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受取額なんと43%カット−いいかげんにしろ「生保予定利率引下げの大陰謀を許すな!」

Yomiuri@Money 特集−「生保予定利率引き下げ」
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「経営が苦しくなったので、あなたに約束していた保険金は支払えません。40%ほと減額させていただきます。」こんな図々しいことを、生保各社が現実に行おうとしている。
バブル期に5.5〜6%の予定利率で契約された終身保険などが、生保の経営を圧迫し始めたため、3%に引き下けるというのだ。
「金融システム不安解消」の一言で、生保各社の経営責任は棚上げ。結局は契約者に尻ぬぐいをさせようというのだ。こんな非道な行為を決して許してはいけない。

予定利率とは、生命保険の契約段階であらかじめ約束された運用利回りのこと。
生保は契約者から預かった保険料を株式などで運用し、将来支払う保険金を用意する。ところが長引く株安で、運用利回りザ予定利率を下回る「逆ざや」に苦しんでいる。その額は、主要生保10社だけでも毎年1兆円に達するという。
そこで金融庁は予定利率の引き下げを、今国会で法制化することを決定した。
現行の保険業法では、破綻した生保しか予定利率の引き下げは認められていない。
それを破綻前でも可能にし、未然に生保破綻を防ごうというのが狙いだ。
金融庁が今国会で提出する保険業法改正実の骨子は以下の通りだ。

  1. 経営が悪化した生保が予定利率引き下げを金融庁に申請する。
  2. 資金流出を防ぐため、申請から一定期間は契約者の解約を停止する。
  3. 引き下げ率は下限3%とする。
  4. 利率の引き下げが妥当かどうかを審査する第三者機関を設定する。
  5. 引き下げ対象となる契約者の10%以上が反対すれば計画は撤回する。

無茶苦茶な話だ。たとえば契約者は、生保各社が「60歳で満期。老後は月々20万円支払います。銀行に貯金するよりも得です」などと謳ったからこそ、長年にわたってコツコツと保険料を納めてきたのである。
それを今さら「運用に失敗して経営危機なので減額します。」で許されるはずがない。5.5%で契約したものが3%になるということは、半減に近いのだ。


■なぜ更生特例法を適用しないのか

更正特例法とは

会社更生法を金融機関に適用するための法律で、2000年6月の改正で保険会社にも適用できるようになった。
保険会社は、多数の契約者が小口債権者となり、債権確定など手続きが困難だったが、改正によって、生保業界でつくる「生命保険契約者保護機構」が契約者の権利を一括して行使できるようにした。
従来の保険業法に基づく破たん処理では、保険管理人が劣後ローンなどの債権の削減を個別交渉しなければならなかったが、裁判所権限で強制的に債務削減などを行えるようになり、契約者や保護機構の負担が軽減した。

全国紙経済部デスクは、金融庁案にこんな懸念を示す。
「金融庁への申請は、契約者の代表で構成される総代会で決議することになりますが、総代会のメンバーの多くは、経営者寄りの”お手盛り”で選ばれた人ばかりというのが実情です。一般契約者の声を反映するとは思えません。」
2002年末、生保協会会長で住友生命社長の横山進一氏を本誌取材班が直撃したところ、「予定利率引き下げなんてあるはずがない。そんなことになったら私は(協会会長を)辞めるよ!」と大見得を切って見せた。
ところがである。事態は予定利率引き下げに着々と進行していたのだ。深尾光洋・慶応大学商学部教授は、金融庁案をこう切って捨てる。
「金融庁は、予定利率引き下げで生保破綻を未然に防ぎ、契約者の保護になると言っていますが、詭弁です。そもそも生保が破綻した場合、残った資産は契約者に最優先に配分される。保険金を払えないような不健全な生保は、体力の残っている段階で『更生特例法』を適用すべきです。破綻を防ぐために契約者との約束(予定利率)を変更するという発想はおかしい。」

実際、2001年に東京生命が更生特例法を適用したときは、財務的にもまだ余力があったため、予定利率の引き下げは2.75%にとどまった。
しかし、更生特例法を申請せず破綻した千代田生命、東邦生命のときは1%台という惨状だった。
金融庁は本来、体力の弱った生保をいかに早急に整理するかに注力すべきなのだ。それなのになぜ金融庁は「破綻前」の予定利率引き下げにこだわるのか。答えは、銀行の救済策でしかない。

