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2月27日(水)-電子申告(e-Tax)による所得税の確定申告終了

先日の台湾旅行から帰国した25日、地元の区役所で公的個人認証サービスによる電子証明書の取得手続きをしたことにより、今年は2年ぶりにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使って所得税の確定申告をした。
最近では、これを使って収支のデータをすべて入力すると、申告書の添付書類の提出を省略することができるというメリットがあるのだが、一方で、それらの添付書類を5年間保存しておかないとならないので、今まではあえて書類を別送していた。
ところが、今では株式譲渡関係の書類はほとんどが電子(PDF)ファイルで提供されるようになり、保管スペースを取らなくなったので、今年は添付省略で申告してみることにした。
ただ株式譲渡や配当所得の関係で、外国の証券会社の関係書類も付けなくて大丈夫かな、とは思ったが、何かあれば税務署から提出するように言ってくるだろう。
今年は言ってみれば今後のためのテストケースとも言えよう。

ところで、昨年だけは申告書を印刷して郵送することにしたのだが、それは以前に取った電子証明書の有効期限が切れていて、それを更新しに行く時間が取れなかったからだ。
これに関連して私は昨年の2月5日に「公的個人認証の電子証明書の更新はなぜオンラインでできないのか」というコラムを書いたのだが、総務省に電子証明書の発行規定(電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律第3条第2項)の改正、つまり、市町村長に対して申請書を提出する、という部分にオンライン申請ができるような一項を追加できないのか質問したところ、以下の回答が返ってきていたので紹介しよう。

結果的には役所の窓口に来てくれ、というスタンスは変わらないというか、変えようという気はないらしい。
ほとんどがスルーされる中央官庁への意見や要望に対して回答が来たことは評価したいと思うが、これでは繁忙期の役所の混雑は解消されないだろう。
事実、私が役所に行ったときは比較的すいていたにもかかわらず、電子証明書の手続き処理に30分以上かかっていた。
私が思うに、写真付の住民基本台帳カードについては、本人に窓口で申請させて、なりすましを防止するということは重要だが、そのカードに電子証明書を組み込むための手続きはオンラインでも十分だと思う。
今後、財政難から役所も人員削減される中で、オンラインでできるような申請もすべて窓口に来させていると、ますます混雑に拍車がかかって苦情が増えるのでは、と思うのは私だけなのだろうか。

電子証明書の更新手続きについて
総務省住民制度課でございます。
日ごろから総務省の施策の推進にご協力いただき、誠にありがとうございます。
いただいたご意見について、以下のとおりお返事させていただきます。

法律上、電子証明書は有効期間が経過すると失効します。
したがって、電子証明書の有効期間が経過し、今後とも公的個人認証サービスをご利用をお考えの場合は、再度発行の申請をしていただく必要があります。
各市町村において便宜上「更新」として発行の申請のご案内をしているのは、皆様に失効の申請と発行の申請を2度させるのは非効率なので、一度の申請で失効・発行の申請が行えるように更新申請書に記述していただいているものです。

オンラインで電子証明書を失効させることができるのは、失効の申請に際し、有効な電子証明書を用いて電子署名を行うことにより、本人からの失効申請の意思があることが非対面でも確認できるため、制度上認めているものです。

新規の場合でも2回目以降の場合でも、電子証明書の発行の際に市区町村の窓口にお越しいただいているのは、窓口で確実な本人確認を行うことで電子証明書のなりすまし取得を防止し、有効な電子証明書を住基カードに新たに格納する必要があるためです。
みなさまの大切な税情報等の個人情報を取り扱うことから、安心・安全なオンライン手続を実現するためでございますので、何とぞご理解、ご容赦ください。

総務省といたしましては、皆様からの貴重なご意見も踏まえ、今後とも公的個人認証サービスの利便性向上に取り組んで参りますので、よろしくお願いいたします。

2月21日(木)-マネロン防止法の強化で海外送金を拒否されることもあり得るのか

マネー・ロンダリング防止法(犯罪収益移転防止法/犯罪による収益の移転防止に関する法律)の改正法が、再来月(2013年4月1日)から施行される。
この法改正は、みずほ情報総研の「改正犯罪収益移転防止法により重要性を増すアンチ・マネー・ローンダリング(AML)」というレポートによれば、金融活動作業部会(FATF/Financial Action Task Force on Money Laundering)が2008年10月に公表した日本の対応状況に関する審査結果報告書(Mutual Evaluation of Japan)が契機となっているそうだ。
それに伴い、今年になって私のところにはペイパル(PayPal)から「重要:本人確認手続きのお願い/このメールを受け取られてから45日以内にお手続きを完了してください。」という件名で、「弊社が日本で資金移動業者としてビジネスを展開するにあたり、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づき本人確認を行うことが義務付けられています。」という内容の電子メールが送られてきた。

