ハッピーリタイアメントのために
(「家計の防衛のために」を改題)

【2006年3月21日掲載/2014年10月6日最終更新】


独立開業するのは困難だと言われるファイナンシャル・プランナー(FP)だが、その技能検定試験の勉強をしていて良かったと思えることがいくつかある。
それは、自分が投資をやっている上で知識の幅が広がること、特に法律や制度については嫌でもやらざるを得ないのでそういった面でのプラスは大きい。
そして、巷では昨今の社会情勢から家計をいかに守るかということが言われているが、いったいどのくらいの資金を用意すればいいのか、数字を出してシミュレーションできるようになったということだ。

それが、これから紹介する6つの係数(factors)だ。

これらはキャッシュフロー表の作成や必要資金の把握には不可欠で、終価係数と現価係数は単純複利計算に、減債基金係数と年金終価係数は積立による複利計算を、年金現価係数と資本回収係数は年金に関する係数で、資本回収係数は住宅ローンなどの長期債務の返済額を計算するときにも役立つ。

ファイナンシャル・プランナー(FP)などのウェブサイトを検索すると、これらの係数表が出ているが、係数の根拠となる計算式がわかるサイトは極めて少ないようだ。
私はこの中から「かめはうすさん」のおまけのコーナーにある「資金係数」を参考に資金係数表をエクセル(Excel)で作成した。
これらの係数はMortgage Cash Flow(住宅ローンのための資金繰り)のためのものでもあるため、これらを理解することは、住宅ローンの返済を続けながらどう将来設計をプランニングしていくかにも大いに役に立つだろう。


資金係数表(Excel)の基本構造

資金係数表(Excel)をダウンロードしてカスタマイズして使う場合には、以下のことに注意すること。

- A B C
1 資本回収係数
2 現在の原資を取り崩して毎期ごとの年金額を求めたり、住宅ローンなどの借り入れ総額から毎期ごとの返済額を求める係数。
3 - 2% 3%
4 10 =ROUND($B$3/(1-(1/POWER(1+$B$3,$A4))),5) =ROUND($C$3/(1-(1/POWER(1+$C$3,$A4))),5)
5 15 =ROUND($B$3/(1-(1/POWER(1+$B$3,$A5))),5) =ROUND($C$3/(1-(1/POWER(1+$C$3,$A5))),5)

資金係数を使った金融商品の試算の前提条件
金融商品 名目年利率
三菱東京UFJ銀行の1年物のスーパー定期預金(2006.3.20) 0.06%
野村證券の米ドルMMF(2006.3.20)
為替手数料:TTS(円から外貨)US$1=\116.6
為替手数料:TTB(外貨から円)US$1=\115.6
3.893%
新型住宅ローン(フラット35)
三井住友銀行(30年返済固定金利/2006.3.31までの融資実行分)
2.86%

終価係数(The future value factor for lump sum)

現在の金額(元本)を一定期間複利で運用した後にいくらになるかを示す係数。
元金をPV、1期あたりの利率をR、N期後の元利合計をFVとすると FV=PV*POWER(1+R,N) となる。この POWER(1+R,N) を終価係数という。

簡単に言えば1年複利の金融商品の場合、(1+年利率)の年数乗で、例えば三菱東京UFJ銀行で1年物のスーパー定期に5年預けた場合を例に取ると、

実質年利率が 0.06%*0.8=0.048% となり、(1+0.00048)の5乗の 1.0024 が終価係数となる。

仮に100万円を5年間預けたとしても利息は2400円しか付かないということになる。

それでは話にならないと、為替の変動リスクを取り、野村證券の米ドルMMFに5年預けた場合を例に取ると、

実質年利率が 3.893%*0.8=3.114% となり、(1+0.03114)の5乗の 1.166 が終価係数となる。

仮に100万円を米ドルに両替し(TTSレートはUS$1=\116.6)、US$8,576を元金として5年後の元利合計を計算すると US$10,000、これは90円まで円高が進んでもリスクカバーができる計算となる。
もっとも、この計算には米ドルMMFの年換算利回り(利率)が不変であるという前提に立っていることに注意すること。
これらについての詳細は初心者のための外貨投資入門を見て欲しい。

ちなみに「72の法則」は、投資元本が2倍に増えるまでの期間は、「72÷実質年利率」で求められるもので、たとえば年利6%で運用した場合、元本が2倍になるまでの期間は12年になるということで、この終価係数を使った法則の典型例である。
こう考えれば、円建ての定期預金や国債を買うことは、少なくとも資産を増やすという目的には使えないことがわかるだろう。
要するに、次のステップへ行くための元本を作る、あるいは2年後とか3年後に使う予定の金を別会計にしておくための防衛手段としては有効だ。

