中国と韓国の「はったり」の行方

【2005年5月5日掲載】

これから述べることに関して英文の記事をリンク先に多く掲載しているのは、日本のメディア、主にジャパン・タイムス(Japan Times)が、世界に向けてどのような記事を発信しているのか知ってもらうためです。
また、反日デモ関連の英字紙の記事を日本語訳したのも、世界のメディアが、この事件をどう見てるか紹介するためでもあります。
併せてヤフーニュース、中国(人民网など)や、韓国(朝鮮日報東亜日報)が自分の主張をどうメディアに載せてるか比較してみてください。
ちなみに、外国語での発信記事と、過去記事(アーカイブ)の量では、はるかに日本の主要メディアは太刀打ちできていません。
つまり、日本の主要メディアに共通しているのは、日本の主張を日本語でしか発信していなければ、それは日本人以外の目に触れないというのと同義です。
それでは意味がないというのは今回の結末を見れば一目瞭然なのです。

2005年3月16日、島根県議会は、2月22日を「竹島の日」とする条例を可決した。(サイト内参照記事)
そして、4月5日には「新しい歴史教科書を作る会(Japanese Society for Textbook Reform)」による扶桑社の『改訂版 新しい歴史教科書』が来年度の中学校向け教科書として、文部科学省の検定に合格した。

もちろん中国と韓国は日本を激しく非難した。
彼らの主張することはいつも「日本政府は第二次世界大戦中に我々に苦痛を与えたことに対して反省しろ、植民と侵略の歴史をごまかすな」ということだ。
それに加え、韓国はドイツで、中国はインドでも日本を攻撃したことが報じられた。
韓国の盧武鉉(Roh Moo-hyun)大統領は「侵略を輝かしい過去と考える人たちと一緒に生きるのは全世界にとって大きな不幸であり、日本の態度は人類社会が共に追求すべき普遍的価値にそぐわない。」とこき下ろした。(サイト内参照記事
中国の温家宝(Wen Jiabao)首相は、「アジアの人々の強い反発で、日本政府は深く反省するはずだ。歴史を尊重し、過去の行為に責任を果たし、アジアの、そして世界の人々の信頼を得ることのできる国だけが国際社会の中で大きな責務を果たすことができる。」と言った。(サイト内参照記事

彼らの言っていることは一見正しい。
しかし、かつての帝国主義列強である欧米諸国がそれを正しいと認めるならば、欧米の指導者たちは毎年のようにアジアとアフリカ諸国を歴訪し、謝罪外交を続けなければならないのだ。
そもそもドイツが謝罪しているのはホロコースト(the Holocaust)と呼ばれるナチスの残虐行為、その他の人道に対する罪に対してであり、アフリカを植民地にしたことではないはずだ。

また、インドに関してはイギリスの植民地からの独立闘争を助けたのは日本軍の東南アジアへの侵攻であると言われている。
独立前夜のインドの歴史を紐解けば、スバス・チャンドラ・ボース(Subhas Chandra Bose)が日本が第二次世界大戦でオランダ、イギリス、フランスの植民地を占領するのを見て、当時のドイツと日本と同盟を組んだというのである。
彼は、日本の存在がインドの独立闘争の助けになるだろうと感じていたに違いないのだ。

温家宝(Wen Jiabao)首相の言う「アジアの人々の強い反発」は日本人向けのはったりに過ぎないと思う。
おそらく彼は日本人が「みんな」という言葉に極めて弱いことを知っているのだろう。
事実、台湾の高齢者の中には日本の統治を評価する人がいると聞くし、李登輝(Lee Teng-hui)元総統もその中の一人だ。
なぜなら当時の日本が鉄道や、下水道、学校などのインフラの整備をしたからだ。
さらに、1994年8月の村山富一首相の東南アジア歴訪の際、当時のマレーシアのマハティール・モハマド(Mahathir Mohamad)首相は、「日本が謝罪外交(apology diplomacy)を止め、アジアで平和と繁栄を促進するためにリーダーシップを取るべきである。」と言ったのは紛れもない事実だ。

