支払う金が足りない−「酒屋・工務店・ガソリンスタンド」の年金も大赤字
「解散にいたった原因は、加入員が約20%も減少したことです。加えて、いまの建設業界の状態では掛け金は引き上げられない。運用5.5%の高利回りも不可能です。一方で年金受給者は増え続け、これでは誰か考えても基金を維持することは無理ですよ。」
2002年8月、佐賀県建設業厚生年金基金が解散した。同基金は1988年設立で、加入事務所271杜、加入員数7,789人を抱えていた。冒頭の言葉は、その残務整理にあたっている事務局職員のものだ。
国民年金、厚生年金と同様に、中小企業経営者などが加入できる厚生年金基金も破綻の危機にあえいでいる。
工務店やガソリンスタンドなど独立した小売店の経営者と社員は、総合設立型の厚生年金基金に加入することができる。総合設立型とは、同業の中小企業などが集まり、加入員3000人以上で作る年金基金である。
2003年1月現在で616基金が存在している。
厚生年金基金に加入すると、国民年金、厚生年金とは別に、3階建ての厚生年金基金の部分の給付を受けられる。(年金の仕組みはこちら)
しかし、これらの年金基金もご多分に漏れず、資金不足に悩んでいる。高利回りの運用ができないまま、受給金額は増え、掛け金は上がらず、新規加入者は不足、既加入者の脱退の五重苦に泣いているのである。
石油業厚生年金基金は、全国6600の事業所経営者とその社員など約14万人が加入している。この基金は石油業界の企業年金として1970年に設立され、傘下に地域ごとの22の年金基金を束ねている。
掛け金は給与に応じて違うが、月給25万円の人は月約1万円の掛け金を支払い、60歳から受給が開始される。期間は10年、20年、30年などがあり、開始時に選ぷことができるシステムになっている。
22あるうちのひとつの石油業厚生年金基金は、予定利率を5.5%から2.5%まで引き下げる決定をした。
年金基金関係者が苦しい台所事情を明かす。
「最近の株価低迷を受けて、うちも2003年の4月から予定利率を下げることで対処していきます。(支給しなければいけない金額に)不足金が出れば、掛け金を上げるか給付率を下げるかしかない。今までは掛け金を上げることでやってきたのですが、それももう限界です。」
■2001年度1年で59基金も解散した
厚生年金基金が解散する場合、厚生労働大臣の許可を必要とするうえ、解散時に一定の責任準備金を保有していなければならない。
しかし、全体で1705ある厚生年金基金の76.8%にあたる1309基金の資産が、責任準備金より少ないことが、厚生年金基金連合会の調査で判明している。
前出の佐賀県建設業厚生年金基金の事務局職員が続ける。「当方は、解散のために(厚生年金)基金連合会に155億円を納めました。原資があるうちに解散できたということです。」
厚生年金基金の解散はバブルが弾けた10年ほど前から始まっていた。
1994年4月に日本紡績業厚生年金基金が解散したのを皮切りに、2001年度は北陸トラック業厚生年金基金をはじめとして59基金が解散。
しかし、解散できる年金基金はまだマシだ。責任準備金が足りず、破綻するのを待つしかないところが少なくないのだ。
中小企業経営者が加入できる私的年金も、受給額不足に陥っている。
小売酒販店の全国団体である全国小売酒販組合中央会の私的な年金の団体、「酒販年金」も例外ではない。
この年金は、加入者が中央会に掛け金を払い込み、一定の年齢に達したら利息を加えた年金を受給できるシステム。
東京都千代田区で酒店を営む経営者が嘆く。「うちでは、約100万円の掛け金を一括して払いました。受給は去年から始まっていて、月14万円を5年間もらえることになっています。けれど、最初の話に比べると半額ですよ。アテにしていたおカネなので困っています。」
一説には同中央会の不足金は100億円にものぼると言われている。同中央会に、実際それだけの不足金があるのか、今後、掛け金や受給金額の改革をするつもりがあるのかを聞いてみた。
「(年金制度を)維持をするためには制度を変更していかないと。(不足金100億円というのは)議案書に載っていることで、周知している。今、一番厳しいところなので、そういうのを排除するようにやっていこうと。」(中央会事務局員談)と、厳しい現状に頭を悩ませているようだ。
同中央会の監督、指導をする国税庁酒税課に話を聞いた。課長補佐・前田美弘氏が、慎重に言葉を選びながら、こう話す。
「とにかく、破綻という最悪の事態は避けたい。(破綻を免れるために)制度変更でいけるのか、それとも大英断しないといけないのか、そういう判断も厳しいでしょうが、現状として厳しいことは間違いない。加入者の意見を聴いて、厳しい状況にどういう判断を下すのか、早く結論を出すべきだと思っています。」
■もらった年金を返す悲劇も
この酒販年金と同じ仕組みの年金運用をしていたのが、「経営リレー年金」(加入者620組)である。
経営リレー年金とは、全国の米穀店約1万7000店を組織している社団法人・日本米穀小売振興会の経営者を対象とした共済年金である。
経営リレー年金は親子など、経営者と後継者が二人一組で加入し、経営者は月1万円を最低5年間支払う(計60万円)。経営者が60歳になって名義を後継者に譲ると年金支給がはじまり、60歳からの15年間で総額約370万円を受け取れるというのがキャッチフレーズだった。
ところが、1998年4月に破綻した。
日本米穀小売振興会の事務局員が証言する。「経営リレー年金が廃止になったとき、苦情電話が殺到したのは事実です。内容は、『当初の約束と違うじゃないか。55歳で加入して5年間60万円支払えば65歳まで月2万9350円、65歳を越えると1万6350円受け取れます、75歳まで受けとれるのは372万円と言っていたじゃないか。だから、加入したのに、どういうことだ!』『払った元本は戻ってくるんだろうな! 約束しろ!』との必死の電話でした。元本だけはちゃんと支払っています。」
破綻から4年半経ったいま、すでに受給を受けた人に対しても振興会からの返還金の取り立てが続いている。「掛け金支払額が多い208組には、1億5000万円を返します。しかし、受給額の多い412組には、当方から1億3000万円の返遺を求めました。現在、約8割が返還されましたが、2割はまだ未返還です。その方には、手紙などで返還を督促しております。」(前出・事務局員)
こうなると、加入者はもちろん、解散時に責任準備金を調達しなければならない年金基金にとっても地獄だ。ある企業コンサルタントが言う。
「破綻もどこ吹く風というのは、役人と天下り組だけ。そもそも厚生年金基金そのものが複雑な仕組みになっていて、中小企業の経営者も社員もわかっていない。わかっているのは天下り役人だけ。役人連中は”改革”と称するお茶濁しをやって、解散したがらないんです。」(同・企業コンサルタント)
役人が自分の利権のために利用してきた厚生年金基金制度。そのツケが国民に回されてくる、悪しき構造はここにも顔をのぞかせている。
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