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1月31日(土)−語学の勉強に旅行ガイドはいかが

海外旅行へ行ったときは、フルパッケージのツアーでもなければ、いやでも外国語を使わざるを得なくなる。
ところが、海外に行っているときは「英語で雑談できるようになればいいな、よし、帰国したらもう一度勉強しよう」と意気込んでいても、帰国して1ヶ月もすればそんな気は全くと言っていいほど失せる。
外資系企業の社員ならいざ知らず、多くの人は「普段は外国語なんて使わない」からだ。

そこでいいと思うのが外国語版の日本観光ガイドだ。
主要国の空港の売店はもとより、日本でも洋書コーナーに行けば売っている。
私がそんなものを買ったきっかけは自分のウェブサイトの英語版を作るのにどういう言い回しをしているのか学びたかったからだ。
それに、訳や言い回しがわからなくても、国内の観光地だからネットや図書館でガイドを見れば理解できるので、もどかしさをそれほど感じないで済むからだ。

例えば、東京から箱根へ行くときの方法で The Odakyu line, running from Shinjuku station, is the most convenient way to start a Hakone trip. Any of its trains can be taken as far as Odawara: 70 minutes for the Romance Car train, while the local and express Odakyu trains take 110 and 75 minutes.(新宿から出る小田急線は箱根旅行を始めるのに最も便利な方法である。小田原までならどの列車も利用できる。ロマンスカーは70分、普通列車は110分、急行は75分である。)と書かれている。
この例文だと英文から和訳は簡単だが、この日本語を英語にしようとするとちょっと難しい。
従って、自分で似たようなものを英訳するときは、これをアレンジして使えばいいというわけだ。
もっとも、外国人に駅などで聞かれたときは、Youを主語にしてもっと簡単な言い回しで言えるが、構文を知っていればオドオドしなくて済む。
それでも書くのと話すのでは違うのだけどね。(苦笑)

そして、今度ミシュラン(Michelin)が「ギド・ベール(緑のガイド)」(Le Guide Vert)の日本編(フランス語)を出すらしい。
もしフランス語圏へ留学とか旅行などで行く人、フランス人の友人がいる人などは、これを元に話題作りをするのもいい。
まして自分の出身地のことが掲載されているなら勉強にも身が入るだろう。
9月には英語版も出るようなので、一つ買ってみようかとも思う。
内容としては、ときおりNewsweek Japanで外国人から見た日本という類の特集がされるが、こちらも同じようなものらしい。
日本人とフランス人では価値観が違うので、そこへ行ってみてつまらないと思うかもしれないが、外国人から見た魅力ある日本の光景を楽しむのも悪くない。

旅行ミシュラン日本編、三つ星は17 仏語版を3月発売
(2009.1.31 朝日新聞)
仏タイヤ大手のミシュランが3月、旅行案内の伝統シリーズ「ギド・ベール(緑のガイド)」日本編(仏語)を初めて発行する。
全国約200カ所が評価対象になり、優れた観光地には星がつけられた。
フランス人の目から見た評価ではあるが、レストランガイド同様、世界の旅行者が日本の旅の参考にする。さて、三つ星は−。

■高尾山再び

最高の三つ星がついたのは計17カ所。この格付けは、ミシュランが「フランス人がわざわざ足を運ぶ価値がある」と推奨する場所だ。
京都、奈良、姫路城などの定番観光地だけでなく、富山・五箇山(ごかやま)や石垣島・川平(かびら)湾といった通好みの場所も選ばれた。
「日本の魅力を実感できるところを選びました」とアンヌ・テフォ編集長(48)は語る。

