日本のマスコミがアンタッチャブルな理由

【2006年6月11日掲載】


私は英字新聞をすらすら読めるほど語学力があるわけではないが、今でも思い出すことが1つある。
それは1995年にオーストラリアへ初めて行ったときに泊まったホリデーイン(Holiday Inn Cairns)で、クラブメンバー(Priority Club)特典として毎朝デリバリーされた新聞がものすごく分厚く感じたことだった。
逆に、何で日本の新聞はあんなに薄っぺらいのだろうかという疑問を持った。
それでも、当時は日本の新聞について気に留めたことはそれだけだった。

そして、1997年に山一ショックが起きて日本の金融危機が顕在化したとき、私は年末年始のタイ・香港旅行で買ったSouth China Morning Postをわざわざ日本まで持って帰り、引き出しから英和辞典まで出して関連記事を読み直した。
もちろん、駅売りで買った日本の新聞の経済面と見比べてみて、あまりの違いに驚いたものだった。
日本の新聞には香港の英字新聞と違って

Not even Japan's hosting of the Winter Olympic Games in Nagano next month and its feat in making the World Cup finals for the first time could take the spotlight off the economic crisis.
(日本が主催する翌月の長野五輪や、初出場でワールド・カップの決勝リーグ進出という離れ技があったとしても、経済危機から目をそらすことはできない)

などという厳しい論調はどこにも見当たらなかったし、旅行前にはさんざん報道されていた香港の新型インフルエンザ(H5N1)の記事も、現地での危機的な見出しとは裏腹に、日本ではすでに終息宣言でも出されたかのような静けさだった。
英字新聞のわずか数行の囲み記事を読むのに半日もかかったが、やった甲斐は十分過ぎるほどにあった。

この時からだったと思う。
日本のメディアの報道には何かバイアス(bias=先入観・偏見・偏向)がかかっていて、私たちが知らされていないことが意外に多いのではないかと思い始めたのは・・・
そして、私は日本のメディア記事とは違うものが読めるのではという期待を抱きながらNewsweek Japanの購読を始め、手当たり次第に本を読み漁るようになった。
それらの中で日本のマスコミの体質のことに触れていた1冊の本、それは落合信彦氏の「日本の正体」というものだった。

新聞の正体「ペンを持った羊たちの沈黙」
多くの記者は、真実を知っていても「記者クラブ」という情報談合村からの村八分が怖くて、有力者の顔色を伺いながら当たり障りのない記事でお茶を濁している。
また、欧米の新聞はジャーナリズムがビジネスに優先するが、日本の大新聞はスクープ競争で勝つことよりも部数の獲得に心を奪われている。
特に国際ニュースの場合、日本の記者は現場で取材することをしない。
そのほかにも
  1. 権力と徹底的に闘ったことがない。(言論統制に屈しやすい)
  2. ページが少なく、情報量が足りない。(質量ともに知的階層のニーズに耐えられるレベルではない)
  3. 意見がない。署名記事が少ない。(社説のほとんどが毒にも薬にもならない「あと解説」で、欧米紙のコラムと違って読む価値がない)
  4. 大衆紙が大衆紙なりの役割を果たしていない。(世の中の臭い部分に噛みつく役割を日刊の夕刊紙が受け持つべき)
  5. 読まれないで企業にファイルされたままの新聞が多い。(特に専門紙)
  6. スポーツ朝刊紙が独特の地位を占めている。(批判精神は評価できるが誹謗中傷となっているケースが多々あり、駅売りの新聞はセックス記事がある)
という問題点がある。
テレビの正体「愚民化の道具としてのテレビ」
  • 日本のテレビは愚民化の道具である。
  • 日本のテレビは情報機関でなく、大衆に媚びる媚薬の安売り屋である。
  • ワイドショーはゴシップに満ちた番組であり、デイタイムに主婦向けに流しているものは日本最大の時間の無駄である。
  • 日本の「愚民化」を多少なりともストップをかけるため、「ニュース専門局」と「スポーツ専門局」を作るべきである。

そして、落合信彦氏の本に限らず、次々に読んだ本、雑誌の記事の一部は、日本のマスメディアの最大のガンは記者クラブ制度に代表される閉鎖体質だということを指摘していた。
彼らの言うことは私にはもっともに聞こえた。
インターネットで英字新聞のサイトにアクセスするようになると、それはより鮮明な形で報じられることもあった。(EU acts to free Japanese media)
また、ある週刊誌によると、記者クラブの運営費もすべて相手丸抱えのところが多いといい、それは相手が役所の場合でも変わらないという。
そこで財政改革のためと情報公開の流れで役所が記者クラブの廃止を持ち出そうものなら、その自治体に対する好意的な論調はほとんどなくなるとも言われている。
極論すれば、市民サービスをカットして、マスコミにサービスしろという恐喝まがいの姿勢にも映る。

私はライブドアの堀江貴文社長がニッポン放送株を手がかりにしてフジテレビを支配下に収めようとしたとき、素直に歓迎の意を表した。「今日の一言(2005年2月28日2005年2月10日2004年7月5日)」
単純にゴリゴリの規制業界へ殴りこんだ異端児を応援したかったからだ。
今でこそ彼は証券取引法違反の容疑で拘置所に叩き込まれた身、陰では良からぬことも多くやっていると言われるが、テレビ業界へ殴りこむことができることを証明した功績だけは評価したいと思う。
今後は彼の手法が違法行為となるように証券取引法の改正がされたとも聞くが、そうなると実質的にテレビ業界への新規参入は半永久的に不可能となるわけだ。
彼の逮捕によって、枕を高くして寝れる御仁が何人、何十人といることだろう。


一方の新聞業界についてもゴリゴリの規制業界だ。
これに公正取引委員会の竹島一彦委員長がアリの一穴を開けようとしたのだが、姑息にも国会議員応援団を焚き付けて圧力をかけた新聞業界の勝利に終わったようだ。

そもそも彼らは、「独占禁止法に基づいて新聞の同一紙・全国同一価格での販売などを定めた「特殊指定」の廃止をすれば、行き過ぎた価格競争が起き、新聞販売店の経営悪化などで戸別配達網の崩壊につながる恐れがある。」と言うが、これが本音なら小泉内閣の太鼓持ちをして喧伝した郵政民営化は、行き過ぎた価格競争も起きないし、過疎地の郵便局の撤退もないし、戸別配達網の崩壊につながることもないのかと聞きたい。

2004年3月22日の「今日の一言」でも紹介しているが、「不機嫌な時代(Japan 2020)」の著者、ピ−ター・タスカ(Peter Tasker)は、

一般の人々の心理にいちばん影響を与える業種は、なんといってもマスコミである。
その一方でマスコミは、資本の論理がもっとも通じにくく、きわめて官僚的なふるまいを見せる業種でもある。

