普通の会社に勤める普通の人々

2002年3月、国土交通省が「ゆとり休暇で生活構造改革をポスター)」との政策を発表した。
これに先立つこと3年、エアーリンクトラベルの瀧本泰行会長は当時の小渕首相あてに同じような政策の実施を要請した。
いずれも欧米型のバカンス文化 を根付かせようというものであるが現実は厳しい。(休みが足りないって? - Newsweek Japan 1999.8.25 PDF)


日本のサラリーマンにとって長期休暇というものが果てしない夢である者は少なくない。
しかし、日本が光り輝いていた時代、1989年当時、日本社会は「時短元年」あるいは「余暇元年」となりうる可能性があったのだ。
国の行政機関が1989年1月から月2回土曜閉庁(但し、現在は週休2日制)に踏み切ったのに続いて、2月からは金融機関の週休2日制がスタート、欧米並みの本格的週休2日制社会に近づいたようにも見えたからだ。
それでもなお、江口浩氏は「国際化ってほんと?」という著書の中で「余暇元年は早計?」と疑問を投げかけた。
実際には彼の疑問は的中した。
失われた10年(lost decade)と言われる不況だけが原因ではないと私は思う。
いわゆる「普通の会社に勤める普通の人々」が長期休暇を取れたかどうか、であったと思うのだ。


私の手元に佐高信氏の著書「新版KKニッポン就職事情」という本がある。
その第1章「ニッポン・カンパニーの入口」に書かれていたのが、下表にある「良い会社」なのだが、あなたはこれを見てどう思うか?
1989年当時と比べて今は「良い会社」が増えたと思うか、「悪い会社」が増えたと思うか?

「良い会社」の基準-1989年の日経ビジネスより
(普通の会社・悪い会社については筆者の判断による)
項目 良い会社 普通の会社 悪い会社
専門能力 プロとして通用する能力が開発できる。 一般的にその会社で通用する能力(company specific)だけしか得られない。 これらの会社で働く意義を見出すことはできない。
評価内容の公開 社内での自分の実績がわかる。 評価基準は必ずしも公開されているわけではない。 昇進か解雇かは上司の気分次第である。
サービス残業
(労働基準法違反)
時間外労働には対価が支払われる。 サービス残業が常態としてある。 サービス残業しないと嫌がらせのみならず解雇される。
自発性の尊重 社員の希望をかなえ、納得ずくで仕事をさせる。 座右の銘は「石の上にも3年。(Perseverance brings success.)」 座右の銘は「出る杭は打たれる。(Don't make waves.)」
休日 大切な休みを社用で潰さない。 休日がしばしば社用や接待で潰される。 多くの社員が休日出勤をしている。
社会活動 市民として積極的な参加を奨励する。 そういった活動は会社にあまり歓迎されない。 社外の人との付き合い自体を嫌悪される。
雇用契約 社員を人間として尊重する。 ノーメンクラトゥーラ(nomenklatura=旧ソ連の特権官僚)のような特定の人以外は組織の歯車(a cog in the machine)でしかない。 社員は使い捨て(expendable)のコマである。
意思疎通 自由闊達な社内コミュニケーションがある。 しばしばコミュニケーションは上意下達になりがちである。 コミュニケーションとはゴマすりのことである。
企業目的 どんな会社を目指すのかが明確である。 横並びメンタティが支配的である。 守銭奴(moneygrubber)
10 上下関係 上司への全人格的従属をせずにすむ。 自分の自由時間を上司に支配されることがある。 男色家と男妾のようなもの

重ねて言うが、これは当時のサラリーマンが「良い会社」の基準としてあげた項目だ。
ここにあげた「普通の会社に勤める普通の人々」が長期バカンスを楽しむことができるか?
これに加え、子供を持つ者には教育費と住宅費が重たい負担となっている。
特に、日本で持ち家をしている人の多くは一生涯ローンを背負い続けなければならないと言われる。
こうしてみると、日本人の多くが長期バカンスを楽しむことができるようになる日は果てしなく遠いような気がしてならない。

今まで教えられてきた価値観を打ち破るのに読んだほうがいい本を紹介しよう。
特にこれから家を買おうとか、子供の進学を控えた親は読んだ方がいいだろう。
それが1997年11月24日の山一證券倒産以後、日本人が転換を余儀なくされた「神話」とか「常識」が前時代、つまり高度成長時代に築かれた単なるセオリーに過ぎなかったということが理解できると思うからだ。
まあ、アメリカやヨーロッパへ行くときの機内で読むといいだろう。


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