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優良企業が続々廃止決定=あと5年で消滅へ=「退職金」もうもらえない
「退職金」をあてにした住宅ローンはいますぐ見直しを

Yomiuri@Money 特集−「日本版401K(確定拠出年金)」
日経 Money−「企業年金・401K(確定拠出年金)早わかり」


かつては老後生活の柱だった退職金が、企業からどんどん消えている!
リストラが終身雇用を破壊し、成果主義が年功序列を駆逐する中で、日本的経営の”最後の砦”も崩壊していく。
誰も助けてくれない時代、サラリーマンはなけなしの資産を守れるのか?


■新会計基準の導入が後押し

「バブル崩壊で多くの余剰人員が発生し、終身雇用制度が壊れ出すとともに、退職金の意味も薄れてきた。同時に、退職金制度が経営を圧迫してきました。
そこで企業は、その負担を軽くするために制度の見直しを始めたわけです。
具体的には、従来の勤続年数とリンクした年功型の退職一時金制度をやめて、年ごとに業績を評価してポイントを付けるポイント制に切り替えたり、毎年、あるいは毎月、退職金を分割して前払いする企業が増えてきた。
また、退職金を日本版401Kの確定拠出型年金に移行するケースも増えています。
さらには、退職金制度を全廃する企業も出てきました。」 こう語るのは日本賃金研究センター代表幹事の楠田丘氏。
日本の退職金制度は、いまスタート以来の大変革の時を迎えているのだ。

かつて終身雇用、年功序列貸金と並ぶ日本企業の「三種の神器」だった退職金。
もともとは自分たちの貸金を積み立てたもので、要は貸金の後払いなのだが、終身雇用が維持されていれば、こんなトクな制度はなかった。
これまでの一般的な退職金制度では、大卒で入社して40歳で辞めれば、受け取れる退職金は積み立て分のわずか40%と大損する。50歳でも80%しかもらえないが、定年まで勤めると120%を手にできた。退職金は、まさに老後生活を支える大黒柱だった。
が、終身虐用と年功序列が崩れたいま、退職金制度の崩壊も加速している。その追い風になったのが、2001年3月から施行された新会計基準。
退職金のために積んでおかねばならない引当金の額が数倍になり、企業の負担が急増した。そのため、制度を見直す企業がさらに増えたのだ。
「退職金制度を廃止しやすいのは、ベンチャーの新興企業やアルバイトの多い外食チェーン、スーパーどの流通業です。
逆に熟練者と技術継承を必要とする重電機や鉄鋼産業、そして信用産業の銀行などは廃止しにくい。それなのに、従来の退職金制度を実質的に廃止した横浜銀行には驚きました。」(日本労働研究機構副統括研究員・伊藤実氏)


■退職しても何も残らないという悲劇

横浜銀行(8332)といえば地銀のトップ行。ここが退職金をやめれば他の大銀行に波及し、金融界に大激震をもたらす可能性はきわめて高い。
同行は、最終資格と勤続年数にウェイトを置いた従来制度を全廃し、ポイント制を導入しようとしている。
7月1日から導入の予定で、具体的には、1年ごとに働きに応じたポイントに基づく退職金を算出し、それを毎年のボーナスに上乗せして支給する。まさに成果主義への移行である。
いまはまだ労使間交渉の段階のため、「50%はボーナス時に支給し、残り50%は年金分として毎月401Kに投入する」などの案が出ているものの、細部は決定していない。
「具体的な内容は申し上げられませんが、最初考えていたスキームからだいぶ変更がありました。実施日は7月1日に決定とはなっていません。」(広報IR室)
ただし、行員の間では決定事項と受け止められており、不安が広がっている。
横浜銀行の40代行員は言う。「ボーナスそのものが毎年に減っているのだから、そこに退職金の前払い分を上乗せされても、余禄どころか目減り分の穴埋めにしかなりません。定昇が7年間ストップしているいま、定年で受け取る退職金は老後生活の守護神だし、家長のオヤジが家族に威厳を示す最後の砦だと思っていました。それがなくなるのは本当に心細いし、住宅ローンの支払いも心配です。」

[2003年5月27日/日経産業新聞]