それによると、日本国籍者の場合、運転免許証か写真付の住民基本台帳カードをスキャンしてアップロードせよ、とあり、それらがない場合は、パスポートか健康保険証に、公共料金あるいは公租公課(税金)の領収書をプラスせよとあった。
そして、それらがアップロードされたことがペイパル側で確認された後、自宅宛にパスワードが印字された圧着ハガキが送られてきて、それをオンライン入力して、手続きが完了となった。
ちなみに、私がペイパルでアカウントを作ったときは、英語のサイトしかなく、本人確認書類など要求されてなかったので、それがマネー・ロンダリング防止法(犯罪収益移転防止法/犯罪による収益の移転防止に関する法律)の改正で必要になったのだろう。

ところで、JAFIC(Japan Financial Intelligence Center:警察庁刑事局組織犯罪対策部 犯罪収益移転防止管理官)のウェブサイトに掲載されたマネー・ロンダリング防止法(犯罪収益移転防止法/犯罪による収益の移転防止に関する法律)の概要によると、改正法施行後は、ネット銀行や証券会社、オンライン送金業者などの非対面取引業者にアカウントを登録するためには、私がペイパルから要求されたように、本人確認書類のコピーの提出と、業者から書留郵便で送られてくる書類が到着したことをもって登録が完了するという手筈になるようだ。
要は、双方にとって今まで以上に手間とコストがかかるようになるわけで、安価に海外送金できる銀行として人気のあったロイズ銀行(Lloyds TSB Bank)が、3月4日付で海外送金サービスを、新生銀行のGoレミットとして事業譲渡するのもこのあたりに事情がありそうだ。
もしかすると、私が2011年2月13日に紹介した小口の海外送金業者は今後数年間に事業から撤退する可能性があるとも言えまいか。

さて、この記事に関連して、香港マイタン日記に「海外送金の手続きが難しくなって来た??」という記事が掲載されていて、「最近、海外送金をしようとした人から、銀行に送金を拒否されたなどという話を時々聞く。銀行の窓口で海外送金しようとしたら、目的をいろいろと聞かれ、投資であるならその投資商品の詳細や契約書などの資料提出を求められたりするそうだ。そして資料を提出するまでは海外送金に応じてくれないという事態も起きている。」とあった。
ワールドインベスターズの友人であるKさんからは、某日系大手銀行では海外在住の親族(外国人)に送金しようとしたところ断られた人がいる、という話をされた。

マネー・ロンダリング防止法(犯罪収益移転防止法/犯罪による収益の移転防止に関する法律)の改正法の施行後は、国内の金融機関に新規に口座を開いたり、為替の取引をするのは「特定取引」になり、従来の本人確認に加え、取引を行う目的や職業(法人の場合は事業内容)まで申告しないとならなくなる。(改正後の犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第1項)
現役世代で無職の者、例えば私が数年後に早期退職した後は、国内で銀行や証券会社に口座を開いたり、外貨の両替やトラベラーズチェックの作成ですら、銀行員に訝られることになるのだろうか。
もしかして、それが嵩じて銀行によっては嫌がらせのようなことが起きているのだろうか。

また、私が推測するに、取引(口座)のない銀行に現金を持ち込んで海外送金しようとすると、今後はますます断られることになることも予想される。
改正法の施行後は、過去に本人確認が十分にできていない顧客の取引は、本人へのなりすましが疑われる「ハイリスク取引」になる可能性もあるからだ。
そういった場合、顧客の資産や収入の証明も必要になり(改正後の犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第2項)、窓口でトラブルになることもあるだろう。
結局のところ、口座を持たない人は金額にかかわらず、海外送金を受け付けない、となる可能性があるからだ。
でも、簡単に海外送金ができる銀行と、難癖付けているのか、と怒鳴りたくなる銀行と、これだけ差があるのはどういうことなのだろうか。
このあたりのことも、4月以降に海外送金手続きに変化が出てくれば、体験談がネット上で報告されることだろう。
いずれにしろ、日本がますます金融鎖国への道を歩んでいるという感じがするのは私だけだろうか。


2月20日(水)-上海のユニークな屋内プール付ホテル

今から1年余り前の2011年10月、当時、中国の蘇州に赴任していた友人のスマイリーさんを訪ねたとき、上海を経由して行った私はタクシーの車窓からの景色がスモッグで煙っていたことに驚いた。
あまりの空気の悪さに、この中を観光するのはちょっと勘弁だな、と思ったからだ。
それ以来、日中関係が悪化したことによる反日デモなどもあって、上海に足を踏み入れることもなかったのだが、CNNの記事でホリデイ・イン上海・浦東・康橋(Holiday Inn Shanghai Pudong Kangqiao)のことを知った。

記事を読んだ限りではトランジットの合間に泊まるにはちょうどいい感じのホテルである。
私自身は今後も上海旅行だけをメインにすることはないだろうが、第三国へ行くついでに寄ることは十分にあり得る。
要するに、スカイスキャナー(sky scanner)などを使った東南アジア行きのチケット検索で、上海に1泊しなければならないときは宿泊先候補になるということだ。
あるいは、上海行きのLCC(Low-Cost Carrier=格安航空会社)である春秋航空を体験するときがいよいよ来たか。
国内旅行をするのに、パスポートを持って、茨城から中国の上海を経由して佐賀や高松に行くなんてオツではないか。

