外務省海外安全情報の提供について思う。

政府は、海外危険情報(Travel Warning)の提供の方法を数値型から記述式に変更した。
政府当局者が意図するところは、数値を盲目(uncritically)に信じるのなく、自己責任で渡航先の安全度を判断して欲しいとのことらしい。
ただ、記述化された外務省の安全情報から自分自身の目的地の危険度判定を各旅行者(社)がせざるを得ないのだから、この政策の変更は反響を呼ぶことだろう。
もちろん、この政策の変更は一概に批判できないが、国民に活字離れの傾向がある日本で、記述化された情報から危険度を判断できる人がどれだけいるのだろうか?
特に、情報に権威を求める傾向があり、横並びメンタリティ(A sense on the same label with in the same trade)のある日本人の場合、「政府が言っている。」というのは子供に対する親の命令に等しい響きを持つことがある。
従って、悪名高い行政指導によってしばしば画一的な日本人の行動がもたらされるのである。
つまり、日本人の多くは「個別に自主的に判断しろ!」と言われるのが苦痛かもしれないのだ。
しかし、面倒くさがって情報を得ようとすらしなければ、2002年4月17日に激戦中のベツレヘム(Bethlehem)を訪れた日本人カップルのようになる(英語)ということは覚えておいた方がいいだろう。

政府の政策の変更にかかわらず、「日本人特有の他人依存型のメンタリティ(甘え)を改めなければどっちのやり方でも結果は同じだ。」と私は思う。
元グリーンベレー(Green Berets=米軍特殊部隊)の柘植久慶(つげ ひさよし)氏もこう言っている。
「日本人は他人に完璧を求める傾向があり、すごく気になる。」と・・・
さらに、「日本人は有能な人間が少しでも落ち目になると、その人を袋叩きにする傾向がある。また、たった1度失敗しただけで、その人の過去の功績をも他人から評価されなくなる。」と・・・

よく新聞は言っている。
「政府の役人も政治家も銀行員も自己保身のことしか考えない。」と・・・
しかし、1回の失敗ですべてを失うリスクがあれば、彼らがどうするかわかるだろう。
当り障りのない(noncommittal)ことしか公式には発表されないし、政策として実行されないだろう。
つまり、今回の政策の転換は外国の危険度を評価する任務を外務省から旅行会社に移転するものだろう。
旅行会社は外務省の代わりにリスクを渋々引き受けるかもしれないが、おそらく旅行会社が取る手段は、外務省のサイトの情報を印刷して旅行者に流すだけだろう。
外務省や旅行会社を非難するのは簡単かもしれない。
でもリスクを冒して失敗すればすべてを失うと思えば誰もそんなことはしない。
たとえ成功しても必ずしも高額な報償を受け取れるわけではないし、受け取ったとしても税金をたくさん取られる。
これらのことは極論すれば日本経済が回復しない原因と私は確信している。
因果応報(Their own knavery will pay them home at length.)、この言葉が今の日本には一番ふさわしい言葉かもしれない。


Travel warnings to be descriptive (2002.4.24 Japan Times)
(記述方式に変わる海外危険度情報)

The Foreign Ministry will scrap its numerical travel warning system beginning Friday and instead try to describe the level of risk Japanese travelers face when going overseas. (see also here)
The government's current travel warnings are based on five levels from 1 for "caution" to 5 for "evacuation advised," with detailed safety information following each number.
Under a level 2 warning, travel agencies are advised to cancel all group tours and all holiday trips should be postponed.
外務省は金曜日(2002年4月26日)から数値化された危険度情報提供制度を廃止にして、そしてその代わりに日本の旅行者が海外に行くとき直面する危険のレベルを記述式にしようとする予定だ。
政府の現在の旅行警告は、レベル1の「注意喚起」から5の「退避勧告」という数値に基づくもので、詳細な安全情報はそれに付随するものである。
レベル2より低い警告があると、旅行代理店はすべてのグループ旅行をキャンセルするように助言され、そしてすべての観光旅行は延期されるべきであると、されてしまうのである。

But after Sept. 11, Japan began to be criticized by the travel industry and other countries for raising warning levels on many destinations, leading to sharp drop-offs in the number of Japanese tourists, ministry officials said Tuesday.
Some local governments have even threatened to retaliate by boycotting Japanese products.
けれども(米中枢テロ事件のあった)9月11日の後に、日本は自国の旅行業者と外国から、多くの目的地の危険度レベルを引き上げたことが日本人観光客の急減を招いたとして批判され始めた、と外務報道官は火曜日(2002年4月23日)に言った。
いくつかの(外国の)地方自治体は日本製品をボイコットすることによって報復をするとさえ脅しつづけている。

Under the new system, travel warnings will be issued in four levels defined by phrases: "Please be cautious," "Please reconsider your trip," "You are advised to postpone your trip," and "You are urged to leave the country "
The warnings will emphasize the importance of individuals securing their own safety and add a disclaimer saying that the government's recommendations have no legal force and should merely be used as information for making decisions on self-protection.
Thus, the decision on whether to organize group tours will be left to each travel agency, the officials said.
"We hope the new information will help citizens make their own judgment about traveling and become aware of possible dangers at each destination," a ministry official said.
新しいシステムのもとで、海外危険情報はキャッチフレーズによって定義された4つのレベルで公表されるであろう。
つまり、「どうか用心深くしてください。」、「どうかあなたの旅行を再考してください。」、「あなたの旅行は延期するようにアドバイスします。」と「あなたはその国を去るようにお勧めします。」の4つだ。
その政府の危険度情報は自分自身の安全を自分で守る重要性を強調するだろう。
それに加えて、政府の勧告は法律上の力を持たなくて、ただ単に自らの身を守るための情報として使われるだけに過ぎない、と断り書きがされるだろう。
従って、パックツアーを催行するかしないかの決定は、それぞれの旅行代理店に任せられるであろう、そして、「我々は新しい情報が国民が旅行する際に自らの判断基準となり、そしてそれぞれの目的地において起こり得る危険に気付くのに役立つと思っている。」と外務報道官は言った。


海外渡航はあなたの責任で(2001.12.4 産経新聞)
−外務省 危険度廃止を検討−

外務省は3日、海外各国・地域のテロや内乱、治安についての情報を提供し、注意を呼びかける「海外危険情報」の制度を見直す方針を固めた。
危険の大きさを5段階で数値化してきた「危険度」については廃止を検討する。
「危険度」が旅行会社のツアー募集や民間会社の社員、日本人学校教師の派遣などの基準数値として利用されるようになり、最近では9月11日の米中枢テロ以降、中東地域を中心に危険度が軒並み上がる中、営業悪化を懸念する旅行会社を中心に危険度の緩和や強化などの要望を出す事態になっている。
同省では「海外渡航をするしないの最終判断は各個人、法人の判断で行うものだ」(同)として、「危険度」を廃止する代わりに現地情報を詳細に発表する案を軸に新制度のあり方を検討、アフガニスタン情勢が落ち着くのを機に、切り替える方針だ。
ただ、同省の方針について、早くも関係業界などから「邦人保護を任務とする外務省の責任逃れだ」との不満も出ている。


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