ガイド執筆陣は日仏の12人。
ミシュラン本社の編集者と日本在住の仏人スタッフが1年かけて日本の全地方の200カ所余りを訪ねた。
それぞれに九つの項目の評価を総合判断し、編集者が格付けを決定した。次の1〜9が評価項目だ。
  1. 印象深さ。和歌山県の高野山はこの項目で高い評価を得て、三つ星獲得。「浮世と全く違う時間が流れている。森の中を行くと伽藍(がらん)が現れる。西洋人にとってまさに神秘的」と編集者のカトリーヌ・ゲガンさん(43)。
  2. 知名度。東京が代表例だ。「この街の重要性に異論はありませんから」
  3. 遺産的豊かさ。典型は京都。
  4. すでにある名声。例えば世界遺産。ただ、必ず高い評価がつくとは限らない。
  5. 歴史的遺産価値。奈良など日本の歴史上重要な場所。
  6. 美しさ。屋久島が一例だという。「野生の植物がこれほど素晴らしい島は少ない」
  7. 真正さ。
  8. アクセスのよさなど諸要素。
  9. もてなしの質。
ミシュランは2007年、簡易版ガイド「ボワイヤジェ・プラティック」日本編を発行し、そこでも各地の観光地を格付けした。
その際、東京近郊の高尾山を三つ星評価。「あの週末ハイキングの山が世界的な観光地なのか」と国内で論議を呼んだ。
その高尾山、今回も再び三つ星を得た。
簡易版の編集にも参加したテフォ編集長は「また議論が起きるのは覚悟のうえです」と苦笑する。
今回、再び現地を訪ね、検討した。結果は「やはり三つ星に値する」。
都市に近いのにありのままの自然を楽しめる。「遠くに見える富士山は本当に美しかった」。

簡易ガイドよりも評価を上げた観光地は少なくない。
東京都内では、二つ星だった東京国立博物館が三つ星に。調査の結果、収蔵品の質を見直したという。

■フランス人の目で

逆に、日本人には人気でも星なし評価の観光地も。
若い女性に人気の函館。「欧米人はやはり、北海道には大自然を期待しますから」。
ガイドはあくまで、フランス人の目で見た評価なのだ。「フランスに来る日本人も、私たちにとっては平凡なものにしばしば感動しています」

フランス人にとって日本は「遠い、物価が高い、言葉が通じない」というイメージがあって旅行先としての認知度は低く、ガイド本も少なかった。
しかし、和食ブームや漫画・アニメの人気を通じて近年、関心が高まってきたことがガイド発行の背景にある。

外国旅行者を増やしたい日本政府観光局(JNTO)も後押しをした。
日本は、2010年に日本への外国人旅行者数を1千万人にまで増やす目標を掲げている。
昨年は約835万人(推計)。現在年間約15万人の仏からの旅行者を増やすため、JNTOは仏語版日本ガイドの発行を出版各社に働きかけた。
長谷川豊JNTOパリ事務所長は、今回のガイドによって「東京と京都ばかりだった外国人旅行者を地方に呼び込む効果」を期待する。
緑のガイド日本編は、3月16日に初版約1万部が、フランスを中心に欧州で売り出される。9月には英語版も。
ホテルやレストラン350軒以上を料金付きで紹介し、礼儀作法の基本や温泉の入り方なども解説した。
固有名詞は漢字でも記載。2年ごとに改訂するという。

1月25日(日)−オバマ大統領就任

去る20日、第44代アメリカ合衆国大統領に民主党のバラク・オバマ(Barack Obama)氏が就任した。
聴衆を魅了する演説の巧みさは、ケネディ(John F Kennedy)の再来とも言われ、 彼の就任演説(inauguration address)を聞くために集まった人は200万人を超えたと言う。
凄いことだと思う。
果たして世界の指導者で、自らの演説を聞いてもらうためにこれだけの聴衆を集めることができる人は何人いるのか。
しかもこの数字は秘密警察の監視下にある独裁国家のものではなく、自発的意思でもって寒風が吹きすさむワシントンに集まった人の数だ。

深刻な金融危機下にあって彼の演説は「もしかして」を思い起こさせるインパクトを持っている。
彼の演説を聞いていて、たとえ英語が不得手で言っていることがわからなくても何かをやってくれるのではないかという期待感を感じさせる話し方だ。
現実には彼だけの活躍で今の経済情勢を好転させられるはずがないのだが、彼の演説が米国民に再起のために団結しようという気持ちを持たせることはできる。
それが就任演説会場に200万人もの聴衆を集める原動力となり、就任直後のギャラップ社の世論調査で68%もの高い支持率をはじき出したことは想像に難くない。

These are the indicators of crisis, subject to data and statistics. Less measurable but no less profound is a sapping of confidence across our land - a nagging fear that America's decline is inevitable, that the next generation must lower its sights.
Today I say to you that the challenges we face are real. They are serious and they are many. They will not be met easily or in a short span of time. But know this, America - they will be met.
On this day, we gather because we have chosen hope over fear, unity of purpose over conflict and discord.
On this day, we come to proclaim an end to the petty grievances and false promises, the recriminations and worn-out dogmas, that for far too long have strangled our politics.