スリル満点の最上階プールで「空を泳ぐ気分」 上海のホテル
(2012.8.15 CNN Japan)
(CNN) まるで空中に浮かびながら泳いでいるよう-。
昨年5月にオープンした「ホリデイ・イン上海・浦東・康橋(Holiday Inn Shanghai Pudong Kangqiao)」には、幻想的なスリルが味わえるユニークなプールがある。
24階建てのホテルの最上階にある長さ30メートル、幅6メートル、深さ1.5メートルの屋内プール。
その一部が本館から張り出している。
プールの底の強化ガラスを通し、はるか下の街を見下ろすことができる。
地上の歩行者が見上げれば、泳ぐ人の姿が見える。

プールを体験したある客は中国中央テレビ(CCTV)とのインタビューで「空を飛んでいるような気分でした」と話した。
「ここからは浦東の美しい景色も楽しむことができて、最高です」
プールサイドのラウンジから見渡せば、上海中心部まで都会の風景が広がる。

ホリデイ・インの親会社インターコンチネンタル・ホテルズ・グループの報道担当者は「せわしない都会の中でも、休暇気分で泳ぎを楽しんでいただきたいと考えました」と語る。
ホテルの内装を担当したシンガポールの建築会社が、プールも設計した。
総工費は非公開だが、安全性を確保するため、多くの建築家や航空宇宙工学の専門家にも意見を求めたという。

ホテルは上海中心部から南東へ約22キロ、上海浦東国際空港から西へ約30キロに位置する。
プールはホテル滞在客とフィットネスジムの特別会員だけが利用できる。
ジムの年会費はドル換算で1人2400ドル(約19万円)からだという。

英文記事:Could this be the scariest hotel swimming pool ever?

2月11日(祝)-台湾の買い物のレシート(宝くじ)で三千万円を当てよう

Taiwan's Uniform-Invoiceコンビニで買い物をしたときのレシートを後生大事に取っておく人は、余程家計簿を丹念に付けている人でないといないだろう。
むしろ、そういう節約志向の人は割引のないコンビニで買い物をしない人も多いが、通常はその場で店員にレシートはいらないと言うか、自宅やホテルへ持ち帰ってもゴミ箱へ直行だ。
ところが、台湾の場合は買い物の際に受け取るレシートが宝くじに(統一發票/touifapiau)なっているのだ。
私がこのことを知ったのは何気なく「地球の歩き方 台湾」の巻末の方にある「旅の準備と技術 台湾のショッピング」というところを読んだときだ。
こんなところを読むことなどしばらくなかった、というかほとんど無視していた私は、もしかしたら当たりくじを捨てていたかも、と思ってしまったほどだ。

台湾旅行は突然に!
残念ながら宝くじ(統一發票/touifapiau)の換金に行くわけではない。
ここ最近、私が昨年11月17日に書いた「成田から台北へのLCC(格安航空)、スクート航空(Scoot Airlines)就航」というコラムが、グーグルで「台湾 LCC」と検索すると、何とトップページでヒットするという栄誉に輝いているのだ。
こうなると私自身、スクート航空(Scoot Airlines)で台湾に旅立たないといけないだろうと思い、ウェブサイトにアクセスして思わずチケットを買ってしまったわけだ。(笑)
ところが、私が自分で書いているようにスクート航空の帰国便(台北-成田)は朝早すぎてきついのだ。
そこで帰国便は軟弱にも片道の特典航空券が買えるユナイテッド航空(United Airlines)でビジネスクラスをゲットした。
これもLCC(Low Cost Carrier=格安航空)の使い方の一つと言えよう。

ところで、この台湾の宝くじ(統一發票/touifapiau)は、それぞれのレシートの上部にある8桁の番号(画像では29524548)が抽選番号となっていて、番号のさらに上のところに「中華民國101年(2012年)9-10月分」とあるのが抽選対象月というわけだ。
それで抽選がいつ行われるかというのは、レシートの裏面に書かれていて、各回奇数月の25日、私の持っている(2012年9月に旅行したときの)レシートは11月25日に抽選実施済、換金可能期間は12月6日から今年の3月5日までとなっている。
抽選結果と換金方法などは、台湾財政部賦稅署のウェブサイトで統一發票中獎號碼單Uniform-Invoice Prize Winning Numbers(英語版)として発表される。
昨年11月以降に台湾に行った人は、11-12月分の抽選は1月25日に抽選済、今年の1-2月分は3月25日(予定)というわけだ。
もちろん、現地のホテルのゴミ箱に捨ててしまった人は対象外、もしかすると、ハウスキーパーの人が拾ったレシートで当選していることもあるわけだ。

