「パワハラ」に負けるな |
職場での嫌がらせに悩む男性へ(2002.12.12 朝日新聞) |
みんなの前で怒鳴りつけたり、メールでしつこく何度も命令したり−−。上司の嫌がらせに、男性たちが「ノー」の声を上げ始めている。
パワーハラスメント(Power harassment=職務権限を使った嫌がらせ)、略して「パワハラ」。
電話とインターネットで無料の相談を受け付けた会社の電話はパンク状態になった。
深刻な不況の中で、サラリーマンたちを「パワハラ」という影が覆い始めている。
「駆けずり回って、おれはネズミみたいだと思ったら涙が出た」
職場の嫌がらせの無料相談に、つらさをファックスで送った営業マンは40代前半。
十数年前、神奈川県の会社に就職した。
上司は5歳ほど上、創業家の出身だ。
この上司から「報告が気に食わない」と同僚たちの前で怒鳴られたり、無視されたりといった嫌がらせを受け続けているという。
車を運転しながら泣いたことも。
ノルマをこなそうと昼休みも取らず、昼食はいつもコンビニのパン。
朝8時から得意先回りを始め、次の顧客へ車を走らせながら、片手で食べられるからだ。
「このまま上司の奴隷で終わるのか、と惨めさで一杯になる」
転職も考えたが、子どものことを思うと踏み切れない。
親と同居したいと購入した家のローンも20年以上残る。
ローンがなくなれば会社を辞められると宝くじに毎月5万円もつぎ込んだ。
不眠に悩まされ、自殺を考えるまでになった。
今年9月、心療内科に駆け込むと、うつ病との診断。
現在、抗うつ剤を飲みながら仕事を続けている。
いつか勇気を出して上司と向き合えたらと思う。
「自分が部下を傷つけていると、上司に気づいて欲しい」と話す。
「職場で嫌がらせを受けた、と訴える男性が増えている。」企業のセクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)防止講習などを請け負う「クオレ・シー・キューブ」の岡田康子社長(48)は言う。
3年ほど前から「女性はセクハラから守られるのに、僕たちは嫌がらせを受けても守ってくれない。」と講習先の男性社員が相談や電話をかけてくるようになった。
終身雇用制が崩れ、会社への忠誠心が薄い20〜30代が中心。
「会社は一生勤め上げるもの」と考え、耐えていた男性たちが変わってきたという。
職場の嫌がらせを「パワー・ハラスメント」と名付け、昨秋初めて、電話とネットで相談や意見を募ると男性から60件の声が寄せられた。
今年も電話やネットによる相談で、男性からの訴えはすでに約50件、内訳は30代が4割でトップ、続いて20代、40代が2割で続く。
業績が厳しく、重圧にさらされた上司が部下をはけ口にする傾向が強まっているらしい。
だが、今回の相談でも、仕事に厳しいのをいじめと思い悩んだり、できないと言えず悩むケースが20代の男性で目立つ。
「心に傷を負う前に、嫌なら嫌と言っても良いんです。」と岡田社長はアドバイスする。
ストレス疾患専門病棟のある不知火病院(福岡)の徳永雄一郎院長(54)の話
不況で人が減り、仕事量は増え、上司自身もリストラが不安。
ここまで余裕がなくなると原始的な攻撃衝動が出やすくなるので、弱い部下への嫌がらせも起きてくる。
さらに、職場でストレスをためた夫は妻にあたり、妻は虐待や過干渉の影響で子供に当たる。
それが学校のいじめや社会的な事件になり、また職場にはねかえる。
まさにいじめ社会で、会社や日本全体の活力も低下させ、精神不況状態にしている。
この悪循環を断ち切るには、みんながゆとりを持つことだ。