横浜銀行は7月に退職給付制度を従来の年功序列型から仕事の難易度や貢献度を基準にした実力主義的な新制度に切り替える。優秀な行員に報いることで士気を高める狙い。地方銀行で実力主義的な退職給付制度を導入するのは珍しいという。
新制度では役職など仕事の専門性や難易度を基にポイントを設定。勤続年数にかかわらず、積み上げたポイント数で退職金と年金の支給額を決める。ポイント制の導入で、退職金や年金の支給額が個人によって従来よりも約10%増減する可能性があるという。

日商岩井(現双日)(2768)は、この退職金前払い制度を2002年4月にスタートさせた。
年間の積立額に相当する退職金を、1対2の割合で前払い分と年金に分割。前払い分は月々の給料に上乗せし、年金分は全額日本版401Kに回しているのだ。給料に加算される前払い金額は1万〜4万円程度。年齢と資格で決まり、4万円は役員の手前の上級職に当たる。
「前払いにはメリットとデメリットがある。企業がいつ倒産するかわかちないご時世だけに、かりに倒産しても、そのときまでの退職金をきっちりもらえるのはメリットです。ただ、月々数万円では、きちんと管理していないと、つい小遣いとして使ってしまう恐れがある。管理、運用しておかないと、退職したとき何も残っていないことになります。」(同社中間管理職)

退職金を全廃して、すべてを401Kに切り替えたのは外食チェーンのすかいらーく(8180)だ。2002年1月1日から新制度をスタートさせた。
「うちの従業員は独立志向が強い。中途採用も多く、長期雇用を前掟とした従来の退職金制度の意義が薄れたため、新制度に切り替えました。ボーナス時に従業員の401K専用口座に振り込みます。401Kなら転職しても次の会社にそのまま持ち越せるので、従業員のためになると考えました」(社長室広報担当)
社員の評判はどうか。入社3年目の大卒社員が語る。「就職先を選ぶ際、退職金制度のことはまったく考えなかった。『退職金』なんて、もう死語じゃないですか。大企業がバタバタと潰れているいま、賃金の後払いなんてナンセンス。401Kはいいですよ。転職に便利だし、着実に買い増していけば就職に有利な証明書にもなる。」


■団塊の世代の定年で原資が崩壊

同じく退職金制度は廃止したが、その際、全社員を解雇したのが松井証券(8628)だ。
廃止は2002年3月。その時点で会社都合による退職金を支払い、希望者を同一条件で再雇用した。このとき約1割の社員がそのまま辞めている。
従来の制度に代えて導入したのは、退職金積立金と年金掛け金を給料に上乗せする退職金前払い制度。社員は、年収に約3%上乗せした金額を受け取ることになった。人事部長の田名網尚氏が説明する。
「当社の場合、中途採用社員が全社員の半数を占めており、退職金のメリットを享受できる者が少ない。
また、松井道夫社長が『退職金は社員を縛るもの。会社と社員の関係は対等でな竹ればならないのだから、社員を縛るような退職金制度はおかしい。』という考えでしたので、制度を切り替えました。廃止前に全社員に説明して賛否を問うたところ、96%が賛成でした。」

1999年4月、退職金の受け取り方を4通りのコースから選べるようにしたのは大和証券グループ(8601)だ。
制度切り替えの際、すでに積み立てていた分をいったん清算し、希望者には従来の制度を適用して退職金を支払っている。4通りのコースと、それを選んだ社員の比率は、

  1. 前払い=10%
  2. 前払いと401Kの併用=15%
  3. 従来型の据え置き=30%
  4. 据え置きと401Kの併用=45%

年金との併用も含めて、据え置きのあるコースを選んだ社員が全体の75%もいたというあたりに、老後に対する不安がのぞいている。
「持ち株会社ができるとき、退職金制度は廃止と聞いてゾッとしましたが、後日、選肢がいろいろあると知って一安心しました。私が選んだのは据え置きと401Kの併用。理由は老後の不安です。証券会社の一員とはいえ、自己運用に自信はありません。中年層はこのコースが多いと思います。」(40代管理職)