それでは資金係数表(Excel)をダウンロードして自分なりに試算してみよう。


現価係数(The present value factor for lump sum)

最終的な目標額を達成するためには元金をいくら用意すれば良いかを求める係数。元金をPV、1期あたりの利率をR、N期後の目標額をFVとすると PV=FV*(1/POWER(1+R,N)) となる。この1/POWER(1+R,N) を現価係数という。

この係数は先ほどの終価係数の逆と思えばいい。
仮に、今から5年後に1,000万円(TTBレートがUS$1=\115.6としてUS$86,500)を用意するためには、いくらの元金があればいいかということだ。

現価係数=1/終価係数なので、

円預金の場合は、1/1.0024=0.9976 が現価係数、手元に9,976,000円ないと5年後に目標達成はできないということなので、非現実的この上ない試算と言える。
一方の米ドルMMFの場合は、1/1.1657=0.8578 となり、手元にUS$74,200(TTSレートがUS$1=\116.6として8,652,000円)あればいいということになる。

それでは資金係数表(Excel)をダウンロードして自分なりに試算してみよう。


減債基金係数(The sinking fund factor)

最終的な目標額を達成するためには毎期ごとにいくら積み立てれば良いかを求める係数。毎期ごとの定期支払額をPMT、1期あたりの利率をR、N期後の目標額をFVAとすると、PMT=FVA*(R/(POWER(1+R,N)-1)) となる。この R/(POWER(1+R,N)-1) を減債基金係数という。

要するに先ほどの現価係数が一括払いの資産運用を前提にしているのに対し、こちらは積立による資産運用を前提にしている。
先ほどの例で言えば、5年後に1,000万円(TTBレートがUS$1=\115.6としてUS$86,500)を用意するためには、毎年いくらずつ積み立てればいいかという試算をする。

減債基金係数=利率/(終価係数-1)なので、

円預金の場合は、0.048%/(1.0024023-1)=0.19981となり、毎年 1,998,000円の積立を必要とすることがわかる。
米ドルMMFの場合は、3.114%/(1.1657-1)=0.18792となり、毎年末にUS$16,255(TTSレートがUS$1=\116.6として1,895,000円)の積立が必要となり、為替手数料を考えると外貨建て商品の基本的リスクである、円高に振れると差損(円建て換算した場合の元本割れ)が発生する可能性が高くなることが言える。
この点が積立の場合と一括払いの商品の大きな差と言えようか。
また、銀行でやっている米ドル預金の為替手数料との差である片道50銭が積立の場合は、大きく響いてくることもわかるだろう。

それでは資金係数表(Excel)をダウンロードして自分なりに試算してみよう。


年金終価係数(The future value factor for annuity)

毎期ごとの定期支払いにより最終的な元利合計がいくらになるかを求める係数。毎期ごとの積立金をPMT、1期あたりの利率をR、N期後の元利合計をFVAとすると FVA=PMT*((POWER(1+R,N)-1)/R) となる。この (POWER(1+R,N)-1)/R を年金終価係数という。

典型的な積立による将来の見込み額の試算をするための係数である。
毎年100万円ずつ積み立てた場合、5年後の元利合計はいくらになるか試算する。

年金終価係数=(終価係数-1)/利率なので、

円預金の場合は、(1.0024023-1)/0.048%=5.005となり、5年後には5,005,000円となることがわかる。
米ドルMMFの場合は、(1.1657-1)/3.114%=5.321となり、為替レートが現在と変わらないと仮定すると、毎年の積立額は、US$8,576(TTSレートがUS$1=\116.6で計算)となり、5年後にはUS$45,633(TTBレートがUS$1=\115.6で5,275,000円)となる。
こちらも先ほどの減債基金係数の裏返しなので、外貨建て商品のリスクについては同じ程度あると認識した方がいいだろう。

それでは資金係数表(Excel)をダウンロードして自分なりに試算してみよう。


年金現価係数(The present value factor for annuity)

毎期ごとに一定額(年金)を受け取るために、どのくらいの原資を払い込めば妥当かを求める係数。毎期ごとの受取額(年金)をANN、割引率(利子率)をR、元金をPVA、受取期間をNとすると PVA=ANN*((1-1/POWER(1+R,N))/R) となる。この (1-1/POWER(1+R,N))/R を年金現価係数という。