区分 当選の条件 賞金(単位:TWD)
特別獎 特別獎の当選番号とレシートの8桁の番号がすべて一致 1,000万
特獎 特獎の当選番号とレシートの8桁の番号がすべて一致 200万
頭獎 頭獎の当選番号とレシートの8桁の番号がすべて一致 20万
二獎 頭獎の当選番号のうちレシートの下7桁の番号と一致 40,000
三獎 頭獎の当選番号のうちレシートの下6桁の番号と一致 10,000
四獎 頭獎の当選番号のうちレシートの下5桁の番号と一致 4,000
五獎 頭獎の当選番号のうちレシートの下4桁の番号と一致 1,000
六獎 頭獎の当選番号のうちレシートの下3桁の番号と一致
このほか增開六獎(追加6等)の番号がレシートの下3桁と一致した場合も当選
200

ちなみに当選した宝くじ(統一發票/touifapiau)を換金するためには、パスポートとレシートを持参して指定された期限に郵便局へ行けばいい。(In order to receive the prize money, a winner must fill out the form on the back of the uniform invoice and present this with his or her ID card at any post office.)
直近の台湾ドルと円の為替レートは、1台湾ドル当たり3.1円、2等以上の当選であれば、換金目的に台湾へ行くということもありだろう。
3等の場合は少し微妙だが、4等以下の場合は、わざわざ台湾行きを計画することはないだろう。
とりあえず、これで台湾で買い物をしたときのレシートを取っておこうという気にはなると思う。

最後に、この宝くじ(統一發票/touifapiau)が何で生まれたかというと、まるごと台湾の「台湾に行く前に知っておくと絶対お得です!!!~台湾にいって賞金と思い出をゲットしよう~(統一發票:陳碧瑤小姐 2002年3月10日)」によると、企業や商店の脱税防止のために始まったことのようだ。
つまり、脱税を防止するために、台湾政府はレシートに通し番号をつけて宝くじにした。
企業、商店がレシートを発行すれば政府に5%の税金が入るわけで、レシートを宝くじにして消費者自ら企業、商店にレシートの発行を要求すれば脱税が少なくなるという画期的なシステムであるという。
それで、レシートを宝くじにすれば、買う方にとっては消費税を払うというよりも宝くじを買うと感じ、売る方も他の店との競争上、宝くじ付きレシートを発行させなければならなくなった。
こうして、この制度は見事普及していったとのことだ。

いかがだろうか。
日本でも台湾方式を導入すれば、消費税の脱税防止と税率アップの抑制になると思うのだが、今年は参議院議員選挙もあることだし、自分の居住地の所属国会議員にメールでもしてみたらいいのではないか。
それが有権者の権利でもあるし、義務でもあると思うのだが、日本の場合はそういう問題ではないのかな?


2月10日(日)-政治家と幹部公務員の自己保身、記者クラブメディアの無能に翻弄された現場の悲劇

先月、衆議院の解散の直前(2012年11月16日)に成立した国家公務員退職手当減額法(国家公務員の退職給付の給付水準の見直し等のための国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律)の余波で、駆け込み退職を決断せざるを得なくなった公務員が、メディアやその記事を読んだブロガーたちの批判を浴びていた。
ブロガーやSNSの投稿者の多くは、駆け込み退職をしようとしている(した)公務員をメディアと一緒になって非難していたが、私はこれらを見て、極めて日本的な問題が噴出しているな、と呆れ返った。
極論すれば、部下の中途退職リスクも考慮できなかった政治家や幹部公務員たちが、国民の生活のリスクヘッジができると思うか、ということだ。

この法律の概要というのが総務省の「新規制定・改正法令・告示 法律」(法案の段階では「国会提出法案」の第181回国会(臨時会)提出法案)に掲載されているのだが、この支給水準引下げの内容を見ると、「1.官民均衡を図るために法律上設けられた調整率を、 次のとおり段階的に引き下げる。」とあって

期間 調整率
現行「(2012年(平成24年)12月31日まで」 104/100
2013年(平成25年)1月1日から2013年(平成25年)9月30日まで 98/100
2013年(平成25年)10月1日から2014年(平成26年)6月30日まで 92/100
2014年(平成26年)7月1日以降 87/100

となっている。
普通に考えれば、年度途中のぶん投げ退職を促進するような法律である。

そもそも国家公務員退職手当金減額法案が国会に提出されたのは2012年11月2日となっているが、実際のところは、その年の夏には閣議決定もされ、ウォールストリートジャーナルまでが報じていた。(2012年8月2日 WSJ日本版-国家公務員の退職金15%引き下げ-次々消える役人の恩恵
この法案を私が最初に見たとき、国家公務員の仕事は、年度末でない中途半端な時期に幹部やベテラン職員が辞めても問題ないのだろうか、と思ったものだ。
仮に国家公務員がそうだとしても、私が知る限りにおいて、年度単位で仕事を回している地方自治体にこれを丸呑みさせたら、現場はどうなるのだろうかと懸念していた。
そして、それは今年になって現実のものとなった。