もちろん、マスコミも再配分連盟(redistributional coalition=マンクール・オルソンというエコノミストが命名した社会の変革期における反改革的な利害団体)の一つになっており、ほかの再配分連盟と同じように大義名分が用意されている。

すなわち、「社会に役立つために」、「権力を監視するために」という存在理由がそれだ。そして、新規参入がしにくい構造になっている。
また、行政との緊密度も高くなっていることはいうまでもない。

そのいい例は再販制度の議論である。
マスコミ自身がその議論を独占して、再販制度がなければ日本全国の家庭に新聞が届かないようになって文化が崩壊すると、堂々と主張している。
それでは、再販制度がない国には文化が存在しないのか。
あるいは、日本で再販制度が導入される前には、文化が存在しなかったか。
そんな議論は、まったく語られていない。

海外でも、テレビや新聞、出版は起業家にとってうま味のある分野で、起業家が活躍できる業種の一つになっている。
だが、日本のマスコミほど既得権益の天国になっている例を私は知らない。

と言っている。

実のところ彼らが恐れているのは地方の戸別配達網の崩壊(読者の利益の喪失)などではなく、フジテレビ騒動のときと同じで、現体制側のエスタブリッシュメントの権益が侵されることなのだ。
事実、2005年9月11日の郵政選挙でマスコミを最大限に利用したと思われていた政権与党が、今度は独占禁止法上の新聞特殊指定存続問題で、マスコミの既得権益擁護に汲々としている様は滑稽である。
しかも与党だけでなく、野党の共産党に至るまで全会一致での協力ぶりだ。

また、現体制側のエスタブリッシュメントが強固なメディア連合を形成せしめる目的は、世の中で起こっている重大なことから国民の目を背けさせるためで、そこへの新規参入を徹底的に妨害することは、そのシステムを崩壊させないために欠かさざるべきことなのだ。
どんな小さな穴でも防がなくてはならない。
ホリエモンや村上ファンドの騒動の陰で新聞業界が政治家を使って公正取引委員会にかけた露骨な圧力の目的はそこにある。

一見すると、与党議員とマスコミはギブ・アンド・テイクのような関係にも見えるが、郵政選挙のときにマスコミの提灯報道の影響力の予想外の強さに驚いた与党議員たちは、逆にマスコミを敵に回すことの恐ろしさを感じ取ったのではなかろうか。
日本のマスコミが実のところ、両論併記で読者に考えさせるといったスタンスを取らず、一方的に操作された情報を垂れ流すだけの権力側の広報機関であることが、自分にとって裏目に出れば、どうなるかを知っているのは他ならぬ与党議員だからだ。

一方の野党議員は新聞業界の利益に反すれば、瑣末なスキャンダルや失策を餌に政治生命を絶たれるまで攻撃されるという恐れにおののいているとしか思えない。
同じ学歴詐称疑惑、秘書給与流用疑惑の取り扱われ方が与野党で全くといっていいほど違ったのは、それほど遠い過去ではないからだ。
事実、共産党までが自民党に協力して公正取引委員会にキチガイじみた態度を取っているのは、立法府全体がマスコミの軍門に下った象徴的な出来事とも言えよう。

独禁法改正案の提出見送り 自民、新聞特殊指定存続で
(2006.6.2 読売新聞)
自民党新聞販売懇話会・議員立法検討チームの高市早苗座長は1日、国会内で記者会見し、公正取引委員会が新聞の同一紙・全国同一価格での販売などを定めた「特殊指定」の存続を決めたことを受け、特殊指定廃止に歯止めを掛けるための独占禁止法改正案の今国会提出は行わないことを表明した。

ただ、高市氏は、公取委が「今回の見直しでは結論を出すことを見合わせる」と遠回しな表現をしたことについて、「がっかりしている。『特殊指定を存続する』との表現であればうれしかった。改正案は党内で温存し、必要な時が来たらいつでも提出できるようにしたい」と述べ、公取委が再び新聞の特殊指定見直しの動きを見せた場合は、ただちに同改正案を議員立法で提出する考えを示した。
新聞特殊指定 廃止反対の独禁法改正案、今国会提出へ
(2006.5.20 読売新聞)
公正取引委員会が、独占禁止法に基づいて新聞の同一紙・全国同一価格での販売などを定めた「特殊指定」の廃止を検討している問題で、自民党新聞販売懇話会(会長代行・中川政調会長)の議員立法検討チーム(高市早苗座長)は19日、廃止反対の立場で独禁法改正案をまとめ、党経済産業部会に提案した。改正案は来週にも同部会で了承され、今国会に提出される見通しだ。

また、公明党の冬柴幹事長は19日、「特殊指定の議員立法案は、自民党との共同提案としたい」と述べ、自公両党による共同提案にしたい意向を示した。
改正案は
  1. 公取委が特殊指定を変更・廃止する場合には、公聴会の開催などを義務付ける

  2. 現在は公取委の告示で定めている特殊指定の内容を、独禁法本法に明記する

が柱だ。
現行の独禁法では、新たに特殊指定を定める場合に公聴会の開催が義務付けられているが、変更や廃止の場合の規定はない。
また公取委告示の改廃は、国会での審議を経ずに公取委の判断で行える仕組みとなっており、与野党から「民意が反映されない」との批判が上がっている。
新聞の特殊指定をめぐっては、自民党独禁法調査会(保岡興治会長)も廃止反対で一致し、公取委と協議に入る方針を決めている。

■立法府の意志示す

自民党新聞販売懇話会の議員立法検討チーム(高市早苗座長)がまとめた独占禁止法改正案には、与野党こぞっての反対にもかかわらず新聞の特殊指定を廃止するという強硬姿勢を変えない公正取引委員会に対し、立法府として断固とした歯止めをかける狙いがある。

新聞の特殊指定には、同じ新聞ならば同一価格で販売することなどが定められている。
これが廃止されると、行き過ぎた価格競争が起き、新聞販売店の経営悪化などで戸別配達網の崩壊につながる恐れがある。

国民の「知る権利」を脅かす危険がある重大な問題だが、現在の制度では、公取委内部の意思決定だけで廃止の決定が可能な仕組みになっている。
このため、「与野党を問わず、立法府が圧倒的に反対しているのに、公取委が撤廃を強行できるのはおかしい」(自民党の山本一太参院議員)との批判が強まっていた。

改正案は、特殊指定の見直しや廃止に、公聴会や国会審議など民意を反映させる仕組みを盛り込んだ。

新たな特殊指定を定める場合についてのみ規定がある独禁法71条を改め、変更や廃止の場合でも公聴会の開催を義務付ける。
また、独禁法違反となる「不公正な取引方法」を定めた独禁法2条9項の別表の形で、3項目からなる現在の新聞特殊指定の内容を明記する。
特殊指定の位置付けを、公取委が定める「告示」から、国会で定める「法律」に格上げすることで、変更や廃止を行う場合は国会での審議が必要になる。