これらは、データと統計で示される危機の指標だ。
測定はより困難だが同様に深刻なのは、米全土に広がる自信の喪失だ。
それは、米国の衰退が不可避で、次の世代は目標を下けなければいけないという、つきまとう恐怖だ。
これらの難問は現実のものだ。深刻で数も多い。短期間で簡単には対処できない。
しかし、アメリカよ、それは解決できる。
今日、私たちは恐怖より希望を、対立と不和より目的を共有することを選び、ここに集まった。
今日、私たちは長らく我が国の政治の首を絞めてきた、狭量な不満や口約束、批判や古びた教義を終わらせると宜言する。

しかし、米国の基幹産業である金融業が、自業自得という側面も大きいが、大打撃を蒙ったという事実はオバマ大統領が就任したからといって変わるものではない。
従って、もう一つの基幹産業である軍需産業が米国経済の牽引役となることが密かに期待される。
つまり、大統領がブッシュからオバマに変わったとしてもこれだけは変わらない。
オバマ大統領は1月8日、American Recovery and Reinvestment Plan(アメリカの再生及び再投資計画)という演説の中でThe creation of a clean energy economy(クリーンエネルギー経済の創設)により新しい雇用を生み出す(グリーン・ニューディール政策)としているが、元祖ニューディール政策が行われた1930年代も、直後に起きた第二次世界大戦の軍需がなければ、アメリカ経済は回復できなかったという評価もある。
もしもこの説が正しいとするのなら、ブッシュ政権最後に起こった、やらせのようなイスラエルのガザ空爆によって火種を残した中東戦争の危機はオバマ政権下でもなくなることはないだろう。

We will not apologize for our way of life, nor will we waver in its defense, and for those who seek to advance their aims by inducing terror and slaughtering innocents, we say to you now that our spirit is stronger and cannot be broken; you cannot outlast us, and we will defeat you.

私たちは、私たちの生き方を曲げることはなく、それを守ることに迷いもしない。
自分たちの目的を進めるためにテロを引き起こし、罪のない人々を虐殺しようとする者に対し、私たちは言おう。
いま私たちの精神は一層強固であり、くじけることはない。
先に倒れるのは君たちだ。私たちは君たちを打ち負かす。

そう、このセリフと似たようなことはブッシュ前大統領もたびたび言っていた。
違うのはオバマ大統領が、国防について安全と理想の二者択一を偽りだと拒絶する(We reject as false the choice between our safety and our ideals.)と言ったことだ。
おそらく、ブッシュ前大統領のように「旗幟を鮮明にしろ(Show the flag!)」とは言わなくなるし、屁理屈をこねて自ら戦争を始める危険性は少ないだろう。
ただ不気味なのはロシアのメドベージェフ(Medvedev)大統領が、昨年夏のグルジア侵攻を非難されて言ったWe are not afraid of anything, including the prospect of a new Cold War.(我々は冷戦の可能性も含めて何をも恐れない)という言葉だ。
オバマ大統領が就任しても世界は何も変わらないどころか、もっと酷くなる、ということも十分に考えられる。
田中宇氏の原油安に窮するロシアというコラムはその前兆を表しているのかもしれない。

関連サイト


1月14日(水)−麻生内閣が定額給付金にこだわる本当の理由とは

麻生内閣が提出した2兆円の定額給付金を盛り込んだ2008年度第二次補正予算案が昨夜衆議院を通過した。
本会議に先立つ予算委員会で、定額給付金を補正予算案から切り離す野党修正案を否決し、世論調査によれば、多くの国民が「こんなことに金を使わず、雇用対策や社会保障に回せ」と言っているのを無視して予算原案のまま採決を強行した理由は何か。
単なる麻生内閣のメンツなのか、と思いきや、本音が元自民党幹事長の加藤紘一氏から出てきた。