いくら国会議員が多忙だとはいえ、A4版で3ページ程の法案の概要にすら誰も目を通していなかったのか。
それで審議をしたと言って法案を可決しているとは怖ろしいことだ。
そもそも法案を決裁する人事当局の役人は揃いも揃って思慮の浅いバカしかいなかったのか。
ニュースを報じるメディアも「2014年7月までに3段階で引き下げる予定で・・・」となっている段階で、年度末でないことに疑問すら感じなかったのか。
私が耳にしたところによると、今年の1月から退職金引下げとなった自治体で駆け込み退職騒動が生じていないところは、そもそも年度末以外で辞めると退職手当の支給率が定年(勧奨)退職扱いにならず、大幅に下がる仕組みになっているからだという。
そんなこともロクに調べずに、与太記事(社説)を書いている大手メディアの記者はいったい何なのかと言いたい。
私が思うに1月26日付の岩手日報の記事が正論と言えるだろう。

今回の騒動は、公務員という最後まで残された終身雇用の聖域で、余程のことがなければ中途退職などあり得ないとタカを括っていた政治家と人事当局の幹部公務員は、その当てが外れて泡を食い、責任逃れのために現場にすべてを押し付けたという図式だろう。
本来なら、今回の駆け込み退職騒動の最大の責任は彼らにあるのだが、大手の日系メディアは記者クラブに安住しているうちに、批判精神をなくし、どこに事件の発端があるのかも調べることをせずに、当局のブリーフィングをそのまま垂れ流しているだけだ。
これが外国の企業なら途中でスタッフが入れ替わることが当然視されているので、そういうリスクをヘッジすることも行われているだろうが、日本の終身雇用制度(新卒至上主義)を採る企業や役所では、そのような考えはほとんど皆無なのだろう。

私は今回のような理不尽な現場バッシングが続いて、優秀な若者が公務員という職業を選択しなくなれば、日本の大きな損失になると思う。
2012年10月18日付のChikirinの日記で、「国が貧しくなるということ」というものが書かれているが、これらの一部は現場の公務員の必要数が不足しても生じるリスクなのだ。
城繁幸氏はその著書で終身雇用制度(新卒至上主義)は、今の時代において諸悪の根源であり、即刻やめればいいと常々書いている。
私に言わせれば、経団連傘下の大企業が新卒至上主義の撤廃に消極的であるのは論外なのだが、そんなことを続けていれば、ますます悪化する若年者の人口減のリスクを社会全体が被ることになるだろう。
しかし、日本企業や公務員に終身雇用がなくなって困る人はたくさんいる。
第一に、公務員を安全な生贄と考えている人たち、第二は、ブラック企業あるいはその体質を持った企業(多くの日本企業)の経営者、最後がロージョブスキルの中高年サラリーマン(私も含めてか?)である。
極論すれば、今の学生たちはこれでも日本で働くことを選択するのか、ということなのだが、これについてはまた書くことにしようか。

退職手当の減額騒動 思慮不足ではないのか
(2013.1.26 岩手日報)
全国の一部自治体で、地方公務員の退職手当が2012年度内に引き下げられるのを前に、職員や教員、警察官らの「駆け込み退職」とみられる動きが問題化している。
本県も、2月招集の県議会に、退職手当を段階的に引き下げる条例改正案を提出する方針。
ただし、他地区の状況などを勘案した上、混乱回避へ施行を年度明けとする可能性もあるという。

問題が顕在化した自治体からは「使命感の欠如」など、早期退職を非難する声も聞こえる。
公務員制度改革は待ったなしだが、今回の件では損得勘定を言い募り、情緒に訴えるのが最善とは思えない。
問題は退職者が集中する年度末まで1、2カ月を残して減額条例を施行する当局の思慮の浅さに起因する。

地方自治体が引き下げを急ぐのは、退職手当と年金を合わせた国家公務員の退職給付が民間より高い状態を是正するため、2014年7月まで3段階で約15%減らす改正法が1月に施行されたためだ。地方公務員の退職手当は国家公務員に準じる-と地方公務員法は規定している。
減額分は次年度の自治体予算に組み込まれる。
混乱が顕在化している地域では、恐らく必要な配慮を欠くまま、当局の「損得勘定」を優先させたのではないか。
公務に関わる混乱は、市民生活に直接的に影響する。
特に教員の中途退職が子どもの心に残す印象を考えれば、条例施行のタイミングには財政当局のそろばん勘定だけでなく、その副作用にも十分な目配りが必要だ。

「駆け込み」と言うなら、そもそも国家公務員の退職手当を減らすための改正が「駆け込み」と言えるだろう。
その成立は、直後に衆院解散を控えた11月16日のことだ。
政局のドタバタが頂点に達する中、当時の与党主導で衆参両院とも1時間程度の委員会審議を経て可決、成立させた。
これを受け、国は早々1月1日施行としたのは、退職手当の減額分と年度末までの給与分のプラスとマイナスを勘案、早期退職に予防線を張ったからに違いない。