2006年3月15日の「今日の一言」でも書いたように、この件については公正取引委員会に正義がある。
要するに国民の利益を代表しているのは政治家ではなく公正取引委員会と言ってもいいのにもかかわらず、自分たちの既得権益が侵されると見るや、マスコミは立法府(民意)の権威を借りて公正取引委員会に圧力をかけたのだ。
なぜ、公正取引委員会に正義があるかと言えば、役所の実行する政策に対し、「本当に国民が反対している情勢」にあるならば、もっと強い調子で反対論があると言うし、それが虎の威を借りる狐みたいなモノの言い方をするのは、自分たちの既得権益擁護以外の目的がないという疚しさが溢れているからだ。

本来ならジャーナリズムの世界というのは新規参入が容易な業種の1つのように思えるのだが、日本だけは違う。
悪名高い記者クラブ制度のほかにも、2002年7月に「HEDLINE TODAY」を創刊した中山清美氏は、発行直前に生じた印刷や紙の手配に問題や、通信社や広告代理店が取引を拒んだことについて大新聞の圧力を感じたとも言っている。(2002.8.31 無料日刊紙に大きな敵!?
証券取引法違反で逮捕されたホリエモンや村上世彰氏の周辺で国策捜査の噂が絶えず、彼らが旧体制の権化たるマスコミの1つ、ニッポン放送に手を出したから捜査機関にマークされた、というのもあながちデタラメとは言い切れないだろう。
何せ、東京地検が彼らの捜査を始めたのは「ニッポン放送株取得の時期」と明言しているのに加え、彼らはニッポン放送に手を出す前から同じようなことをやっていただろうし、そちらの方は今のところ不問になっているように見えるからだ。
ちなみに、ニッポン放送を通じて手を出そうとしたフジテレビの社員は現体制側のエスタブリッシュメントのコネ入社が多いことでも有名らしい。
そこがホリエモンや村上ファンドに乗っ取られると都合が悪い人間が多いことは言うまでもないだろう。

マスコミの権益を侵す奴は許さない。
ホリエモンや村上世彰氏の逮捕で、この図式が突き崩されることの可能性は絶望的にまでなくなったとも言える。
確かに彼らは胡散臭いことをやっていたが、既存勢力にある意味では緊張感を与えたとも言えるのだ。
現体制側のエスタブリッシュメントがマスコミを利用しているのか、あるいはマスコミが彼らを利用しているのか、それとも、お互いにもたれ合っているのか。
いずれにせよ、マスコミは基本的に一般庶民にとって味方ではないと思った方がいい。
元フォーブス(Forbes)東京支局長のベンジャミン・フルフォード(Benjamin Fulford)も、その著書「泥棒国家の完成」の中で「マスコミも泥棒(現体制側のエスタブリッシュメント)の味方であり、とうてい国民の味方とは思えない」と言い切るくらいのレベルだからだ。

ちなみに、「放送倫理・番組向上機構(略称=BPO、放送倫理機構)」という、放送への意見や苦情、 特に人権や青少年と放送の問題に対して、自主的に、独立した第三者の立場から 対応する放送界の自律機関があるが、この機関について、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』には、「政府からの独立性を保ち、なおかつ放送事業者の外部に設置する機関」という理念で設立されたものの、実質的には人材や財政基盤を、設立母体であるNHK民放連に頼らざるを得ない点などから、「実質的な運営についてNHK・民放連の影響を強く受けている」との指摘もあり、また放送事業者に対する勧告や提言に法的な拘束力が無いことから、「実効性が無いテレビ局のお手盛り機関」「馴れ合い機関」「張子の虎」との批判がある、との記述もある。
日本で権力側を監視するための「独立した第三者機関」というものの実態は押しなべてこういう傾向がある。
なぜなら、そういう機関で働くスタッフの人件費は誰が負担するのか、という経営者の視点で見れば簡単に説明がつくことだからだ。
ベンジャミン・フルフォード曰く、政府も財界もマスコミとタッグを組んで国民を騙していることを考えれば、完全な第三者機関の設立は日本では不可能に近いと言えるだろう。

ところで、今のサラリーマンはテレビや新聞で「サラリー以上の貢献を会社(公務員の場合は国民)にしているのか」とかいうセリフを言われた(書かれた)ことがないだろうか。
それでは、そのマスコミに勤めている人たちはいくら貰っているのかという記事が週間ポストに掲載されていた。

週間ポスト(2006年3月3日号−民放局員の給料はこんなに高い)
会社名 売上高 営業利益 当期利益 視聴率 年間平均給与 平均年齢
日本テレビ 9404 3576億円 343億円 168億円 9.3% 14,620,000円 39.6才
TBS 9401 3017億円 225億円 98億円 7.5% 14,430,000円 43.5才
フジテレビ 4676 4767億円 436億円 228億円 9.4% 15,670,000円 39.8才
テレビ朝日 9409 2420億円 136億円 73億円 7.5% 13,570,000円 41.1才
テレビ東京 9411 1180億円 56億円 31億円 3.7% 11,350,000円 38.1才
  • 2005年3月期決算。視聴率は2003.12.29-2005.1.2までの全日平均。
  • 給与は有価証券報告書による。
  • ちなみに日本のサラリーマンの平均給与は約627万円(総務省統計局調べ)

いったい彼らは市井のサラリーマンの給与のことを批判できる立場にあるのだろうか。
また、ここで紹介されたのは民放の社員のことだが、当然、系列の新聞社やNHKの給与体系だってそれほど乖離したものではないだろう。
彼らが政治家を使ってまで公正取引委員会に圧力をかけて守ろうとしているのは何か。
また、政治家がマスコミ護送船団に恩を売って守ろうとしているものは何か。
なぜ財界は沈黙しているのか。


大衆心理操作のためのメディア

反マスコミ派の論調の1つには彼らが高給を維持するために既得権益擁護に汲々としているとあるが、理由はそれだけではない。
ここに政治学者の土屋彰久氏が書いた「50回選挙をやっても自民党が負けない50の理由」という本があり、メディアのこともその中に書かれているので紹介しよう。
現体制側のエスタブリッシュメントがマスコミを既得権益を徹底擁護する理由のすべてがここにあると言っても過言でない。
多様な主張を掲げる新聞が登場したり、テレビが多チャンネルになったら、ここに書かれている大衆心理操作の効果が激減するからだ。

■援護射撃のプロ

テレビ局は基本的に財界の意向に沿って運営されることになる。
それに、そもそもテレビ局は待遇がよいので、その運営に関わる人間は最低でも中流以上の暮らしぶりで、所得水準で見ればそのまま自民党の支持層を構成している。
そのため、テレビ局はその表向きの中立性の縛りの中で、間接的心理操作の手法を駆使するかたちで、自民党の援護射撃を行うわけである。
もちろん、全ての局、番組がそうであるというわけではない。
しかし、テレビ界全体としては自民党政治の一角を支える構造となっている。