実のところ、日本政府は60年も70年も前に起こった戦争について近隣諸国に対し、再三再四謝罪を続けている。
しかし、中国と韓国はそれを素直に受け止めず、政府要人が彼らの感情を逆撫でする発言をするのを虎視眈々と狙っているように見える。
もし、そういう発言をした要人がいた場合、彼らは激しい抗議をもって、彼(彼女)を要職から引きずり下ろすのだ。
一部のメディアと野党はそういう彼らの行動を手助けしてきた。
これについてフィナンシャルタイムス(Financial Times)は、「China's persistent Japan syndrome (中国のしつこい日本症候群)」と題する記事を載せている。
要するに、反日デモが「政府当局が政権に対する不平不満をそらすために焚き付けられている」のであり、彼らに対しこの先謝罪を続けても、無駄であるということを言っているのだ。

日本人の中には、もちろん国会議員も含めて、戦争中の日本の行為についてなぜ謝罪をしなければならないのかという疑問を持つ人がいる。
つまり、「19世紀から20世紀前半まで世界は帝国主義の時代だった。日本も帝国主義戦争に勝たなければ、欧米の植民地となっていたのだし、その結果として、いくつかの植民地を持ったに過ぎない。台湾の高齢者の中には日本の統治を評価する人がいるにもかかわらず、多くの韓国人は非難を続けている。台湾統治と朝鮮統治はどこが違ったのだろうか。日本は韓国にも台湾と同じようにインフラ整備をしたのだ。今日欧米の植民地であった多くの国が未だに発展途上国としてあえいでいるのに対し、日本が統治した台湾と韓国は先進国の仲間入りしている。」と彼らは論じる。

2005年4月22日、小泉首相はアジア・アフリカサミット(Asian African Summit in Bandung)の席上でアジア諸国に対して過去の戦争について、このように謝罪をした。

アジア・アフリカ首脳会議における小泉総理大臣スピーチ
我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。
こうした歴史の事実を謙虚に受けとめ、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、我が国は第二次世界大戦後一貫して、経済大国になっても軍事大国にはならず、いかなる問題も、武力に依らず平和的に解決するとの立場を堅持しています。
今後とも、世界の国々との信頼関係を大切にして、世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることを、改めて表明します。
Speech by H.E. Mr. Junichiro Koizumi, Prime Minister of Japan
In the past, Japan, through its colonial rule and aggression, caused tremendous damage and suffering to the people of many countries, particularly to those of Asian nations. Japan squarely faces these facts of history in a spirit of humility. And with feelings of deep remorse and heartfelt apology always engraved in mind, Japan has resolutely maintained, consistently since the end of World War II, never turning into a military power but an economic power, its principle of resolving all matters by peaceful means, without recourse to use of force. Japan once again states its resolve to contribute to the peace and prosperity of the world in the future as well, prizing the relationship of trust it enjoys with the nations of the world.

毎日新聞の記事によれば、小泉純一郎首相のスピーチは1995年の村山富市首相の談話に沿った表現だが、日本の首相が国際会議で「反省とおわび」を表明するのは異例ということらしい。
つまり、今まではニ国間で表明を続けていたわけで、おそらく世界のメディアが注視する中ではそういったことがほとんどなかったと言える。
要するに世界のほとんどの国は中国と韓国の反日プロパンダをずっと聞かされ続けてきたわけだ。
それは、AP通信(Associated Press)のジョー・マクドナルド(Joe McDonald)氏が言う"allegedly (伝えられるところによれば)"という言葉にも現れている。(サイト内参照記事
いくら「新しい歴史教科書を作る会(Japanese Society for Textbook Reform)」が何を言おうとも、外国語で情報を発信しなければ、世界の人々は中国や韓国の主張が正しいと思うのだ。

ところが、小泉演説が世界のメディアに流れると、にわかに風向きが変わってきた。
ワシントンポストは社説で「教科書問題をことさら大きく取り上げ、さらに北京や上海、他の都市にいる日本の外交使節やレストランをデモ隊が襲撃することを許し、仕向けさえしたのは、胡政権である。街頭で起こった日本に対する大衆の敵対行為は極めて多かった。しかし、胡政権は自分たちの目的のために、それを使い、また焚き付けるという責任感のない、危険な決定をしたのだ。」と中国を酷評した。(サイト内参照記事

4月23日付のタイの英字紙ネーションは、タイのタクシン・チナワット(Thaksin Shinawatra)首相と、中国の胡錦濤(Hu Jintao)主席の会談に出席した関係者の話として、小泉首相がアジア・アフリカ首脳会議で「痛切な反省と心からのおわび」を表明したことについて、 中国の胡主席が「国際会議の場で日本がこうした発言をしたのは初めてだ」と述べ、前向きに受け止めていることを示唆した、と伝えた。
また、中国外交部の孔泉(Kong Quan)報道局長は、「60年前の戦争に関しては日本が中国を含めアジアの国々に大きな被害を与えたが、小泉首相の態度は歓迎する」と述べた、と伝えている。(サイト内参照記事

