<無期限のイラク駐留米軍の費用を肩代わりさせられる日本>
去る4月8日付のガーディアン紙(The Guardian)に、Secret US plan for military future in Iraq(イラクの軍事的未来におけるアメリカの秘密計画)と題された記事が掲載された。
「秘密」と題され、記事には漏れた草案(leaked draft)とあるが、オープンになったとしてもこの協定案を土台としてアメリカ政府はイラクの傀儡政権との間に軍事協定を結べる自信があったに違いない。
しかし、アメリカがイラクと締結しようとしているものは、軍隊の地位協定(SOFA/status
of forces agreement)と、長期戦略枠組協定(long-term "strategic framework")からなっているものだが、これを政府当局者は、安全保障条約(security
treaty)ではなく、しかも"temporary"(暫定)であって、"permanent"(恒久的)ではないと主張していることが、両政府の議会関係者の反発を招いているようだ。
この協定の行方がどうなるかはわからないが、米軍が無期限(without time limit)にイラクへ駐留することになれば、その費用を日本が一番多く分担させられるに違いない。
私の知る限り、この記事は日本のメディアには紹介されていないが、こういった可能性をどれくらいの日本政府関係者が危惧しているのだろうか。
Secret US plan for military future in Iraq (イラクの軍事的未来におけるアメリカの秘密計画) Document outlines powers but sets no time limit on troop presence (軍事を説明する文書に駐留軍の期限の定めがない) by Seumas Milne, The Guardian, April 8 2008 |
A confidential draft agreement covering the future of US forces in Iraq,
passed to the Guardian, shows that provision is being made for an open-ended
military presence in the country. ガーディアン紙に手渡されたイラクにおける米軍の将来に関わる機密の協定案は、その規約が無期限の米軍のイラク駐留をもたらすことを示している。 The draft strategic framework agreement between the US and Iraqi governments, dated March 7 and marked "secret" and "sensitive", is intended to replace the existing UN mandate and authorises the US to "conduct military operations in Iraq and to detain individuals when necessary for imperative reasons of security" without time limit. 3月7日付で「機密」及び「取扱注意」と印字された、このアメリカとイラクの両政府間の戦略枠組協定草案は、それが現在の国連のマンデート(委任)の代わりとなるように意図されたもので、アメリカが無期限に「イラクで軍事作戦を行い、治安上のやむを得ない理由により必要があるときは特定の個人を拘束するための権限」をアメリカに与えることになっている。 The authorisation is described as "temporary" and the agreement says the US "does not desire permanent bases or a permanent military presence in Iraq". But the absence of a time limit or restrictions on the US and other coalition forces - including the British - in the country means it is likely to be strongly opposed in Iraq and the US. この権限は「暫定」のものとして記述されており、また協定はアメリカが「イラクにおいて恒久的な軍事基地や駐留を要求していない」としている。しかし、イラクでの駐留期限、あるいは米軍とイギリスを含む同盟軍に対する制約がないことから、この協定はイラクおよび米国で強い反対にあうことが予想される。 Iraqi critics point out that the agreement contains no limits on numbers of US forces, the weapons they are able to deploy, their legal status or powers over Iraqi citizens, going far beyond long-term US security agreements with other countries. The agreement is intended to govern the status of the US military and other members of the multinational force. イラク人の協定反対派は、この協定が多数の米軍兵士と彼らが配備可能な武器が無制限に入ってくること、彼らがイラク市民より上位の法的地位と権限を持つこと、さらにほかの国々とアメリカが結んでいる長期的治安協定よりもはるかにかけ離れたものであると指摘している。