■メディア・リテラシーなき日本の大衆

メディア・リテラシーに対しては、様々な表現で訳語や説明が当てられているが、ここでは「メディア、及びその発する情報に対する本質的な読解カ」と説明しておこう。
「本質的な読解カ」というのは、正確な理解という条件を満たした上で、その情報がそもそも真実であるか、類似の情報の中でも優先度が高いものか、その情報の発信を巡り、どのような関係者の意図、配慮が働いているか、などといった点についても検証する批判的分析を経て、その情報を冷静、客観的に処理する能力、それが「本質的な読解力」である。
メディア・リテラシーは、現代国家の市民にとって必要不可欠な資質の一つである。しかし、多くの日本人はそれを欠いている。日本人にメディア・リテラシーが欠如しているのには、いくつかの理由がある。
まず第一は教育上の理由である。
日本型の暗記中心の詰め込み教育においては、情報を効率よく鵜呑みにする能力こそが求められ、いちいち疑ったりする態度は邪魔にしかならない。
さらに教育そのものが、主体性と責任意識に富む市民を作るという憲法や教育基本法の掲げる理念とは裏腹に、支配勢力にとって治めやすい従順な臣民や、心理操作で誘導しやすい無責任な大衆を作る管理教育の理念に則って行われてきたために、支配勢力側が一方的に発する情報に機械的に反応するような特質が、日本人の精神構造の中に刻み込まれているということも大きい。
メディア、中でもテレビは、こうした傾向にさらに拍車をかけている。
テレビは、大量の情報を短時間で伝達するのが特徴の一つだが、これは一般人の情報処理能力をはるかに超えているために、視聴者は情報を聞き流すか鵜呑みにするかの選択に常に晒され、様々な角度から考える余裕を与えられない。
そのため、記憶の中には慌てて鵜呑みにした情報だけが蓄積されていく「流しそうめん効果」が発生する。
そして、この記憶が固定化していくということは、テレビによる人格形成を意味する。
日本の子どもは、幼少暗からこうした環境下に置かれるため、学校でも家庭でも、本質的な読解カの基礎となる、物事を多角的に見る能力を身につける機会から遠ざけられ、ひどい場合には、逆に人と人とのコミュニケーションを阻害する「聞き流し能力」の方を身につけてしまったりする。
人格形成の過程で、長期に渡りこのような「処理」を受け続けることにより、日本の大衆は、心理操作に対して非常に脆弱な精神構造を、自覚無きままに身につけるようになる。

■心理操作の手法(1)「注目効果」

「注目効果」は、メディアが特定の問題に関する情報を集中して流すことにより、その問題に大衆の注意や関心が引きつけられるという効果である。
この注目効果を目的とした操作は、間接的心理操作の中でも最も単純で直接的心理操作に近いものである。
この操作のポイントは、政権にとって都合のよい間超や情報ばかりを流すことで、たとえ一切のコメントや評価を付け加えず、まったくの客観報道に徹したとしても、大衆の側に政権に対する好印象を植え付けられるという点である。
一方、その裏返しとして、野党のスキャンダルなど対抗勢力にとって都合の悪い情報ばかりを報道すれば、野党の支持率を低下させるという効果も期待できる。ただ、もともと直接的操作に近く操作がわかりやすいために、露骨にやると批判を浴びやすいということもある。

■心理操作の手法(2)「黙殺効果」

「注目効果」が、かなり露骨な作為によるものであるのに対して、「黙殺効果」は、特定の問題や情報を取り上げないという不作為によって発生するものであるだけに、なかなか目立たず、それだけ操作はやりやすいということが言える。
この操作は、一部のメディアが報じた問題や情報について、他のメディアが後追いしない、という形で行われる。
一部の雑誌メディアによるスキャンダルの告発が、新聞、テレビといった大手メディアにおいて、完全に黙殺されるというのはよくあることで、さらに、大手メディアの報道であっても、一社のみの場合には、残りの他社に黙殺されることがある。
「黙殺効果」の直接の効果は、大衆がその問題について知らないままに終わる、あるいは関心が薄れてじきに忘れるというものであるが、さらなる間接的な効果として、当初の報道が真実ではなかった、あるいは重要な問題ではなかったと思うようになるという効果も重要である。

■心理操作の手法(3)「目そらし効果」

黙殺効果のみでは不十分な場合に、注目効果と組み合わせることで、より確実に特定の問題から、大衆の関心をそらそうという場合に狙われるものである。
その手法は、両方の操作の組み合わせの形をとるのが通常だが、最近行われた典型例としては、大手メディア、中でもテレビが「タマちゃん」と「白装束軍団」の報道を徹底して繰り返すことで、自民党の宿願の一つであった、有事法制の無風成立を援護射撃したケースを指摘できる。
また、拉致被害者の確認を期に、日本のほぼ全てのメディアを北朝鮮ネタが埋め早くした時のように、ある問題について強烈な注目効果が発生している場合、他の全ての話題について、副次的な目そらし効果が発生することもある。

■心理操作の手法(4)「すりこみ効果」

これは、生物学上の「すりこみ」とは違うが、特定の情報をくり返し流すことで、大衆の側にその通りの思いこみが発生する効果で、これは初歩的な洗脳の技術でもある。
これも、小泉は改革派である」というような直接的な表現だとバレバレになるのだが、「改革派として知られる小泉が〜」といった修飾法を活用した間接的な表現だと、使いやすく効きやすいという性質を持っているので、その気でニュース原稿などに活用されている。

■心理操作の手法(5)予告効果

これは、「すりこみ効果」と基本的には同じ手法によるもので、効果も似通ったものだが、その効果の発生は間接的であり、かつ効果の中身も違ったものとなってくる。
これは、将来予想される災厄について、かなり前の段階から予告を重ねることによって、そのような災厄が現実のものとなった時のために、大衆の側に心の準備を促すというもので、その災厄の性質と、求められる心構えによって、予告効果とより高度な「覚悟効果」に分けられる。

■心理操作の手法(6)覚悟効果

もう一つの「覚悟効果」は、自民党政治にとって非常に重要なものである。
これは、政府の失策によってもたらされる災厄が、将来、避けられないものである場合に、政府の責任については黙殺する一方で、それが「避けられない」という点だけをくり返し強調し続け、明らかな人災をまるで天災のように扱うことで、国民の側に諦めムードを醸成していくものである。
これは現在、年金の負担増、消費税増税を巡って進められている。
この災厄は、歴代自民党政権の放漫財政に起因するものだが、それに対して大した文句も言わずに国民がその負担を受け入れるようなら、この「覚悟効果」が効いての結果と見ていい。