給付金「選挙で公明党のお世話になるから賛成」と加藤氏
(2009.1.10 朝日新聞)
自民党の加藤紘一元幹事長は10日、山形県鶴岡市で講演し、定額給付金について「あまり出来がよくない制度というのが7、8割の自民党議員の心だが、近々総選挙で(制度を提案した)公明党にお世話になるから賛成する」と指摘した。
13日に衆院本会議で採決される見通しの定額給付金を含む第2次補正予算案と関連法案については「自分も含めて自民党からそんなに造反は出ないだろう」と述べ、反対に回ることを示唆している渡辺喜美元行革担当相に同調する動きは広がらないとの見方を示した。
また、加藤氏は「公明党も考え抜かないで提案した。今回はみな賛成するが、今後自民党執行部に公明党と話し合ってほしい」とも述べ、定額給付金にからむ部分について参院での修正を検討すべきだとの考えを示した。

「あまり出来がよくない制度というのが7、8割の自民党議員の心だが、近々総選挙で(制度を提案した)公明党にお世話になるから賛成する」
本当にこんなことで2兆円もの歳出予算が可決されるのか。
いい加減にしろと言いたい。
本当の意味での景気・雇用対策だったら、地デジ対応(2011年7月24日でアナログ放送終了)のためにチューナーを政府が買い上げて全家庭に配った方が、少なくとも家電業界は潤うとは思うが、そういうことは誰も言わないのだろうか。

生活困窮者対策と言いながら評判のよくない定額給付金、それもそのはず、今の生活困窮者はネットカフェに寝泊りする人のように、住民票のある場所と生活の本拠が違っていることが多いのだから、彼らは受給対象者から漏れるのだ。
そして、受給するために住民票のある自治体へ行こうとすれば赤字になる。
それでは誰のための給付金か。
加藤氏が言うように公明党員に対する選挙協力費というのが政府・自民党の本音なのか。
そして、この加藤発言をメディアが大きく取り上げないばかりか、1週間も経たないうちに記事をウェブ上から削除したところすらあるというのはどういうことなのか。


1月12日(祝)−吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質」を読んでみた

吉田繁治著「ゴールドと通貨の本質 - ビジネス知識源セレクション」年末から読み始めた吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質 - ビジネス知識源セレクション」(1050円:税込み)をようやく読み終えた。
彼の有料メールマガジン『ビジネス知識源プレミアム』は、「まぐまぐ大賞2008」で総合1位になっただけあって、私の読んだ「ゴールドと通貨の本質(『ビジネス知識源プレミアム』2008年7月23日号、8月6日号、8月13日号、8月20日号、8月27日号を再構成したもの)」は非常に読み応えのあるものだった。

その中で興味深い記述がある。
「1974年に設立された金(gold)の先物取引所(COMEX=Commodity Exchange)は、米政府が金(gold)を下落させるためのものだった」というところだ。
当時の時代背景としては、1971年8月15日にアメリカが、ドルと金の交換を停止(ニクソンショック)し、ブレトンウッズ体制(Bretton Woods system)が終わりを告げ、1973年3月までに主要各国は変動為替相場に移行したときだ。
これにより、米ドルは下落し、市場のゴールドは上がり、貿易黒字国だったドイツマルクと円は高騰した。

吉田氏は、このときの金価格の高騰を、1トロイオンスでUS$75(約2倍)になったというより、米ドルの価値が半値以下になったと解釈する。
事実、ドル及びドルにリンクした世界の通貨の、実質価値(商品購買力)の下落を見て、OPEC (Organization of the Petroleum Exporting Countries)(石油輸出国機構)は、原油を1バーレルをUS$10(約4倍)に上げ、第一次石油ショックが西側諸国を襲った。
ソ連圏を除く、自由主義経済圏の原油はドル価格で取引されていたため、そのドルの価値が下落するから、原油が上がる。
こうした単純なことだったと吉田氏は言う。
ちなみに、彼は2000年代の資源価格高騰も、このときと同じようにドル安が原因だと言う。
このことは反米で知られるイランのアフマディネジャド(Ahmadinejad)大統領も、原油価格が史上最高値を付けた昨年7月15日、「オイルは十分にあり、今の価格は完全に見せかけである(The oil market is plentifully supplied and the rally to record high prices is "fake and imposed", Iran's president said on Tuesday, blaming a weak U.S. dollar which he suggested was being pushed lower on purpose.)」と言い、これは役立たずな紙切れ(worthless piece of paper)と彼が呼ぶ、弱い米ドルのせいであると述べている。(Khaleej Times Online - Market full of oil, price trend fake)