協定は、本来、米軍と多国籍軍兵士の地位を統制するためのものである。 Following recent clashes between Iraqi troops and Moqtada al-Sadr's Mahdi army in Basra, and threats by the Iraqi government to ban his supporters from regional elections in the autumn, anti-occupation Sadrists and Sunni parties are expected to strong opposition in parliament to the agreement, which the US wants to see finalised by the end of July. The UN mandate expires at the end of the year. イラク政府軍とムクタダ・アル・サドル(Moqtada al-Sadr)のマフディ軍が最近バスラで衝突したあと、また、秋の地方選挙からイラク政府がアル・サドル師の支持者の参加を禁止すると脅したあと、占領に反対するサドル師派とスンニ派諸政党は、議会で協定に強く反対することが予想されている。アメリカはこの協定を7月末までに実現したがっている。国連のマンデート(委任)は今年末で終わることになっている。 One well-placed Iraqi Sunni political source said yesterday: "The feeling in Baghdad is that this agreement is going to be rejected in its current form, particularly after the events of the last couple of weeks. The government is more or less happy with it as it is, but parliament is a different matter." しかるべきイラクのスンニ派の政治筋は昨日、「イラクでは、特にここ2〜3週間の出来事を考えれば、この協定が今の形では受け入れられないと思われている。政府は今のままでも多かれ少なかれこの協定に満足しているが、議会はそうではない。」 It is also likely to prove controversial in Washington, where it has been criticised by Democratic presidential candidate Hillary Clinton, who has accused the administration of seeking to tie the hands of the next president by committing to Iraq's protection by US forces. 協定草案はアメリカでも物議を醸しかねないことがわかっている。民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンはこの草案を批判し、米軍がイラクを守ることを確約することで次期大統領の手を縛ろうとするものであると現政権を批判する。 The defence secretary, Robert Gates, argued in February that the planned agreement would be similar to dozens of "status of forces" pacts the US has around the world and would not commit it to defend Iraq. But Democratic Congress members, including Senator Edward Kennedy, a senior member of the armed services committee, have said it goes well beyond other such agreements and amounts to a treaty, which has to be ratified by the Senate under the constitution. 2月、ロバート・ゲイツ国防長官は、計画中の協定はアメリカが世界中で持っている類似した多くの「軍隊の地位」に関する協定であり、イラクを防衛するための約束をするわけではない、と主張した。しかし、軍事委員会(Armed Services Committees)の上級委員でもあるエドワード・ケネディ上院議員を含む民主党議員たちは、イラクとの協定案はほかの協定とは大きく事なり、条約に相当するので、憲法にしたがって上院の批准が必要であると述べた。 