この係数は、現価係数(目標額達成のための原資を求める係数)あるいは減債基金係数(目標額達成のための積立額を求める係数)とともに使うことが多くなるだろう。

例えば、現在50歳(昭和30年(1955年)4月2日以降生まれ)の男性が、10年後(60歳)から部分年金(報酬比例部分の厚生年金=別個の給付)の受給開始年齢となる62歳までの2年間のつなぎとして、毎年100万円の年金を受け取りたいとしたらどうすればいいか、といった場合である。

まず、60歳時点でいくらあれば、2年間に100万円(TTBレートがUS$1=\115.6でUS$8,651)ずつ受け取れるかというのを算出するのに、年金現価係数「(1-1/終価係数)/利率」を使い、

次に、50歳から60歳になるまで、毎年いくらずつ積立をしたらいいのかという計算には、減債基金係数(目標額達成のための積立額を求める係数)を使う。

それでは資金係数表(Excel)をダウンロードして自分なりに試算してみよう。


資本回収係数(The amortization factor)

現在の原資を取り崩して毎期ごとの年金額を求めたり、住宅ローンなどの借り入れ総額から毎期ごとの返済額を求める係数。毎期ごとの受取額(年金)または返済額をANN、利率をR、元金をPVA、受取(返済)期間をNとすると ANN=PVA*(R/(1-(1/POWER(1+R,N)))。この (R/(1-(1/POWER(1+R,N))) を資本回収係数という。

この係数は主に住宅ローンなどの長期債務の返済額を求めるときに使われることが多いようだ。
ここでは、三井住友銀行の住宅ローンを例に計算してみよう。
住宅ローンシミュレーターは今や各金融機関のウェブサイトにあって、自分でやるよりはるかに正確だが、ここではその計算(元利均等返済)の仕組みだけ理解できればいいと思う。

資本回収係数=利率/(1-(1/終価係数))なので、

3,000万円を全期間固定金利2.86%で借り、30年間で返済すると、2.86%/(1-(1/2.33)=0.0501となり、毎年の返済額は1,503,000円となる。
これを逆算して30倍すると、約4,500万円が返済総額、これだけの大きな借金を背負うのであればこそ慎重にシミュレーションはした方がいい。
ちなみに、このシミュレーションは私が15年以上も前にはじき出した「健康的で文化的な生活を続けられる理論値」でことを言っておきたい。「今日の一言(2004年6月27日)
今後、長期金利が上がると、銀行が企業に融資する際の貸出金利や住宅ローンの金利も引き上げられることになる。
もし、金融機関の住宅ローン貸出キャンペーンに乗せられてリスキーな変動金利型ローンを組んでいるなら早めに全期間固定金利型へ切り替えることも必要だ。

また、毎年の返済額が可処分所得(税込み年収から税金と社会保険料を引いたもので俗に言う手取額とは異なる)の30%を超えるようだと要注意、35%を超えるなら住宅を手放す決断も必要となる、と多重債務者救済にカを注ぐホームロイヤーズ所長の西田研志弁護士は言っている。
自分たちの生活がズタズタになる前に必要な知識は仕入れておいた方がいいだろう。(ローン対策のリンク集

ちなみに、ここで私がなぜ三井住友銀行を取り上げたかと言うと、「企業再生屋が書いた借りたカネは返すな! 」の著者である加治将一氏、八木宏之氏が、旧東京三菱銀行と並んで、不良債権に対する対処基準がしっかりしているので、一番シビアだが、しっかりとした準備をすれば、債務返済が行き詰まったときのリスケジュール(返済を延ばす)交渉がやりやすい、と書いているからだ。
こういうこともリスク管理の1つとして覚えておくといいかもしれない。
但し、旧UFJ銀行はなかなか話がまとまらない、と書いているので念のため。
同じ三菱東京UFJ銀行でも合併前の銀行がどこであるかで対応が違うのはみずほ銀行と同じリスクがあると言えようか。


いかがだっただろうか。
数字の羅列で頭が痛くなったかもしれないが、政府が1990年代に銀行やゾンビ企業の救済に熱心なあまり、国民の生活をズタズタにしてしまったツケを我々が自己責任で払わなくてはならないという理不尽な世の中で、及ばずながらも家計を防衛するためには数字をはじき出すことが何より重要であろう。
そのためにこれが少しでも役立てば幸いかと思う。


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