ここで、金本位を停止した1970年代の米国政府は、世界に向かい「反ゴールド・キャンペーン」を行ったと吉田氏は言う。
このキャンペーンの趣旨は「ドルのほうが金より強く、政府が管理するペーパー・マネーがゴールドより価値がある」というもので、その一環として、金(gold)の先物取引所(COMEX=Commodity Exchange)が作られ、ここで米財務省が現物と先物を売ることによって、金価格が下落するように仕向けたという。
しかし、現実には米国の反ゴールドキャンペーンにもかかわらず、1980年(第二次オイルショック:イランの王政廃止の革命:原油価格は4倍に上昇)の、1トロイオンスUS$860(1グラムで当時の円で6495円=最高値)に向かい急騰した。

私の認識では、投資市場ができたり、金融商品が開発されたりするのは、ベースとなる商品価格を上げやすくするために、要はファンドが設定されれば組み入れ株式の価格が上がるように、するためとばかり思っていたが、こと金(gold)に関しては売りを行うために市場の整備が行われたとは意外であった。
しかし、米国が人為的な意図をもってしても、金(gold)の価格が思うようにならなかったというのは歴史が証明しているところでもある。
だからインサイダーに近い欧米の機関投資家であっても思わぬ損をすることがあるのだろう。

その後の20年余り、金(gold)の価格は低迷し、代わって上昇したのが米国株だった。
吉田氏は1990年代、米国が不換紙幣(fiat money=金と交換できない紙幣)を増刷したにもかかわらず、金(gold)の価格が低迷した理由をこう言っている。

  1. スイスの銀行が、低迷する金を投資のポートフォリオからはずしたこと。
  2. 世界中から米国株への投資が行われたこと。
  3. 各国中央銀行は、米国の呼びかけに応じ、金を放出したこと。
  4. 若い世代は、金はもう古いとして、株を買ったこと。
  5. 1980年代に、金産出に技術革新が起こり、世界の宝飾需要を十分にまかなえるようになったこと。

また、ソ連の崩壊によって、東欧と中国を含む旧共産圏の安価な労働力が、欧米諸国へ流れ込んだために、これらの国々では景気拡大期でも物価上昇は抑えられ、アメリカではニューエコノミー(生産性の上昇によって、米国経済はインフレなき長期景気拡大が実現したとする考え方)なる経済理論が台頭し、従来型の景気循環はなくなったと言われた。
そのような意味不明なこじ付けの経済理論が出たとき、ナスダック(NASDAQ)のITバブルが弾け、911やエンロン事件を経て、米国株が下落の一途を辿ったのは記憶に新しいところだろう。

さらに吉田氏は言う。
米国が金ドルの交換を停止した1971年以降、世界の中央銀行は、政府信用を裏付けにしたペーパー・マネーの発行機関に転じたが、本当のところは、米国が、1トロイオンスがUS$35で交換されるゴールドの流失を恐れ、金ドル交換停止を発動した。
流出を恐れる理由は、金に価値があることを、FRBが知っているからで、金に価値がないなら、米国からの流出を恐れる必要はないはずである。
しかし、世界が、ペーパー・マネーのドルより金に価値があるとすれば、ドルが暴落し、金が上がり、これは、ペーパー・マネーやドル証券を海外に売る米国にとって困る。
従って金の価値を下落させるように仕向けなければならない、というのが国策であった。

この金に価値があることをFRBが知っているとの象徴的な議会証言が、前FRB議長であるアラン・グリーンスパン(Alan Greenspan)の1999年5月の下院銀行委員会(House Committee on Banking)(現在は下院金融委員会)の発言である。
彼は言う。
"Gold still represents the ultimate form of payment in the world. Gold is always accepted and is perceived to be an element of stability in the currency and the ultimate value of a currency.(金は未だに世界中で究極の支払い手段とされている。金は常に受け取られるし、貨幣の根本的な価値と不変の要素を認められている)"