Administration officials have conceded that if the agreement were to include security guarantees to Iraq, it would have to go before Congress. But the leaked draft only states that it is "in the mutual interest of the United States and Iraq that Iraq maintain its sovereignty, territorial integrity and political independence and that external threats to Iraq be deterred. Accordingly, the US and Iraq are to consult immediately whenever the territorial integrity or political independence of Iraq is threatened." 政府高官は、もし、この協定がイラクの安全保障を含むことになっているならば、それは議会に提出されるべきであると認めた。しかし、漏れた草案は、イラクが主権、領土的一体性、政治的独立を保持し、イラクへの外部の脅威が抑止されることは「アメリカとイラク相互の利益」である。それに従って、米国とイラクは、イラクの領土の統一と政治的独立が脅威にさらされたとき速やかに協議する、と述べるに留まった。 Significantly - given the tension between the US and Iran, and the latter's close relations with the Iraqi administration's Shia parties - the draft agreement specifies that the "US does not seek to use Iraq territory as a platform for offensive operations against other states". 米国とイランの緊張、そしてイランがイラク政権内のシーア派諸政党と近いことを考えたときに重要な点として、協定草案は、「米国はイラク領土を、ほかの国々への攻撃作戦の踏み台に用いることはしない」としている。 General David Petraeus, US commander in Iraq, is to face questioning from all three presidential candidates on Capitol Hill today when he reports to the Senate on his surge strategy, which increased US forces in Iraq by about 30,000 last year. イラク駐留米軍司令官デビッド・ペトラウス将軍は、本日(4月8日)、連邦議会(Capitol Hill)で、兵士増派作戦−昨年イラク駐留米軍兵士数を約3万人増やした作戦−について上院に報告する際、大統領候補3人から質問を受けることになっている。 Both Clinton and Democratic rival Barack Obama are committed to beginning troop withdrawals from Iraq. Republican senator John McCain has pledged to maintain troop levels until the country is secure. クリントン氏と民主党のライバル候補であるバラク・オバマ氏はともに、イラクからの米軍撤退開始を約束し、共和党のジョン・マケイン上院議員は、イラクが安全になるまで駐留軍の水準の維持を公約している。 |
ところで、日本の政治の世界で"temporary"(暫定)と言えば、1973年(昭和48年)の第一次オイルショックを機に上乗せされた道路特定財源の暫定税率が、今年の3月末に期限切れとなったものの、4月30日に衆議院で関連法案(第169回国会における所得税法等の一部を改正する法律)が3分の2以上の特別多数で再可決されたことによって、向こう10年間は継続されることになったことは記憶に新しいところだ。
さて、この道路特定財源については、暫定税率が期限切れとなる直前に、福田首相がねじれ国会の閉塞状況を打破するため、道路特定財源を平成21年(2009年)度から全額一般財源化するとの新提案を示した。
このとき民主党は暫定税率即時廃止を主張したため平行線を辿ったが、今考えると、何かこの福田首相の提案にウラがあるのではなかろうか。
もし、福田首相が本当に道路族の利権に牙城に斬り込むつもりなら、上杉隆氏が言うように「政治力も情熱もない福田首相に道路改革など無理な話だ」とほとんどの人は思うだろう。
それゆえ、アメリカとイラクの軍事協定がリークされた時期と微妙にかちあうのは非常に意味深い。
私の考えすぎであればいいが、福田首相のウラでアメリカの意を汲む狸どもの思惑があるとすれば、将来的に道路特定財源が一般財源となって、それがさらに対米援助資金に代わる可能性もあるからだ。
このままアメリカとイラクの軍事協定の協議が順調に進展すれば今年の夏ごろには結論が出る。
一方の道路特定財源の一般財源化論議が始まるのもおそらくその頃だ。
これを偶然の一致とみるか、それとも・・・・
そう、産経新聞も半年前の社説で言っているではないか。
「税の性格も国民皆ドライバー化で普通税に近い。環境への負荷を考えれば、一般財源化したまま一部を近い将来、導入も予想される環境税に組み替えることだってできるのだ。」
ここの環境税を対米援助資金と言葉を変えれば、そのまま私の主張するロジックとなる。