年度末を前にした退職が使命感を欠く「駆け込み退職」だとすれば、その発端である国家公務員の退職手当減額を決めた当時の国会こそ、解散騒動にかまけて使命感を欠いていたと言える。
人事院は2011年秋の調査を基に、いわゆる退職金の官民格差は今年3月時点で400万円超としている。
しかし、国会の短い審議の中では「その額で十分か」といった意見もあった。
公務員を見る目が厳しいのは本県も同様。
県や労組など関係機関は、県民への迷惑回避を第一義に足並みをそろえてもらいたい。
教員の駆け込み退職調査 下村文科相「許されぬ」と不快感
(2013.1.24 産経新聞)
定年退職予定の教員が、条例改正による退職手当引き下げ前に「駆け込み退職」するケースが相次いでいる問題を受け、文部科学省が各地の状況の調査に乗り出したことが24日、分かった。
下村博文文科相は同日の記者会見で「責任ある立場の先生は、最後まで誇りを持って仕事を全うしてもらいたい。
許されないことだ」と述べ、不快感を表明した。
文科省によると、調査は3月末までに条例改正を実施予定の自治体の教育委員会を対象に、早期退職した教職員の数などを聞き取る。
条例改正は国家公務員の退職手当減額に伴うもの。埼玉県教委では学級担任を含む100人以上が、条例施行直前の1月末での退職を申し出ていることが判明。
1月1日から手当を引き下げた佐賀県教委では25人が昨年末に退職した。
警察官も教師も”金の切れ目が・・・”退職金減額前「駆け込み辞職願」乱発
(2013.1.23 産経新聞)
退職手当が減額されるのを前に、埼玉県の教員が100人以上も“駆け込み退職”する見込みになっていることが明らかになった問題で、ほかにも佐賀県や徳島県で、今年1月からの引き下げを前に、計43人の教員が退職していることが分かった。
さらに愛知県警でも、退職金が3月1日から引き下げられるのを前に、すでに100人以上が辞職願を提出していることが分かった。
教員や警察官の駆け込み退職が続けば現場への影響も少なくないとみられ、文部科学省は全国の都道府県に対し、退職手当減額の有無や実施時期を報告するよう求めた。

■兵庫県警3割超す90人・・・徳島では教頭も

自治体職員の退職手当の引き下げは、国家公務員の退職手当を減額する法改正に伴って、全国で条例改正が進められている。

愛知県警では、約300人が3月末に定年を迎えるが、すでに100人以上が辞職願を提出。
県警関係者によると、署長級も含め、2月中の退職者は最終的に200人前後となる見通しという。
愛知県職員全体でみると、条例施行前の2月中に退職することで、退職金が施行後より平均150万円多くなるという。
愛知県警は、駆け込み退職者の穴埋め策として、幹部や駐在所勤務の警官など空席にできない役職について、本来3月下旬の定期異動を前倒しして補充する案が有力となっている。

兵庫県警でも、定年退職者約280人のうち3割以上にあたる約90人が2月末で退職する予定。
3月中に予定される定期異動で乗り切る方針という。
職員の退職手当を引き下げる改正条例を今年1月1日に施行した佐賀県では、施行前の昨年12月末に教員36人が退職。

同様に1月1日付で施行した徳島県でも教員7人が退職していた。
徳島県の教員の中には中学校の教頭も含まれていた。
佐賀県教委は、教員のなかに学級担任もいたため退職者を今年度末まで臨時的に任用することで、支障が出ないよう対処しているという。
また徳島県教委は、7人のうち教科担任だった5人について臨時教員を採用、「学校現場での支障は出ていない」としている。

兵庫県や京都市も3月から退職手当が引き下げられるが、現在のところ問題は浮上していないという。
職員の退職手当を約15%引き下げる方針を打ち出し、職員組合と協議中の大阪府は「今年度中の早期退職者が大量に出る可能性はある」(府企画厚生課)と懸念を示している。
退職手当減額法が成立 国家公務員、年600億円
(2012.11.16 産経新聞)
国家公務員の退職手当を約15%減らす改正法が16日、参院本会議で賛成多数により可決、成立した。2013年1月から段階的に減額し、完全実施の2015年度以降は年600億円の削減を見込む。
政府は地方公務員にも同じ対応を求めており、全自治体が実施すれば地方分で年3400億円の削減になると試算している。
人事院調査によると、退職手当と年金を合わせた退職給付が平均2950万円と民間企業の平均より403万円高く、退職手当を減らして是正を図る。
2014年7月までに3段階で引き下げる予定で、2012年度の人件費の削減額は130億円。
総務省は、自治体に対し、条例を改正して地方公務員も国と同様に減額するよう要請している。

2月7日(木)-Backblazeを使ってパソコンデータを全自動でクラウド(cloud)にバックアップ

パソコンのハードディスクがクラッシュしたとき、あるいはウイルスに感染したとき、天災によって壊れたとき、そんなリスクに備えてデータをバックアップしておきたいと誰もが思う。
今や、デジタルカメラで撮った写真や動画などの思い出もパソコンで保管する時代、私はおまけにウェブサイトの運営や海外で資産運用もやっていることから、パソコンのデータは現金資産以上に重要だ。
今まではデータのバックアップをDVDなどでしていたが、日々更新するようなファイルの定期的な保存作業は面倒だ。
せいぜい海外旅行で撮った写真や動画などを保管する程度で、最近ではDVD自体に何が入っているかわからなくなっている。
まったくもって本末転倒だ。