■心理操作の手法(7)お灸効果の側方支援

自民党の負け上手に関連して、「お灸効果」というのを取り上げたが、メディアはその効果が最大限に発揮されるような環境を整えることで、自民党によるお灸効果の活用を助けている。
まずは、頻繁に行われる世論調査であるが、これはかつてとは比べものにならないほどにお灸効果の機会を増やす結果となっている。
次が、「お灸を据えられた役者達」の集中報道である。世論調査における支持率の急落や、あるいは選挙での敗北などによって、お灸を据えられることになった自民党の幹部達を、メディアはこれでもかと報道する。
テレビ画面に大映しになる、口元から苦虫がこぼれんばかりの彼らの顔や、周章狼狽ぶり、あるいは吠え面をかくその姿を見て、溜飲を下げる者もいれば、ざまあ見ろとばかりに哄笑する者もいる。
だが、忘れてはいけない。彼らは、役者なのである。
彼らの本当の仕事は、一時的にそっぽを向いた支持者達の前で、そのお灸を目一杯熱がってみせることである。それを見て、反対派が笑うかどうかなどは関係ない。
支持者が、「よし、許してやろう」という気になってくれれば、それで万々歳なのである。
その彼らに何より必要なのは、その「負けの至芸」を見せる舞台であり、メディアはその最高の舞台を提供している。

いかがだろうか。
政治学者の土屋彰久氏の言う大衆心理操作の効果が最も顕著に出たのがマスコミによって劇場型と命名された2005年9月11日の郵政選挙だ。
選挙前にそんな小泉デタラメ改革キャンペーンを張った週刊誌の一つは、選挙の結果を見て、活字文化の退潮がもたらした典型的な選挙の結末と評して嘆いた。
私は今でもこの選挙が小泉内閣による御用マスコミを最大限に使った露骨な世論誘導選挙だったと思っている。
それほどまでに水戸黄門バリの勧善懲悪を模したストーリーにメディア・リテラシーなき国民の多くが騙されたからだ。「今日の一言(2005年8月27日2005年8月19日)」

嘘だと思うなら、読売新聞が自ら分析した記事を読んでみるといい。
このモニター調査はたった千人を対象にしか行なわれていないが、平日1日あたりのテレビ視聴時間が3時間を超える「長時間視聴層」の多くは小泉自民党を支持したらしい。
つまり、私の経験則で言えば、「テレビの長時間視聴層」はほとんど仕事をしていない人たちということで、これは竹中プロパガンダ(propaganda)で言うB層というのにピッタリとはまる。
郵政選挙のときに陰の主役として登場した世耕弘成(せこう ひろしげ)広報本部長代理(武部幹事長の広報担当補佐)はNTTの社員時代からずっと広報畑を歩んできているプロだ。
彼らの手にかかれば、メディア・リテラシーなき国民などイチコロというわけだ。

「劇場型選挙」TV好きは自民に・・・読売ネットモニター
(2005.9.19 読売新聞)
衆院選直後に読売新聞社が全国のインターネットの利用者1000人に行った「衆院選ネットモニター」の第3回調査結果が19日、まとまった。
平日1日あたりのテレビ視聴時間が長い層ほど、おおむね自民党や小泉首相を支持する割合が高いことが分かった。

先の衆院選では、自民党が、郵政民営化法案に反対票を投じた候補者に対立候補を擁立したことがメディアで注目を集め、「劇場型選挙」とも呼ばれた。
テレビの長時間視聴層の多くが実際に自民党を支持していたことが、裏付けられた。

■テレビ視聴時間

衆院選比例選で投票した政党は、全体では、自民党53%、民主党24%、公明党8%、共産党、社民党が各4%、新党日本2%、国民新党1%の順だった。
平日1日あたりのテレビ視聴時間別(視聴時間は衆院解散直後の第1回調査で質問)に見ると、30分未満の層では自民党に投票したのは40%だったが、3時間以上の層では57%に達した。

来年9月で自民党総裁の任期を迎える小泉首相については、全体では、「任期で辞める方がよい」が54%、「引き続き担当する方がよい」46%。
テレビ視聴が30分未満の層では、「任期で辞める」67%、「引き続き担当」33%で任期いっぱい退陣論が主流だった。
しかし、3時間以上の層では「引き続き担当」が53%に上り、「任期で辞める」は48%にとどまった。

◆ネットモニター調査=読売新聞社が衆院解散直後の8月にモニターを募集し、応募者から男女比や地域バランスなどを考慮して1000人に委嘱した。
モニターの平均年齢は43.5歳。質問、回答はすべてインターネット上で行った。第3回調査は、衆院選投開票直後の9月13日から16日まで行い、91%が回答した。

ところで、なぜ、彼らが騙されているのかといえば、小泉政治によって彼ら(低所得労働者・専業主婦・年金生活者)が得したことなどほとんどないと思うからだ。
一例を挙げれば、小泉内閣の税制改正によって配偶者控除の縮小(2005年7月25日「今日の一言」)や老年者控除の廃止(平成16年度の税制改正に関する答申/平成15年12月15日政府税制調査会)がされたが、この直接的な不利益を上回るような利益が何かあったのかと聞かれて、小泉が従来型政治家を追放し、道路公団や郵政民営化が彼の功績であると信じたいならば、それでもいいだろう。
もっとも政府の答申にあるように専業主婦や年金生活者が税法上優遇されているのを是正するために小泉内閣が尽力したと評価する人については私は何も言うつもりはない。
それを基準にして投票するのは当然あり得ることだからだ。

ただ、小泉首相が郵政選挙で吼えまくって従来型政治家を追放したのは単に森派と橋本派の勢力争いであり、彼は世界の借金王と自嘲した故小渕首相を上回るほどの勢いで国の借金を増やしている張本人でありながら、そのツケを全部他人に押し付けている厚顔無恥な無能総理というのが現実だ。
また、仮に狂信的な小泉・竹中信者のブロガー(ブログの運営者)や、掲示板投稿者が吼えているように、役所をことごとく民営化し、あるいは、公務員の月給を一律20万円にしたところで、小泉・竹中が言うような財政改革などできるわけがない。

なぜなら、そこで削減される経費を数十倍上回るレベルの無駄な税金が民営化あるいは独立行政法人化後の旧特殊法人、公団に投入されることになっているからだ。
小泉インチキ改革で定義される民営化や独立行政法人化とは、単にウェブサイトのドメインを変える程度のものでしかないのだ。(故石井紘基衆議院議員が命を賭けた官僚総支配体制の打破
そして、そのドメインを変えた(民営化あるいは独立行政法人化した)ことにより法的な拘束度は役所のときに比べて格段に緩くなるのに対し、自由な競争という国民にとっての果実はほとんど期待できない。
単純に言えば、族議員、天下り役人とそれに群がる腐れ財界人が法的規制なしに今までよりも自由に税金を使えるようになるだけのことだ。