こうして見てくると、退職金前払いもそう悪くない制度のように思えてくるが、日本証券経済研究所主任研究員の紺谷典子氏は、だまされるなと警鐘を鳴らす。
「従来の退職金制度を廃止するにあたり、企業は『雇用の流動化を生む』『従業員のライフスタイルの変化に対応する』などとキレイごとを言っていますが、本当の狙いは給料の抑制、リストラ効果です。
退職金を廃止するかわりに年俸制にして給与を増やすというが、能力給がベースになるから若い人には不利になる。また、中高年にしても、全体の人件費の総支出を抑えこんでいけるメリットが企業にあるのです」
この不況下、リストラも含めた人件費の大幅削減は企業の至上命題だが、その人件費にからむもう一つの大問題を、実は多くの企業が抱えている。
「あと4〜5年で団塊の世代が60歳の定年を迎えます。そのときには、とんでもない金額の退職金支払いの原資が必要になる。会社によっては経営が危うくなるかもしれない。ならばいまのうちに退職金をなくしてしまえば心配ないというので、各企業が次々と制度の見直しに着手している。そういう事情もあるのです」(前出・伊藤氏)
大量に一気に退職する団塊世代が原資を食い潰す。新会計基準の導入による引当金の負担増、そしてデフレ不況と相まって、あと5年もしないうちに、退職金は優良企業でもない限り、なくなる。


■積み立て不足の会社もある。

そもそもこの制度変更の先鞭をつけたのは、かつて「終身雇用を死守する」と明言していたあの松下電器(6752)だった。
「新入社員を対象に、1998年度から従来型か前払い型かの退職金選択制を導入しました。前払いは夏冬2回の賞与時の支払いで、各回10万円内外です。2002年度入社の社員の60%は前払い型を選択しています」(広報グループ)
その後、松下では2002年4月から新たにポイント制が導入されたため、退職時にまとめて受け取る従来型を選んでも、毎年のポイントが低ければ退職金が大幅に減るシステムに変わった。
同期入社で60歳定年を迎えたとして、ポイントの高い者と低い者では1000万円ぐらいの格差が出るようになった。松下でこういう制度が始まったこと自体、日本的経営が崩れ去ったことの象徴と言えよう。

松下同様、X字型の回復を果たした三洋電機(6764)も、2003年4月から50歳以下の社員を対象に退職金制度を変える。
「前払いか従来の退職一時金のいずれかを選び、前払いを選択した社員は、これまで積み立ててきた分を4月に清算します。個人も企業もいつ何があるかわからないので、もらえるうちにもちいたいと前払いを選ぷ社員が非常に多いのです」(幹部社員)

実際、前払いで退職金を受け取れるのは、まだいいほうだと、社会保険労務士の森萩忠義氏は言う。
「前払いをする余裕もない会社が、現在はたくさんあります。積み立て不足を清算すると会社が危なくなるというので、問題を先送りしている会社も多い。これは銀行の不良債権と同じで、どんどん債務が増えて経営を悪化させていく。やがては退職金が払えなくなるどころか、会社が潰れてしまう。潰れれば、社員は職と退職金の両方を失うことになります」
たとえ退職金が減ることになっても、倒産よりはマシと考えたほうがいい。

他にも、最近になって退職金制度を変えた有名企業がいくつかある。
山之内製薬(4503)は、2002年4月から全社員を対象にポイント制を導入した。1ポイント1万円で計算し、仕事のできる社員はそれだけポイントがつく成果主義で、退職金額は最終的に最大2倍以上の格差が開くシステム。
同じく全社員を対象に、2002年6月から年度末に退職金を一時金として支給することにしたのはセイコー(8050)だ。
カゴメ(2811)は年金か前払いかのピちらかを選び、それに退職一時金を加えた制度に改正。56歳以下の社員を対象に、2002年8月から実施している。
自分の会社が退職金見直しに踏み切った場合、どう対処すればいいのか。
経済ジャーナリストの荻原博子氏はこうアドバイスする。
「従来の退職金制度と401Kのどちらかしか選択できないのなら、従来型を選んだほうがいい。このデフレ時代では、401Kでトクをするのは手数料を得る会社と運用を預かる会社だけで、個人はなんのトクにもなりません。
退職金が前払いで賞与や給与に組み込まれる場合は、強制的に天引きのような形で定期預金にし、将来に備えることです。
また、借金を減らして現金をつくるのがデフレ時代の防衛策。退職金払いをあてにしたローンなどは組まず、ローンはできるだけ繰り上げ返済すべきです。」
自分の知恵で資産を守るかない、非情な自己責任の時代に突入したのである。

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