刑務所がパンクする−収容率が5年で83%から110%へ
(AERA 2002年4月8日号 by 外山ひとみ)

「暴動が起こってもおかしくない。」そんな悲鳴が刑務官から漏れる。トイレ、集会所を改築した雑居房も。一方で、行革で職員は減っている。


築33年の川越少年刑務所では、「2名独居」という耳慣れない言葉に出あった。
独居房なのに、2人を収容するのだという。収容人員が1,300人を超えた2001年3月に、開放独居に2段ベッドを入れて2人使用を試行してみることにしたのだと教えてくれた。

■独居房に2段ベッド

釈放前教育を受ける者や1級と呼ばれる成績のよい者は、ドアにカギのない開放独居房に収容され、その房は60あった。このうち13室に2段ベッドをいれて、13人増とした。
「40度以上もあって蒸し暑くて、寝返りの音が気になって眠れなかったです」
こう苦笑いをする24歳のA君が、「2名独居」のベッドの上段に移動したのは2001年7月。
最初からうだるような暑さが続いた。冷房設備などなく、最上階の居室は直射日光がガンガン照り付ける。
狭い独居房の室温は40度を超えて、天井に近いA君の場所はむせかえるようだった。
4年の刑務所経験があるとはいえ、初めての「2名独居」生活。
自分が寝返りを打つたびにギシギシときしむベッドの音。
下に眠る同居者が気を損ねないかと思うと、朝方まで眠れなかった。
シーツは汗でぐっしょりとぬれて、寝不足のうえに背中にはあせもまでができる。
それが9月半ばまで続いたのがつらかったのだそうだ。

■過剰収容に次々対応

非行問題を追い続ける私が、刑務所取材を始めてすでに10年が経つ。
最近、よく耳にするのが「過剰収容」という言葉だ。どこの刑務所も定員を大きく上回っているというのだ。
数字にも明らかだ。日本全国の67の刑務所(成人男子と女子の刑務所、少年刑務所)の定員は約5万人。
これに対して、受刑者は1996年末には40,413人、全国平均の収容率が83%だったのが、2001年12月末現在には53,646人、収容率は110%。収容率のトップは静岡、新潟の両刑務所の134%。
「受刑者の更生」という目的からは、収容率80%が適切とされるが、現実は大きく逸脱している。

閑静な住宅街にある横浜刑務所(横浜市港南区、収容人員1340人、収容率約112%)。重々しい三重扉の内側で2001年10月にあった運動会を取材した。
1周180メートルのグラウンド。約1千人が所内の17工場別に分かれ、それぞれ席に着くとぎっしり満杯状態だ。
工場別対抗運動会は、24ヶ国の外国人受刑者260人も参加。日本語と英語、中国語という3ヶ国語の実況中継のなかで、運動会はにぎにぎしかった。

しかし、刑務官らの表情は硬かった。受刑者が席からちょっとでも立ち上がると同時に「座れ!」の大声が飛び交った。
運動会参加者は約1千人で、前年より200人増えた。運動会5日前、総務部長の矢野喜郎さんは、心配顔でこう語った。
「『重刑者の収容率が120%を超えると暴動が起こる』とアメリカではいわれますが、ここでもありうると危険を感ずる。運動会も十分警戒します。」

横浜刑務所では過剰収容に対応する工夫が様々あった。
倉庫にトイレと水道を取り付けて、工場に改造していた。居室も同様で、2001年の夏からは6人雑居房には8人が暮らしている。部屋の両壁に木製ベッド2台を初めて置いたのだ。

法務省は急激に収容率が増大した要因を

  1. 犯罪の凶悪化、被害者感情への配慮による刑期の長期化
  2. 薬物関連事件の重罰化
  3. 外国人の犯罪の増加

などをあげる。
外国人受刑者については、かつては東京の府中刑務所に限られていたが、1996年に抱えきれなくなり、西は大阪、1998年には横浜も受け入れることになった。 

「最初は日本語での日常生活には困らない受刑者のみという受け入れだったはずが、あっという間に急増した」と横浜刑務所の担当官は話す。
日本語での意思疎通がスムーズではない外国人受刑者への対応には障害が多い。
外国人と日本人受刑者との確執もおこって、刑務官も受刑者もストレスがたまる。
「寝ているときに足を踏まれた」「食堂で肩が触れた」などささいなことでけんかになり懲罰も増え、するとまた職員の仕事が増えるという悪循環に陥った。

■「心情の安定」要素も

以前に取材で2度訪ねたことある栃木の女子刑務所にも足を運んだ。現員が558人で収容率は約125%。
前に訪ねた時は、過剰収容などということばも皆無で、食堂でも収容者は整然と並んで食事をとっていた。
ところが今回は足の踏み場もなくぎっしり360人で食堂の収容率も120%を超える過密状況だった。
そのため配置しきれないテーブルは壁面にくっつけられ、受刑者は壁に向かって食事をしていた。
現在は中庭の花壇をつぶしてまもなく大食堂が完成する予定とのことだが、この花壇に十数年も毎日水をやり続けた60代の受刑者は、「花が生きることを教えてくれたんです」 と涙した。
「花壇をなくすことは、受刑者の「心情の安定」のための要素が減退することですが、それも仕方がない切迫した状況なのです」
処遇部長の福地美恵子さんは残念そうに話した。
全国で女子刑務所は札幌支所を含めて6カ所あるが、九州の麓(ふもと)刑務所の収容率131%を筆頭に全国平均で122%だ。

■懲罰件数との因果関係

冒頭の川越少年刑務所の「2名独居」は議論の的になっている。
横浜刑務所側は、「独居を2人で使うことには異論があるから、うちでは試みるつもりはない」と言った。
川越刑務所でも処遇部長の大森正さんは、「もちろん独居房での2名拘禁には問題がある」と認める。
そのうえで、「しかし、限られた収容能力のなかで、要請があれば受刑者を入れざるを得ないのが刑務所の使命。非常時にあっての切迫した試行なのです」と語ってくれた。
過剰収容におけるストレスは受刑者の収容率にスライドしていくようで、それはケンカなどの規律違反をした懲罰件数からも判断できた。
川越少年刑務所の場合、態罰件数は、収容率101%だった2000年末に比べて、2001年末(収容率111%)は約2割増だった。

■1人で700人を担当

しかし、一方で、刑務所の職員数は、この行革のおり、減らされる方向にある。
受刑者が急増した2000年末には22人が減員。2001年には142人が削減される予定だった。これには現場などから「とてもやっていけない」との声があがり、増員申請をすると、削減数はようやく98人にとどまった。
「怖いと考えている暇がないほど、常に緊張しています」
183センチで120キロ、柔道3段の巨漢である横浜刑務所の刑務官の足立和俊さん(26)は、夜勤の時は約700人をひとりで担当し、15分に1回それぞれの房を巡回する。
人員削減前は2人で回っていたこともあるそうだが、現在の強い味方は非常ベルと無線で、とっさの場合は自分ひとりが対応せざるをえない。
「過剰収容になってからも、職員は逆に減らされているのが実情です。刑務所は24時間365日の矯正の現場。予算はもちろん、職員も10人単位で増やしてほしい」
前述の川越少年刑務所処遇部長の大森さんの言葉は、ほかの施設も同様だった。


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