高速道路、結局は全線建設 税投入約3兆円 国幹会議
(2006.2.8 朝日新聞)
高速道路整備計画を審議する第2回国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議、北側国土交通相の諮問機関)が7日、昨年10月の道路関係4公団の民営化後初めて開かれ、国の整備計画9342キロのうち、事業主体が未定だった19路線・49区間(1276キロ)について整備方法を決めた。
民営化会社が建設する有料高速が42区間(1153キロ)、国と地方が税金で造り通行無料になる「新直轄方式」が7区間(123キロ)。
民営化は無駄な道路建設の中止が目標だったが、結局は全計画路線が造られる。

有料高速道路は東日本中日本西日本の各高速道路会社が建設する。
焦点の第2東名は、中日本が神奈川県−愛知県の区間を建設することが決定。
すでに開通している区間を含め5兆円規模の事業が全線開通に向けて動き出す。

2003年の国幹会議で抜本的な見直しを求められた第2名神の2区間(大津−城陽、八幡−高槻の計35キロ)は京滋バイパスが並行しており、道路関係4公団民営化推進委員を務めた作家の猪瀬直樹氏らが強く「不要」と指摘していた。このため、当面は着工を見送る。
ただ、西日本や国交省は建設方針を変えておらず、今秋に任期を終える小泉政権後の政治状況を見て着工する可能性がある。

高速道路3社は国交相から建設区間の指定を受け、3月には完成後に道路を保有する日本高速道路保有・債務返済機構との間で、建設費や道路の貸付料などについて協定を結ぶ。

3社と機構は、過去の高速道路建設で膨らんだ総額40兆円の債務を45年間で完済しなければならない。
各社は車線を減らすなど建設費を圧縮しているが、返済に回す通行料収入が伸びないと完済目標の達成は危うい。

一方、交通量が少なく不採算のため高速道路会社が造らない道路は、建設費の全額を公費で賄い、開通後は通行料を無料とする「新直轄方式」で造る。
今回決まったのは北海道縦貫道(七飯−大沼、10ロ)や近畿道紀勢線(田辺−白浜、14キロ)、東九州道(佐伯−蒲江、20キロ)など7区間。
建設費は国が4分の3、地元の7道県が4分の1を原則負担する。
国は建設費にガソリン税などからなる道路特定財源を充て、2006年度から用地取得を本格化する。

新直轄の建設費には全体で3兆円の枠があり、2003年の国幹会議で27区間(699キロ)、2兆4000億円分が決まった。
今回の7区間は残る6000億円で賄うはずだったが、建設費は7000億円になる見通し。現在着工中の区間も含めてコスト削減を図り、3兆円の枠内に抑えるとしている。
高速道全線建設へ 小泉後へ民営化骨抜き
高速道賂建設に十分な歯止めはかからなかった。
7日に開かれた国土開発幹線自動車通建設会議(国幹会議)は、「不要」と指摘される第2名神を「着工先送り」で凍結に踏み切らず、不採算区間には手厚く税金を投入することを決めた。
小泉改革が本丸としてきた道路公団民営化だが、国土交通省や自民党議員らは早くも「小泉後」をにらみ、民営化のさらなる骨抜きに動き始めた。

■第二東名、第二名神整備お墨付き

「早期開通に向け、おさおさ怠りなく準備する」。
西日本高速の石田孝会長は、この日の国幹会議で第2名神の全線着工へ意欲を語った。
すでに滋賀県内の工事進捗率は66%に達し、昨年末には地元と未開通区間の用地買収の協議も始めた。

だが、現実には第2名神の建設根拠は薄れつつある。
西日本高速は、名神などの1日の平均交通量が2004年の約17万2千台から2020年ごろには20万台に増えると予測するが、人口が今後減るなかで2009年には第2京阪道路(6車線)も全面開通し、過剰とも言える道路網ができつつある。
周辺に工場を構える企業も「第2名神を使う予定はない」(大手電機メーカー)と冷淡だ。
こうした状況から、第2名神の2区間の整備の行方は、民営化で道路建設が抑制されるかどうかの試金石だった。

道路関係4公団民営化推進委員を務めた猪瀬直樹氏らは、第2名神には、並行して走る4車線の京滋バイパスなどがあり、「第2名神どころか第3名神だ」と無用論を主張。
これに対し、西日本高速や国土交通省は2区間の総事業費1兆600億円を6800億円に削減する計画を出し、建設死守を図った。

結果は「改めて着工について判断し、それまでは着工しない」という「先送り」。猪瀬氏は国幹会議後、「実質的な凍結だ」と強調した。
しかし、国交省は不要論に表向き配慮しつつも「建設方針は変えない」として、着工のタイミングを計る戦略だ。

近畿選出の与党議員は息巻く。「我慢は小泉首相が退く9月まで。構造改革路線のくびきがなくなれば、すぐ着工してもらう」
第2東名も未開通の255キロの区間を中日本高速が建設することが決まり、巨大事業にお墨付きが与えられた。
しかし、巨額の建設費に見合った便益や交通量を確保できるかは不透明だ。

■不採算7区間 新直轄で「満額」

各高速道路会社が不採算のため造らない7区間も、税金投入の「新直轄」で満額回答だ。
大分県南部に位置する九州道の佐伯−蒲江間。
宮崎県選出で、自民党道路調査会最高顧問も務めた江藤隆美元建設相が整備に力を注いだ。
隆美氏の息子の江藤拓衆院議員は自らのホームページで、ほかの地域と対等に勝負ができる環境を整えて欲しいだけ」と訴える。
大分県幹部も「整備の遅れは地域発展の制約の一つだ」と話し、「高速道賂で地域活性化」の発想は変わっていない。

しかし、大分県自身も、佐伯−蒲江間は採算性は低いと認める。
同じ東九州道でも、1日あたりの交通量は自動車産業が集積する椎田南(福岡県)−宇佐(大分県)間に比べ、4分の1の2千台程度との予測だ。

北海道縦貫道の七飯−大沼間は、地元の函館市などで北海道新幹線の開業とともに期待が高まる。
しかし、事業費の15%を負担することになる道の担当者は「途中にはトンネルもあり、事業費は高額になるだろう」と、表情は複雑だ。

2003年の国幹会議で抜本的な見直しを求められ、着工が先送りになった北海道縦貫道の士別−名寄、北海道横断道の足寄−北見の区間は今回も、一部を当面は着工を先送りすることになった。
地元の商工会議所からは「効率性や採算性だけでなく、地方に住む者の心情もくみ取って欲しい」との建設を求める声は依然として強い。

第2回国土開発幹線自動車道建設会議委員名簿
(◎=会長、○=出席、欠=欠席)