また、1998年10月21日号のNewsweek Japanにはこんな記事も掲載されていた。

金への投資はちょっと待て
リチャード・ヴェルナー(Richard A. Werner)
金融システムへの不安が広がるなか、再び金に注目が集まっている。
だが金を取り巻く市場の状況は以前と同じではない。

中央銀行の「商品」である紙幣の代わりになる金は、いわば競争相手だ。
しかも紙幣なら、供給量や価値、配分まで自分たちで直接コントロールできるが、金には彼らの支配は及ばない。
そうなると、中央銀行が競争相手である金の人気を下げるあらゆる手段を講じたとしても、なんの不思議もない。
その手段の1つは、金が安定した財産であるという人々の信頼を損なうことだが、これは金の価格を下落させれば可能になる。
そして、これこそが中央銀行の狙いなのだ。
いま金に投資するのは危険だ。
だが、金を投資の対象からはずすべきだというのには、もっと身近な理由もある。
世界的規模の金融崩壊というシナリオの前提には、日本経済の破滅があるが、そんなことはまず起きない。
日本銀行が通貨供給量を増やしているおかげで、日本経済は来年には回復するだろう。
円相場も上昇し、崩壊の危機は薄れつつある。
安定した資産を求めるなら、日本の不動産を購入したほうがいい。
株より安全な自分の土地の上にいれば、まくらを高くして眠れるだろうから。

著者はプロフィット・リサーチ・センター(Profit Research Center)のチーフエコノミスト

それでは、どうやって金(gold)の価格を下落させたかというと、吉田氏は「金リース」という制度が大きな役割を担ったと言う。
この制度は、中央銀行が金利1%〜2%という低利でゴールドを金融機関にリースするもので、欧米の金融機関は、中央銀行から借りた金に、1%から2%の金利を払い、この金を金鉱山にリース料3%〜4%を上乗せし売って利ざやを稼ぐものだという。。
金鉱山は、自分が産出できないときも金を売るため、この3%〜4%の金利を払って金を買い、そして、後の生産でリースを返却する。
金融機関はこの「金キャリートレード」で安定した利ざや(濡れ手に粟)を得ることになる。
他方、市場には中央銀行から借りた金が溢れて流通したため、金価格は20年間も下げ続けたという。
そして、その政策を市場で実行したのが米政界と密接な関係にあったバリック・ゴールド社(Barrick Gold: ABX)で、金の先物売りを主導したという。
1999年当時も現在も年間の産金量は2,500トンだが、金リースと金証券を売買する先物市場によって、金市場での1日の売買高は、1日で1,000トンに増えた。
現物市場だけにしておくなら、1980年のように金は高騰したと吉田氏は推測している。
そして、この長期弱気相場の転換点が、1999年の各国中央銀行の金リース量を制限するワシントン合意(CBGA, Central Bank Gold Agreement)で、これにより、金の流通量が減り、1トロイオンスでUS$275に下落していた金はUS$330に上がったという。

さらに、吉田氏は2002年から金(gold)と原油が歩調を合わせるかのように急騰した原因を次のように述べている。
原油価格高騰の原因は世間一般に

  1. 中国、インド、そして新興国の経済成長で、資源・ エネルギー・穀物の需要が増えている。
  2. 中東の地政学的不安。
  3. ファンドや年金基金が商品先物を投機買いしている。

しかし、世界のエネルギー需要は年率1.5%増と安定的で、世間一般で言われているほど急激に増えないと吉田氏は言う。
事実、International Energy Agency - Oil Market ReportのWorld Balances Chartsを見ても、ここ2年の原油価格急騰の要因が実需(demand)面では見られないという彼の論は正しいように思える。(吉田氏が引用しているBritish PetroleumのデータはStatistical Review of World EnergyのHistorical data (Excel)のOil Consumption - barrelsを年換算したもの)
それでは何が原因かと言えば、米国の商品市場での原油先物への投機であり、原油先物が投資のポートフォリオで金融商品になったからだと彼は言う。
結局のところ、上げた原因はドルの過剰流動性であり、つまり、実質経済に対するドルの通貨価値の下落があって、それがファンドの投機になった。