そんな折、友人のPharmさんも「PCのデータのバックアップの新しい選択肢」として紹介しているのがBackblaze(バックブレイズ:日本語版を含め11ヶ国語で提供)だ。
これはウェブサイトから専用ソフトをダウンロードして、それをパソコン上に常駐させることによって、指定したドライブ(通常はCとD)にあるデータを自動的にオンライン上(クラウド)にバックアップしてくれるというものだ。
私の場合、初回のバックアップは、Wi-Fiの通信環境で夜間と週末だけフル稼働させて約1週間かかった。
もちろん、一旦電源を落としても、パソコンを再起動させれば、途中からデータのバックアップを再開してくれるので、ずっと電源を入れっ放しにしておく必要はない。
初回のバックアップさえ終わってしまえば、あとはパソコン上で更新されたファイルだけをバックアップしてくれるので、短時間で終わる。
つまり、データの更新作業がそのままバックアップデータにも自動的に反映されるという優れものだ。

こう見ると良いことづくめのソフトだが、欠点もある。
Backblaze(バックブレイズ)のクラウドは、完全なるデータの保管庫(storage)にはならないことだ。
販売代理店であるソースネクスト(SOURCENEXT)のサイトによれば、パソコン上からデータを削除した場合は、Backblaze(バックブレイズ)はこれをミラーリングし、30日後にオンライン上のバックアップからもデータが削除されるとある。
従って、更新作業をしないような写真や動画などのデータは、DVDなどの媒体や、別のサイトのストレージシステムを利用してパソコン上から削除するといいだろう。
また、ウイルスに感染したりして、パソコンを初期化しないといけない事態に陥ったときは、できるだけ速やかにクラウド上のデータを復元させ、USBメモリなどで配送してもらった方がいいだろう。
こういったリスクはあるものの、オンラインバックアップツールの一つはBackblaze(バックブレイズ)でいいと思う。


2月3日(日)-アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)は日本を救うのか

昨年11月16日の衆議院解散から第二次安倍内閣の発足を挟んでここ2ヶ月半の円安と株高の勢いが止まらない。
ちょうど1ヶ月前に書いた「ミセスワタナベが熊に襲われるとき」の中で「週刊誌の見出しに『アベノミクスに乗り遅れるな!』という見出しが躍ったら一旦ロング(円安)ポジションを全部閉じるか、ショート(円高)ポジションで保険を掛けよう。」と書いた私はとんだピエロである。
ちなみに、この期間における日経平均株価は9,024.16円から11,191.34円と2,167.18円高、東証株価指数(TOPIX)は751.34ポイントから942.65ポイントと191.31ポイント高になり、それぞれ約25%上昇した。
一方の円の為替相場は、対米ドルレートが80.8円から92.8円へ、対ユーロに至っては103.5円から126.6円と20円以上も円安に振れた。
日本株やFX投資をやっている人にとっては久々にやってきた春爛漫といった季節到来である。

これらのことで今後は大企業を中心に企業業績が好転するのではないかという期待から、市場にはアベノミクスへの期待が膨らみ続けている。
特に経済人には安倍首相に期待している人も多く、これまでにもニューズウイーク日本版に多くの寄稿をしている知日派投資家のピーター・タスカ(Peter Tasker)は、1月22日号で「世界に愛されるアベノミクス」として、安倍首相と麻生財務相に断固たる決意と運があれば、長らく続いた日本のデフレ不況に終止符を打てるのではないか、と書いている。
ちなみに彼は2004年3月31日号で日本の景気回復を望まない人々(PDF)ということを書いていて、この中で「景気回復が本格的に軌道に乗れば、エリート官僚は痛いところをつつかれかねない。ブッシュやグリーンスパンの政策を、日本はなぜもっと早く採用しなかったのか。失われた10年は、官僚の無能と無責任が招いた人災ではないのか・・・。」と述べているのを忘れてはならない。
歴史は繰り返す。
このアベノミクスが狡猾な財務官僚による消費税増税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)の景気条項(衆議院修正後の附則第18条)を満たすための布石に過ぎなかったとき、安倍内閣への期待は一気に失望に変わるだろう。

社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律-附則第18条
1 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

一方で安倍首相が提唱するインフレターゲット政策には必然的に物価高をもたらすリスクがあり、賃上げに消極的な経団連の発言と相俟って不安を隠せない人も多くなっている。
その典型的な記事が、1月25日付の英字紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)のWages in way of Abe's war on deflation(「アベノミクス」の物価上昇計画を脅かす賃金下落)だ。
事実、時事ドットコムで掲載されている平均月額給与の推移を見る限り、大方の日本のサラリーマンの給与収入は減少の一途を辿っていることがわかる。
これでインフレによる物価高が直撃すれば、生活状況は一気に悪化することは火を見るよりも明らかだ。
だから私は「今日から新しい人生を歩みたい人のための投資入門講座」というエッセイでもって貴方がたに働くだけの人生を変えようと言っている。
もっと悲惨になることが危ぶまれているのは生活保護受給者で、闇金の餌食になる者も増えるだろうということが日刊SPAには書かれている。(日刊SPA-安倍政権に反社勢力が大喜び-安倍政権による生活保護費削減をヤミ金業者が大歓迎
もはや彼らには神のご加護があることを祈るだけだ。