■衆議院議員及び参議院議員
小沢鋭仁 衆議院山梨県第1区/民主党/当選5回
久間章生 衆議院長崎県第2区/自民党/当選9回
武部勤 衆議院北海道第12区/自民党/当選7回
中川秀直 衆議院広島県第4区/自民党/当選9回
鉢呂吉雄 衆議院北海道第4区/民主党/当選6回
山崎拓 衆議院福岡県第2区/自民党/当選12回
魚住汎英 参議院比例区/自民党/当選4回
北澤俊美 参議院長野県/民主党/当選3回
輿石東 参議院山梨県/民主党/当選4回
陣内孝雄 参議院佐賀県/自民党/当選4回
■学識経験者
井田由美 日本放送網潟eレビ報道局解説委員(兼)キャスター担当部長
上村多恵子 社団法人京都経済同友会常任幹事
奥田碩 社団法人日本経済団体連合会会長
楓千里 鰍iTBパブリッシング広告部長
金子原二郎 長崎県知事
北城恪太郎 社団法人経済同友会代表幹事
能見善久 東京大学大学院教授
藤井弥太郎 慶應義塾大学名誉教授
御手洗冨士夫 社団法人日本経済団体連合会副会長
森地茂 政策研究大学院大学教授
■幹事
坂篤郎 内閣官房副長官補
村瀬吉彦 内閣府政策統括官
矢代隆義 警察庁交通局長
瀧野欣彌 総務省自治財政局長
藤井秀人 財務省主計局長
山田修路 農林水産省農村振興局長
奥田真弥 経済産業省大臣官房地域経済産業審議官
田村義雄 環境省総合環境政策局長
谷口博昭 国土交通省道路局長
生活保護支給額を削減、国民年金以下に
−厚労省検討、2007年度から−
(2006.3.6 日経新聞)
厚生労働省は生活保護の支給額を削減する検討に入った。
年金保険料を払い続けてきた人より、払わないで生活保護を受ける人の方が所得が多いケースがあるため。
2007年度から段階的に国民年金(基礎年金)の支給額以下に引き下げる方針だ。

生活保護の支給額は年齢や地域によって異なるが、例えば東京23区内に住む68歳(単身)の場合、光熱費など生活費に充てる生活扶助分で80,820円。
これに家賃を払っている場合には上限13,000円の住宅扶助などが加算される。

これに対し、国民年金では40年間保険料を払い続けた人でも月約66,000円しか受け取れない。
公的年金は少子高齢化に伴って中長期的に減額となる可能性が高く、自民党や自治体からは「このままでは保険料を払わず老後を安易に生活保護に頼る人が増える」との指摘が出ていた。

厚労省は近く省内に学識経験者らによる検討会を設置し、基準額の見直しについて議論する。
所得減となる受給者側からは反発が予想され、削減に向けた調整が難航する可能性もある。

生活保護費は現在、約100万世帯が受給している。
高齢化などを背景にした受給者増で、総額では1990年度の1兆2928億円から2006年度には2兆460億円(当初予算ベース)に膨らんだ。

私が断片的な情報を繋ぎ合わせただけでもわかりそうなことを、マスコミはほとんど報道しないから多くの国民は未だに小泉首相が改革者だと信じている。
実際、小泉改革の目玉と言われた道路公団改革だって選挙で大勝すればこの無様な有様だ。
第一、国土開発幹線自動車道建設会議委員に名を連ねる幹事長の武部勤は「(小泉総理の)偉大なるイエスマン」ではなかったのか。
これでは「軽蔑されるべき裏切り者」ではないか。

民間でできることは民間で、と小泉首相は年中言い、あたかも民間でやればバラ色の未来が来るような幻想を振りまいているが、その当の民間企業団体のトップたちは、国土交通省や腐れ議員の言いなりだ。
第一、民間トップは国民が負担する税金が海の藻屑と消え去ろうとしているのに何も言わなかったのか。
それに、会議から4ヶ月も経つのに誰も議事録を公開しろとも言えないのか。
それとも法的には民間会社の決定だから言う権利すらないのか。
マスコミの代表として委員になっている者すらいたのに、テレビで議事録を公開し、問題提起する勇気もないのか。

「各高速道路会社が不採算のため造らない7区間も、税金投入の「新直轄」で満額回答だ」との記事には呆れてものが言えない。
この一方で、生活保護費を削るなどとよく言えたものだ。
無駄な高速道路を作らなければ、国民年金も生活保護費も捻出できるとは思わないのか。
いずれ小泉内閣を支持してきた国民もインチキ改革の実態に気づくことがあるかもしれないが、マスコミによって野党の失策(永田ガセメール問題が好例)が強調されるか、どこかの市役所か新興企業の不祥事(ライブドアが好例)が暴露されて、目くらましが行なわれることだろう。
それにより小泉自民党とその後継者は増税(負担増)ラッシュ、インチキ改革ラッシュにもかかわらず、ゆうゆうと高支持率をキープしたまま政権が維持できるのだ。


最近では、個人のウェブサイト(ソーシャルネットワーキングサービス=SNS/Social Networking Serviceを含む)やブログでの情報発信も目だってきており、メディアの情報がバイアスのかかった体制側、あるいは特定集団の利益を代表しているだけだということも広く知れ渡ってきている。
ところが、個人の情報発信がメディアの力を超え、真のe-democracyになど発展されては困る人間が多数いる。
そう、現体制側のエスタブリッシュメントだ。
そこで、彼らはメディアを使った大衆心理操作をする。
再び土屋彰久氏の「50回選挙をやっても自民党が負けない50の理由」からメディアを使った大衆心理操作の手法を紹介しよう。

■心理操作の手法(8)「インストラクション効果」

インストラクション効果というのは、大衆の側に、潜在意識も含めて、ある種の欲求や願望はあるが、その具体的な実現の手段についての知識がない場合に、メディアがその情報を提供することで、その種の行動の実行を促すという効果である。
これは、犯罪手口の報道による模倣犯の発生などを典型として、政治的意図とは無関係に、メディアの日常的な報道活動に付随して、ある程度不可避的に発生する効果だが、もちろん、特定の政治的な目的のために活用することも可能である。
たとえば、最近あったイラクでの人質事件を例にとると、国民の側に反戦の機運が高まるのを警戒した支配勢力側は、人質がそもそも政府の方針に反対する側の人間であったため、その傘下のメディアを動員して「人質家族バッシング」という反転攻勢を仕掛けて、まんまと成功した。
もちろんその中では、ねじ曲げられた「自己責任論」の喧伝を始めとして、様々な心理操作が行われたが、インストラクション効果を狙っての報道もあった。
その一つが、人質家族の自宅に、嫌がらせや脅迫の電話、手紙が殺到しているという報道と、人質家族の自宅住所がインターネットの掲示板に書き込まれた、という報道である。
嫌がらせや脅迫は、刑法上の犯罪となるし、自宅住所の書き込みもプライバシーの侵害に当たるので、表向きは「こういうことはやめましょう」という報道の体裁をとることができる。
しかし、こうした報道は、「俺もなんか嫌がらせをしてやりたい」と思っている人々に対しては、その手口や必要な情報の入手方法を教えることになり、また、「仲間はいっぱいいるし、一人も捕まっていないから、お前もやってみろ」という暗黙の奨励ともなる。
さらに、コメンテーターが、「自己責任論」を振りかざして、人質家族に対する批判を並べ立てたところでこれをやれば、その効果はさらに大きい。
実際、人質家族に対する嫌がらせは、報道の後にさらに増加した。