金の価格上昇も同じような理由だと吉田氏は言う。

  1. 米国は財政赤字、経常収支の赤字を続ける。
  2. 米国の純債務は、どんどん増える。(=ドル増刷)
  3. ゴールドは、年間500トンの慢性的な供給不足である。
  4. 不換紙幣の増刷でインフレが進む。
  5. 中東問題は容易には解決されない。

増刷される米ドルと米ドル証券の実質価値の下落が、インフレを生み、金価格を上げる。
また、吉田氏は、1980年代以降の20年間で金を市場に供給し続けた中央銀行のストックが空洞化しているとすれば、それを買い集めた者が誰であれ、市場への供給を絞ることによって、金価格の高騰を狙うことができると論じている。
また、彼はロスチャイルド家が出資したバンク・リップス(Bank Lips AG)を創設したフェルディナント・リップス(Ferdinand Lips)が2001年に『Gold Wars(邦訳:いまなぜ金復活なのか)』を書いた目的は、金を買う人を世界に増やすためであると述べており、こういう見方をすると、2005年1月21日に設定された金ETFであるIAU (iShares COMEX Gold Trust)もそれに一役買っていることになろうか。
この金ETFのことについては、池水雄一氏が2000年の方向転換と現在に至る強気ゴールド相場というコラムでも述べているので、参考にするといいだろう。
ちなみに、吉田氏は、金価格が一時的に下がることがあっても、それはファンドや金融機関が証券の損で翌週の資金繰りに困っていると認識しておけばいいと言う。
金は換金が容易だからだ。

最後に、吉田氏の「国益のための提言」を紹介して終わりにしたい。
「私は、救国のために、言いかえれば高齢化に向かう国民の虎の子の金融資産を、将来の福祉費用に活かすため、(3倍に高騰した今からでもいいから)100兆円分だけでも、順次、ゴールドを買えばいいと考えている。しかし政府・政治家・官僚は、それは絶対できないと言う。理由は、『米国が日本政府の金の増加保有を禁じている』からだと言う。実に情けないことだ。円が、100円〜125円のスプレッド(幅)で、米ドルにリンクするという政府間密約があるように、ゴールドも禁じられていると見ていい。」

「政府と財務省は、今、思考停止状態である。しかしまだ方策はある。米ドル基軸に終止符を打つことだ。日本の方策は、620兆円の対外総債権(証券)を、順次、アラブやロシアに売ることだ。それで、米ドルの代わりにゴールドの証券を買えばいい。日本政府のゴールド保有は、米政府の8,134トン(時価で27兆円)の10分の1以下の765トン(時価で2.6兆円)と少なすぎる。こうした『戦略的なこと』を政策化していもいいはずだし、今の円高が、資源価格高騰で貧困になる日本を救うことになる。実際、2000年には、ユーロの成立とともに、ユーロ諸国はそれまで買っていた米国の証券や株を売ったのだ。ユーロが2000年以降、米ドルに対して行ったことと全く同じことを、今度は日本が行えばいい。」

この円高が日本を救うという下りは、私も昨年の10月26日に「円高、原油安は日本にとってグッドニュースではないのか」というコラムを書いた。
その点では私の意見は吉田氏とほぼ同じであると言えようか。
しかし、吉田氏の提言が政府内で生かされることはあるまい。
それほどまでに経済音痴ばかりが主要閣僚になっているような気がするし、まるで、不適材不適所という日本政府の有様は、日本が自立できないように外国情報機関が裏にいるかのような無様さだ。

ここまで書いてきて、正直に言って、原油や金(gold)を始めとする資源の分野は私にとって本を読み解くだけで精一杯であった。
年末年始休暇の暇つぶしと思って読み始めてみたものの何度も読み返さないと、何が書いてあるのか理解するのにすいぶんと時間がかかった。。
しかし、それだけの甲斐はあったように思う。
海外投資家の一人として、この分野の理解なしに突き進むことはできないからだ。
2009年が始まったばかりで、世界市場はまたもやきな臭い動きをし始めたが、吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質」を読み終えて、彼の有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』も、購読してみようかな、と感じた。

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