道路特定財源を全額一般財源化 首相表明、21年度から (2008.3.27 産経新聞) |
福田康夫首相は27日午後、首相官邸で緊急の記者会見を開き、平成21年度から道路特定財源を廃止し、一般財源化することを表明した。 3月末に期限が迫った揮発油(ガソリン)税の暫定税率維持を含む歳入関連法案の年度内成立を目指し、民主党など野党に協議を呼びかけた。 しかし、民主党が主張する来月からの暫定税率廃止は否定したため、同党は拒否する見通しだ。 4月以降の暫定税率切れに伴うガソリン値下げは確実な情勢となった。 首相は「見直すべきは大胆に見直す」と述べ、具体的には一般財源化のほか、
同時に、一般財源化分の使途や道路整備のあり方を検討する与野党協議会の設置を呼びかけ、「どう答えるかは野党の責任になる」と訴えた。 首相は「与野党で話し合えば事態は打開できると信じている。 逃げ出すことは簡単だが、私は最後まで決してあきらめない」と語った。 年度内に歳入関連法案が成立しなくても道路特定財源廃止などの新提案を実現させることも明言した。 民主党が求める暫定税率の即時廃止については地方財政に与える影響などから「現実無視の議論だ」と述べた。 一方、自民、公明両党は27日の与野党幹事長会談で歳入関連法案のうち道路特定財源分を除く部分の適用期限を1カ月間延長する議員立法「ブリッジ法案」の提出を提案した。 オフショア市場などの混乱を回避し、「4月パニック」を最小限にとどめる苦肉の策といえる。 民主党は首相提案について幹部が協議し、「考え方に相いれない部分があり、前向きな対応はできない」(鳩山由紀夫幹事長)との認識で一致した。 28日に与野党の政調会長、国対委員長による協議の場で拒否する意向を伝達する。 ただ、ブリッジ法案は「受け入れる可能性がある」(党幹部)ともしている。 ■福田首相の7項目の新提案 福田康夫首相が27日に表明した道路関連法案に関する新提案は次の通り。
|
【主張】道路特定財源 どこへ行った一般財源化 (2007.11.15 産経新聞) |
揮発油税など道路特定財源の一般財源化が有名無実化しようとしている。 国土交通省のまとめた今後10年間の道路整備の中期計画素案により、すべてが道路に使われかねないからだ。 年末の予算編成に向け、改めて一般財源化の基本に立ち返らねばならない。 小泉純一郎政権が着手したこの問題は、安倍晋三政権下の昨年(2006年)12月、今年度末(2008年3月)に期限がくる上乗せ暫定税率を維持しつつ、税収の使途を道路整備に特定している現行法を改正するとした。いわゆる一般財源化である。 ただ、その対象を「道路歳出を上回る税収」とし、道路歳出規模の策定を今回の中期計画に委ねた。 つまり、一般財源化できる余剰税収は歳出規模次第というあいまいさだった。 その中期計画は地域の自立・活性化などを理由に歳出規模を10年間で65兆円、うち国費を32.5兆円とした。 そして国税分の税収を暫定税率を維持する前提で31兆〜34兆円と見込んだという。 これでは歳出と税収がほぼ同じで一般財源は捻出(ねんしゅつ)できない。 なぜ、こんな姿になったのか。 「一般財源化は暫定税率の廃止が前提」とする自動車業界などの声を意識した面もあろう。 だが、最大の理由は参院選の与党大敗で自民党道路族の発言力が増したことにある。 彼らは公共事業や道路予算の削減が敗因とし、福田康夫首相も一般財源化に消極姿勢を示した。 高速道路の無料化や暫定税率廃止を主張している民主党との選挙対策競争も、こうした流れに拍車をかけたといえる。 しかし、特定財源は道路が全国の隅々まで整備されて役割を終えたのに、無駄な道路建設に使われてきた。 これを社会保障費などにも使える一般財源にすれば、財政再建に貢献し将来の増税幅の圧縮につながるのである。 税の性格も国民皆ドライバー化で普通税に近い。 環境への負荷を考えれば、一般財源化したまま一部を近い将来、導入も予想される環境税に組み替えることだってできるのだ。 今回の中期計画は、こうした可能性をすべて封じてしまうことになる。 それは小泉政権が着手した構造改革路線の否定をも意味する。 選挙対策にとらわれている場合ではない。 福田政権には抜本的な再考を求めたい。 |
最後に、 あなたは小渕内閣のときに"permanent"(恒久的)とされた所得税・住民税の定率減税が小泉内閣時代の法改正により失効したことを覚えているだろうか。(All About - 2007年、あなたの「手取り」が減る!)
そう、"temporary"(暫定)は"permanent"(恒久的)であり、"permanent"(恒久的)は"temporary"(暫定)なのだ。
まさにこれはジョージ・オーウェル(George Orwell)が書いた「1984年」(日本語訳本)にある「二重思考(ダブルシンク)」の概念そのものだ。
彼は言う。「War is peace.(戦争は平和である)」「Freedom is slavery.(自由は屈従である)」「Ignorance is strength.(無知は力である)」と・・・
この「二重思考(ダブルシンク)」とは、例えば、実際は戦争状態なのに平和であると自ら信じ、相手に対してそう言いくるめることができる能力のことをいい、以下、自由であるのに相手には違うと信じ込ませる、無知な相手に力があると信じ込ませる、といったことだ。
この本は、スターリン時代のソ連を連想させる全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いているものだが、今の日米にも当てはまることではなかろうか。
関連サイト
[米中枢テロの伏線]
[イラク戦争に思う]