■心理操作の手法(9)「萎縮効果」

萎縮効果は、狭い意味では厳しい法規制が過剰な自主規制をもたらす効果を指すが、ここではさらに、いわゆる「社会的制裁」も含めて、あらゆる現実の不利益がもたらす行動抑制の心理にまで広げて考えている。
人質事件に関連しては、この萎縮効果も見事に発生しているとみてよい。
ただし、人質家族の公的な発言や、メディアに対する対応の変化を見ればわかるように、彼ら自身も萎縮せぎるを得ない状況に追い込まれているが、萎縮効果それ自体が発生しているのは、正確には、一般国民の側においてである。
人質家族は、そのための見せしめとして利用されている。
この場合、見せしめとなる人々が理不早な扱いを受けている状況を報道することで、このようなことをするとひどい目に遭うという暗黙のメッセージを人々に伝えるというのが、この心理操作の基本となる。
たとえば、嫌がらせや脅迫は刑法犯でありながら、未だ一件も摘発されていないという事実だけを報道することは、実質的には、「こういうことをする人は警察は守ってくれない=法の平等な保護さえ受けられない」というメッセージとしての意味を持つ。
大衆はこうしたメッセージに敏感に反応し、保身のためにある種の行動を自主的に差し控えるようになるため、犯罪の摘発ではなく、犯罪そのものが国民に対して一罰百戒の効果をもたらすようになる。
<萎縮効果の本質的重要性>
実は、メディアの報道によって倍加されるこの萎縮効果は、資本主義体制の本質とも言える、富裕層による少数支配の権力構造を支える上で、非常に重要な意味を持っている。
現在のように、彼らの企て通りに国民が分断された状況下では、支配する少数者の側が真に恐れるのは、多数者たる一般国民の団結よりも、むしろ「捨て身であることを意識しない各人の捨て身の行動」である。
こうした行動は、それを起こした個人も犠牲になるが、同時に支配層の側にも多大な被害を発生させる。
こうした行動が日常茶飯事ととなったら、数において圧倒的に劣る少数者の側は、ひとたまりもない。
企業ぐるみの不正を現場の従業員が内部告発するようなケースは、そうした行動の一つの典型である。
実際、日本の企業では、まだまだ多くの従業員が、不正を知りつつも自らの収入の安定を優先して、内部告発に踏み切れないでいるのが実情だが、彼らが、内部告発によって自分の収入や立場が悪化する、というマイナス要素をまったく認識していなかったらどうなるだろう?
世の中、楽しい大騒ぎとなるだろう。
だから逆に言えば、彼らに内部告発を思いとどまらせるには、それが彼ら白身にとってもマイナスになるということを、よくわかっておいてもらわなければならない。
これを国家全体のレベル、あるいは経済に限らず政治の世界でも行おうとするものが、メディアを通じての萎縮効果の誘導である。
少数支配の構造を最終的に支えるのは脅しである。
この脅しは、多数者を分断して各人の保身の意識を刺激することで成り立つのである。
分断の作業はすでに完了していると言っても、各人の保身の意識を刺激するのはまだまだである。
そのためには、「こういうことをするとひどい目に遭う」ということを広く人々に伝えなければならない。
メディアは、その脅しの効果を最大限に働かせる上で最も重要な役割を果たしている。
「軽はずみな行動はやめて、まず、それが捨て身の行動だということをきちんと認識しなさい。損をするのはあなた達なのですよ。」という親切めかしたメッセージの裏には「そんな自爆テロの道連れにされちゃかなわん。金持ちの命は貧乏人の命より重いんだ。」という本音が隠れている。

まさに小泉政権下で行なわれていたことは、この大衆心理操作によるゴマカシでしかなかったことがよく理解できただろう。
そういった意味で、従来の土建屋的自民党政権に比べれば悪質の度が抜きん出ているのだ。
今までもそうした心理操作は行われていただろうが、小泉政権下では心理操作はより組織的に、さらに反体制派の著名人を狙い撃ちにして社会的に葬り去るという荒業を駆使したことに恐怖を感じざるを得ない。
それに、個人がウェブサイト(ソーシャルネットワーキングサービス=SNS/Social Networking Serviceを含む)や、ブログで情報発信が容易になった分、体制側にとってはより心理操作がしやすくなったとも言えるだろう。
なぜなら日本人の情報リテラシーのなさは全く変わっていないどころか、知性の低下によって、より安直に答えを求める人間が増えているからだ。
郵政選挙のキーワードの一つ、「わかりやすい」というのは日本人がバカになったことの証左でしかない。
政治・経済・時事問題を語るのに「ワンフレーズ」で済むハズがないだろうに・・・

彼らが大衆心理操作によって小泉インチキ改革の目くらましがこれほどの成功を収めるとは思わなかったのだろう。
小泉首相が重要法案が目白押しになっているにもかかわらず国会の延長を拒否し、彼が9月で首相を退任するのは潔くてやっているのではなく、メッキが剥げ始めたからだ。
もちろん、メディア連合はそんな報道は一つもしない。
あくまでも「小泉改革政権を引き継ぐのは誰か」という出来レースを報じているだけだ。


今から約3年前、2003年11月9日の総選挙後に第二次小泉内閣の成立をテレビで見たある闇金業者がボソッと語ったという。「これでまた我々のお客さんが増えるね」
それから2年後、新たに闇金業者のお客さんになった人たちは郵政選挙の投票に行くことができたのだろうか。
常識的に考えて、取立てに怯え、あるいは夜逃げ、自殺した彼らが選挙の投票になど行けるハズがない。

そう、小泉政権下で日本の庶民の生活はボロボロになったと言っても過言ではない。
経済的にだけではなく、メンタルの部分でもだ。
破壊されたと言ってもいいだろう。
もしかすると、現体制側のエスタブリッシュメントは一般庶民がピ−ター・タスカの描く原田課長のような心境になることを願っているのではないだろうかと思えるくらいだ。
それとも小泉インチキ改革を支持した人々は、自分が食えるかどうかの生活に転落したとき、その選択が間違っていたことも認識することなしに、市役所の生活保護係の職員をナイフで刺すのだろうか。

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