「生保と銀行は資本の持ち合いをしており、銀行が生保に拠出している劣後債や基金は破綻後の支払い優先順位が保険契約者より低位です。
千代田生命が破綻したときは、劣後債を拠出していた東海銀行(現三菱東京UFJ銀行/8306)が740億円近い損失を被るという例もありました。
今回の法案は、破綻しそうな生保を延命させて、ひいては資本の持ち合いをしている銀行を保護しようという意図が見え見えです。」(前出・深尾教授)
公的資金投入に続き、またしてもわれわれ生保契約者が泥をかぷらされるのである。


■一番のダウンは終身年金保険

予定利率が引き下げられると、われわれは具体的にどれほど損をするのだろうか。
(表@)は引き下げられた利率とそれによって受取額が減じる割合のシミュレーションを、(表A)は保険契約の加入期間と予定利率の推移をまとめたものだ。
試算した藤川太・家計の見直し相談センター代表が説明する。

表@ 予定利率引下げによる「保険金減額率」
保険タイプ 契約内容 3%に引き下げの場合 4%に引き下げの場合
終身保険 30歳男性、60歳払い込み満了 ▲40% ▲24%
終身年金保険 30歳男性、64歳払い込み満了、65歳年金開始、10年保障 ▲43% ▲27%
確定年金保険 30歳男性、64歳払い込み満了、65歳年金開始、10年間 ▲34% ▲17%

「対象になるのは逆ざやを生み出しやすい貯蓄型の保険で、終身保険、終身年金保険、確定年金保険の三つになります。とくに一番ダメージを受けるのは終身年金保険です」
シミュレーションでは、5.5%という高利率だった1993年4月1日までに保険契約を結んだ30歳男性を想定した。
最もダメージを受ける終身年金保険では、契約から11年後の今年、3%に引き下げられたとすると、削減率はなんと43%に達する。ほぼ半額だ。月々20万円貰えると思いコツコツ積み立ててきたとすると、11万4000円しか受け取れないのだ。
終身保険でも3%に予定利率が下げられると、削減率が40%となっている。死亡時に1000万円貰えるはずが600万円に減ってしまうのである。

表A 「予定利率」の推移
加入した時期 20年超 20年以下 10年以下
1985.4.2-1990.4.1 5.5% 6.0% 6.25%
1990.4.2-1993.4.1 5.5% 5.5% 5.75%
1993.4.2-1994.4.1 4.75%
1994.4.2-1996.4.1 3.75%
1996.4.2-1999.4.1 2.75%
1999.4.2-2001.4.1 2.0%
2001.4.2-2001.7.1 1.5%
2001.7.2以降 1.5%

実は予定利率引き下げを認める法案が議論されたのは、今回が初めてではない。
一昨年も浮上したが、生保業界の反対にあって陽の目を見なかった経緯がある。
「そんなことをすれば業界の信用にかかわると判断したからです。しかしあれから株式市場はいっこうに好転せず、生保もやせ我慢していられません。もはや法案の作成・今国会への提出は既定路線です」(前出・全国紙経済都デスク)
昨年秋、市場関係者の間に、ある「噂」が駆けめぐった。
柳沢伯夫金融担当相(当時)が10月13日に、予定利率引き下げを認める法改正を発表する、というものだった。
ところが柳沢金融担当相がその前に更迭され、発表は幻となった。しかし昨年秋に幻となったことが逆に、この法案にツキをもたらすかもしれない。
「今国会は個人情報保護法案や有事関連法案など、重要法案が目白押し.保険会社の予定利率引き下げ容認なんて金融の専門色が強い法案は、十分な議論もないままに素通りしてしまう可能性がある」(前出・経済部デスク)

反対していたはずの生保協会の横山会長も、「昨年末に日銀記者クラブで行われた定例記者会見後の雑談で、ある記者に『良いんじゃないの』と豹変して周囲を驚かせました。今は各社を賛成するよう説得し回っているとも聞きます。」(同デスク)
生保協会は、本誌の取材に、文書で次のように回答した。
「予定利率引き下げを制度化することは、契約者・国民に理解して貰えるかといった課題が解決しないかぎり極めて難しいと考えている。」
何がなんでも反対という前回の回答からは、明らかにトーンダウンしている。
保険評論家の佐藤立志氏はこう憤る。
「個人年金はサラリーマンが将来、公的年金だけでは不安だからということで長い間掛けてきたわけですよ。それを今さらカットされても、年金はかけ直すことはできないんです。失われた時間とカネをどうしてくれるんですか。」
絶対にこんな法案を許してはいけない。

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