇用資本」、途上国の開発に投資する「南北開発」…。
投資の総額はまだ全体の1%未満。大企業が脅威とみて、行動を変えるような大きさにはなっていない。
しかし、ナロズニアク氏は「10年前は企業のトップに倫理姿勢を尋ねてもなかなかこたえてくれなかったが、今は違う。大企業はムッシュ倫理やマダム倫理と呼ばれる担当者を置くようになった。イメージは気にし始めている。」という。

■倫理的投資の基準(抜粋)■
  1. 雇用を創出しているか
  2. 従業員が自由に発言できる企業か
  3. 障害者の雇用を進めているか
  4. 外国出身者が働きやすい環境か
  5. 商品やサービスが社会に役立つものか(酒やたばこ、兵器などはダメ)
  6. 環境保護に積極的に取り組んでいるか
途上国に進出している企業について
  1. 現地の人の管理職を養成しているか
  2. 現地への技術移転をしているか
  3. 進出先の職業教育に協力しているか
  4. 進出先の経済的なニーズにこたえているか
<解   説>
道徳的な要素を盛り込んだ「倫理志向型投資」の発想は以前からある。
反戦主義で知られるクエーカー教徒は19世紀に始めたという。米国のプロテスタントは1970年ごろ、ベトナム戦争でもうけたり、アパルトヘイト(人種隔離)政策を続ける南アフリカと取引したりする企業への投資をボイコットしている。
レイユさんも米国の例からヒントを得た。

欧州では1980年代から目立ち始めた。英国では1998年から2年間で、こうした金融商品の販売実績が60%伸びたという報道がある。またフランスでは「新戦略50」を皮切りに、類似の投信は30に増えているという。内容は多様だ。

たとえば、レイユさんたちの目的は問題企業の告発ではない。そんな企業には投資しないだけだ。公害企業などを批判するために株を取得して株主総会に乗り込んだかつての一株株主運動などとは性格が異なる。
利益が上がれば、その一部あるいは全部を途上国の開発に携わる非政府組織(NGO)に寄付するといったタイブもある。

こうした投資の動向に詳しい月刊誌アルテルナティプ・エコノミックのフィリプ・フレモ編集長によると、フランスではこの2、3年とくに関心が高いという。
「経済の自由化が進み、国家が規制できる範囲が小さくなった。その分、企業の行き過ぎをコントロールする方法を見つけなければ、といった懸念も背景にある。」と説明する。グローバル化への反発と重なると指摘する識者もいる。
英国は昨年、年金基金に対して、資金運用でどの程度、環境や社会倫理に配慮しているか開示することを義務付けた。投資行動に影響が出ると見られている。
フランスでも似た動きが出ている。
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