ちなみに22日付の記事(Thaksin to meet Hu Jintao)では、消息筋の話として、タイと中国の首脳会談の議題のトップが日中の教科書論争のことであり、中国はタイがどちらの味方に付くのか知りたがっている、また、中国が強く反対している日本の安全保障理事会の常任理事国入りに関して、タイ政府は支持すると書かれている。(Top of the agenda is the ongoing squabble between China and Japan over the content of a history textbook. The sources said that China would like to know Thailand's position on the issue. Thailand has backed Japan's bid for a permanent seat in the UN Security Council, while China strongly opposes it.)
小泉謝罪発言を受けた中国政府の焦りが伝わってくるような感じである。

今や中国は自らが焚き付けた反日抗議デモを、表面上は取り締まるそぶりを見せている。
外交カードとして使った反日ブラフ(はったり)は、今までなら中国の一方的な勝利に終っていたが、外国プレスが酷評したことによって引っ込めざるを得なくなったようだ。
これは日本政府がバンドン(Asian African Summit in Bandung)で謝罪したことで起こったことでなく、中国が外資の撤退を恐れてのことに過ぎないと私は思う。
「田中字の国際ニュース解説」によれば、アメリカの衰退はすでに始まっていると言うが、中国が敵にできるほど弱体化してないだろう。
それどころか、2008年度までで円借款を停止することを公表してから中国の対日非難が増加していると、ジャーナリストの吉田鈴香は言う。
もしかすると、中国の指導者たちは、本当に「東京(日本)の持つ重要な経済関係に対して起こりうるダメージを心配」しているのかもしれない。

対中円借款、3年後終了 北京五輪めどに 政府・与党固める
(2005.3.3 読売新聞)
政府・与党は、中国向け政府開発援助(ODA)の中心を占める円借款について、北京五輪が開かれる3年後の2008年をめどに新規供与を停止する方針を固め、中国側と調整に入った。政府筋が2日明らかにした。

中国は急速な経済成長を続けており、軍備増強も目立つことから、「円借款の役割はすでに終えた」(外務省幹部)と判断した。日本のODA予算全体が縮小する中で、アフリカなど、より緊急性の高い地域に手厚くODAを配分する狙いもある。

中国向けODAは、2003年度で総額1080億円。このうち、円借款は967億円を占める。このほか、無償資金協力が52億円、技術協力62億円となっている。

今後の削減方針としては、新規の事業に対する円借款を段階的に減らし、2008年夏の北京五輪までに打ち切る。ただ、複数年にまたがる事業への融資は2008年以降も継続し、この事業が完了した時点で、完全に終了することを検討している。
返済が不要な無償資金協力についても、段階的に削減を進め、災害防止など小規模の援助を除いて打ち切る方向で調整する。

ただ、中国側は、ODAの早期打ち切りには難色を示しており、日中間の調整が手間取る可能性もある。

細田官房長官は2日の記者会見で、「円満に話し合いの結果、合意されることがもっとも望ましい。一方的に宣言をして終わりということは考えていない」と述べ、中国と協議して結論を出す考えを強調した。

中国向けの円借款は、2003年度までの累計で約3兆472億円に上り、主に空港や道路整備などに充てられてきた。ただ、中国の経済成長や、日本国内の財政状況が厳しいことを背景に、2000年度の2144億円をピークに3年連続で減少している。

一方、韓国の盧大統領は、気持ち悪いくらいに軟化した。
おそらくその理由は、小泉首相の謝罪でも、外国プレスの中国への圧力でもなく、自国の問題だろう。
4月27日の朝鮮日報英語版はこう言っている。
日韓基本条約のすべてが公開されるか否かにかかわらず、政府は未解決の課題に関してその責任を引き受けざるを得ない。しかし、政府は、そういった努力がはるかに不十分で、(韓国政府)自身が責任を取ることができる歴史の事実でさえ隠していた。今のところ、1965年の日韓基本条約が公開されたのは一部だけだ。」と盧大統領は述べた。
果たして韓国は歴史問題を今後も外交カードとして使えるのだろうか?


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