私はカンクンでメキシコシティ東ターミナル(TAPO/Terminal de Autobuses de Pasajeros de Oriente)行きのバスに乗った。そのバスはビジャエルモッサで小休止したため、私は軽食を買うためにバスを下りた。ところが、私がバスのゲートに戻ってきたとき、預けた荷物とともにバスは出発した後だった。大きなショックで私はどうしていいかわからなかった。 荷物を取り戻すべくバス会社の窓口スタッフと交渉したが、彼女たちは英語が話せないため交渉は難航しそうだった。ところが、そこに英語が話せる人が現れて私を助けてくれて、荷物も戻ってきた。 なぜか?バス会社のスタッフ曰く、テロ対策なのだそうだ。 奇跡的な偶然によって私は旅行を続けることができた。一か八かで空港へ航空券を買いに行ったら空席があった。賭けに勝った。これは逆転勝利であった。 |
1/5(Wed) | ビジャエルモッサ(カルロス・ロビロサ・ペレス) 13:45-InterJet(4O)2537-15:10 メキシコシティ(ベニート・フアレス) |
宿泊先 | San Fernando / US$21 (270P=\1,740) per night |
諸費用 | 航空券: 1,398,84P=\9,370 タクシー / ビジャエルモッサADOバスターミナル-空港: 200P=\1,340 タクシー(SITIO 300) / 空港-イダルゴ (Zone 4): 152P=\1,020 |
関連サイト | メキシコ メキシコシティ |
ビジャエルモッサ(Villahermosa)、朝方到着したADOのバスターミナル、私の隣に座っていたメキシコ人に「ここはどこ?(¿Dónde estoy?=ドンデ・エストイ)」って聞いたら教えてくれたのだ。
これを聞いたとき、頭の中ではわかっていたけど、心の中ではうんざりしていた。
ここからメキシコシティまではさらに10時間余りもバスに揺られなければならないことがわかったからだ。
ここへ来るまでの間、夜中の3時にトイレ休憩を取ったときは食事をする時間さえあった。
何の根拠もなくその程度の時間はあると思い込んでバスターミナルの中の売店へ軽食と飲み物を仕入れに行った。
それが今回の旅行で3度目となる大きなトラブルの始まりだった。
買い物をしていた時間はわずか5分ほど、それを終えてバスターミナルに戻ると、私が乗ってきたバスが止まっていたゲートに違うバスが入って来ようとしている。
えっ!と思った私が慌ててバスターミナルの出入口に向かって走ったものの、元のバスは影も形もなかった。
盗難にあった過去2回と違って、預け入れたバッグはバスがそのまま運んで行ってしまっている。
しかし、メキシコシティでその荷物が下ろされたとき、引き取り主のない荷物がどうなるか、どこかで預かっていてくれるのだろうが、明日のニューヨーク行きのフライトまでに引き取れることは、ほとんど期待できなかった。
メキシコ人の仕事が迅速でないということもあるが、それに加えて、私はスペイン語がほとんどできないし、彼らはほとんど英語ができないからだ。
それでも私は唯一の可能性、乗りそびれたバスを追いかけて荷物を取り戻すこと、に賭けて窓口に行った。
まずはバスチケットの買い直しだ。
私の望みは乗りそびれたバスの1時間後か2時間後のものだったのだが、夜行バスしか空席がないと言われる。
それでも明日の朝にはメキシコシティに着けるのであればいいだろう、ということで、チケット代の918ペソ(6,150円)をクレジットカードで払うことにした。
さらに、乗りそびれたチケットとバゲージタグを示し、英語でどうすればいいのか、と言ってみる。
相手のスタッフは「おお」と言って、私の言わんとしていることを理解したようだが、その先はスペイン語をまくしたてられて、私の方が何を言っているのかわからない。
そうこうしているうちに私の後に1人のメキシコ人男性が並び始め、彼は私に「どうしたんだ?(What happen?)」と英語で聞いてきた。
私は藁にもすがるつもりで、彼に事情を説明し、彼はスペイン語で窓口のスタッフに説明を始めた。
今まで匙を投げたような顔をしていたスタッフが、別室に消え、しばらくして現れたのはメキシコシティへ向かったハズの私のバッグを提げたスタッフだった。
狐につままれたようになった私に対し、彼女は言った。
「テロ対策で持ち主のいないバッグは下ろされることになっている」と・・・
私はメキシコのバスがそんなことをやっているのか、と感心する反面、黄色で目立つとはいえ、何でわずか5分くらいの間に私のバッグがわかったのか、と思ったが、そんなことはどうでも良かった。
とにかく、奇跡は起こったのだ。
ちなみに、この話をニューヨークで再会したさっくんにしたところ、「実のところバスはゲートを変えただけでバスターミナルに止まっていたのではないか。そうでなければバスに乗っていない乗客の荷物がどれか、などということが5分余りでわかるわけがないだろう。」と彼は言った。
ビジャエルモッサADOバスターミナル(Villahermosa ADO bus station) | |
ビジャエルモッサ・カルロス・ロビロサ・ペレス国際空港 (Villahermosa Carlos Rovirosa Pérez International Airport) |
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インテルジェットの機内サービス | サンフェルナンド教会(メキシコシティ) |
荷物は戻った。
ところが夜行バスの出発まで8時間以上も時間があった。
その間、バスターミナルで荷物を預かってくれるところはなかったし、それを持って観光をするには太陽が眩しすぎるほど暑かった。
ハイアット・リージェンシー(Hyatt Regency Villahermosa)のようにプールがあるところへ行って、ビジターユースができるか聞いてもよかったが、いずれにせよ、また夜行バスに乗って行くのは苦行でしかなかった。
そこで、私はカンクンからメキシコシティへ行くフライトは満席でもビジャエルモッサからなら空席があるのではないかと考えた。
問題はチケットをどこで買うかということなのだが、カンクンのようにアエロメヒコ(Aeromexico)のオフィスが市内にあるのではないかと思った私は、タクシードライバーに「オフィシナ・デ・アエロメヒコ(Oficina de Aeroméxico)」と告げた。
ところが、ドライバーが街行く人たちに聞きながら行っても一向に目的地に着かない。
まさかここでアエロメヒコのオフィスに用事があるとは想定すらしてなかったので、住所(Centro Comercial Periplaza Local
51, Avenida. Periférico Carlos Pellicer Camara s/n, Colonia. Tamulte
de las Barrancas, Villahermosa)などの情報を入手しているはずがない。
仕方がないので空港へ直接行ってもらい、そこでチケットが入手できれば、バスチケットが無駄になるが、そのまま飛行機でメキシコシティへ向かうことを決めた。
ビジャエルモッサの空港に到着し、チケットを直接買おうとフロアを見渡すと、アエロメヒコのほかにインテルジェット(InterJet)のカウンターがあり、そこで何やら話をしている人がいる。
もしかして空港直販をやっているのか、と思って近寄ってみると、午後1時45分発のメキシコシティ行きのチケットを買ってところではないか。
運悪く彼らで売り切れ(sold out)にならなければ、私もこのフライトに乗れる、と思った。
ツイてる・・・しかも窓口スタッフは英語ができるし・・・
チケットは拍子抜けするほどすんなりと買えた。
こんなことならカンクンにいたときにネットカフェに入ってオンラインで買っておけばよかったと思ったくらいだ。
ところで、バスチケット(918ペソ/6,150円)をどうしようか、キャンセルしに市内へ戻るか、タクシーで往復すると400ペソ(2,680円)が余分にかかる。
しかもチケットの裏には「取り消し不可(No Cancelable)」とスタンプが押されている。
素直にチケットを捨てることにして、チェックインしようにも出発まで2時間以上時間があるが、格安フライト(LCC)は早めにチェックインさせてくれたりといった融通は利かない。
私はメキシコ人のフレキシビリティ(いい加減とも言うが)に賭けた。
タクシーに乗ってADOのバスターミナルに戻り、スタンプなど知らないフリをして、スペイン語会話集の中から「予約をキャンセルしたい。(Quisiera
anular mi reserva.)」というところを指差した。
目の前にいるスタッフは先ほどの荷物の件でお世話になった女性だった。
彼女は当然私を覚えていて、キャンセルできない旨をスペイン語でまくしたてている。
ところがチケットの裏に押した英語のスタンプを忘れているのか、またもや匙を投げたような顔つきになった。
私は何となく彼女の言うことがわかっていたが、あえて困ったフリをして、並んでいる人たちに「英語話せる?メキシコシティに行く?」と声をかけ続けた。
まるでダフ屋のようだが、そんなことは構っていられない。
そのうち1人の男性が助け舟を出すように窓口のスタッフに何やら言い始めた。
彼曰く、このチケットの払い戻しができなければ、私の席は空席のままになる、といったようなことを言ってくれたらしい。
しばらくして半袖のポロシャツを着た英語の話せる美人が出てきた。
何でもっと早く呼ばないのだ、と思ったのは私だけではないだろう。
私は彼女に対して、バスチケットを払い戻したい、明日にはニューヨークへ行くので飛行機でメキシコシティに飛ぶことにした、と伝えた。
フライトチケットを見た彼女は納得したように、こう言った。
「ビジャエルモッサには戻って来ないの?予約を変更してあげるけど・・・」
私は苦笑しながら日本へ帰るんだ、と彼女に告げた。
すると彼女は決心したように900ペソ(6,030円)を私に渡しながらこう言った。
「18ペソ(120円)は手数料よ。いい旅を、そして再びここに来ることを望みます。」と・・・
実際のところ手数料云々は言い訳だろう、でも、私はビジャエルモッサでメキシコ人の良さに触れられたような気がした。
私は這う這うの体(ほうほうのてい)でメキシコシティのベニート・フアレス空港(Mexico City Benito Juarez International Airport)に下り立った。
預けた荷物を引き取り、出口に向かおうとしたところで3人のセキュリティポリスに呼び止められた。
彼らは私にいきなりスペイン語でまくしたて始めた。
英語で言ってくれ、とお願いすると、急にたどたどしくなって「パスポートを見せてくれ、金はいくら持っている?ビジャエルモッサが好きなのか?」と聞いてきた。
国内線のフライトで飛んできて何でこんなことを聞かれないといけないのか、そんなことはカンクンでグアテマラから入国したときに聞かれたのに、と思ったが口には出さなかった。
そしてタクシーでサンフェルナンド館(San Fernando)へ着いたとき、私は心身ともにクタクタになっていた。
残り3日間、極寒のニューヨークを無事に乗り切れるのか。
そんな不安が頭の片隅をよぎった。