正直なところ、私は第一次安倍内閣が発足した当時、彼の政策を酷評するコラムを書いた。(2006年9月28日-安倍晋三首相の政策の本質
このときと今とで何が変わったのかと聞かれれば、野党に対する期待感だ。
当時は自民党に対抗し得る政党を育て、健全な議会制民主主義が生まれればいいという思いがあった。
それが成就したと思われたのが2009年9月の鳩山政権発足(2009年9月2日-民主党怒涛の308議席、ついに政権交代)だったのだが、その思いはわずか数ヶ月で失望と怒りに変わった。
もはや売国政党とも言われる民主党の自滅で、私が生きている間にまともな議会制民主主義が生まれる期待はなくなったと思えた。
そうであれば、再登板した安倍首相にある種の期待をするほかはなくなった。
その期待とは、元財務官僚で第一次安倍内閣のブレーン的存在であった高橋洋一氏が言う、安倍首相の正義感だ。
「まっとうな政策には首を縦に振り、立場も顧みず、実施しようとする純粋な心を持っている。」という高橋氏の言葉が安倍首相の中に未だに生きていることを心の底から願いたい。

Wages in way of Abe's war on deflation
(Financial Times By Ben McLannahan January 25, 2013)
「アベノミクス」の物価上昇計画を脅かす賃金下落
(2013.1.29 Japan Business Press)
At 5pm on a Thursday evening, the Nakameguro branch of Don Quijote is starting to fill up. The gaudy, multi-storeyed discount store - one of a nationwide chain - is an odd fit amid the boutiques and restaurants of this bohemian Tokyo suburb.

木曜日午後5時の東京・中目黒。全国展開しているディスカウントストアチェーン、ドン・キホーテの中目黒本店は客でいっぱいになり始めている。この界隈にはレストランやブティックが立ち並び自由な雰囲気も漂うだけに、ビルの複数階を占めているこの店のけばけばしさは妙な感じもする。

But in deflation-dogged Japan, where salaries and bonuses keep falling, the company known affectionately as "Donki" has been a big winner - one of a handful of listed companies to have increased sales and profits for 20 years in a row.

しかし、しつこいデフレにとりつかれて給料もボーナスも減る一方の日本において、「ドンキ」という愛称で親しまれるこの会社は、掛け値なしの勝ち組である。何しろ同社は、20年連続で増収増益を果たしている数少ない上場企業の1つなのだ。

It is here that "Abenomics"is being put to the test. Shinzo Abe, Japan's new prime minister, has vowed to rid the country of deflation so that companies and households are more likely to spend cash than hoard it.

「アベノミクス」の真価はここで試されることになる。日本の新首相・安倍晋三氏は、企業や家計がため込んできた現金を使う可能性が高まるように、この国をデフレから脱却させると約束している。

So far, Mr Abe has focused on fiscal stimulus and monetary easing, with details of another prong of his plan - structural reforms and deregulation - expected by the summer.

今のところ、安倍氏は財政支出を伴う景気刺激策と金融緩和に力を入れている。同氏の計画にある「3本の矢」の残りの1本-構造改革と規制緩和-の詳細は今年の夏までに打ち出される見通しだ。

"Without inflationary expectations, jobs will not be created and investment will not occur," Mr Abe told the first meeting of his economic task force this month. "We have had over 10 years of deflation, and now we are going to do something different."

「(デフレ期待から・・・)インフレ期待に変わらない限り、雇用は生まれないし、投資も出てこない。」安倍氏は今月、自身の経済タスクフォースである経済財政諮問会議の第1回会合でこう述べた。「10年間ずっとデフレが続いてきたのだから、そうではない(伝統的ではない)手法を今度は取る。」

Data released on Friday showing a 0.2 per cent fall in Japan's core consumer price index in December from a year earlier - the sixth drop of the past seven months - underlined the scale of that challenge.

25日に発表された昨年12月の全国の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年同月比で0.2%下落し、過去7カ月間で6度目の前年比マイナスとなった。安倍氏が挑む課題の大きさを際立たせる数字だ。

Meanwhile, in Donki's maze-like aisles stacked high with noodles and sauces, Mr Abe's promise of 2 per cent inflation sounds more like a threat to Sakura Ikeda, a 36-year-old housewife.

一方、麺やソースがうずたかく積まれて迷路の様相を呈しているドンキの売り場でイケダ・サクラさん(36歳・主婦)に話を聞いたところ、安倍首相が公約する2%のインフレはどちらかと言えば怖い感じがするという。

"If wages rise too, then inflation is a good thing," she says. "But I can't see that happening. There is no sense whatsoever that the economy is improving."

「お給料も一緒に上がってくれるんなら、まあインフレはいいことです・・・でも、そうなってくれるとは思えませんよね。景気が良くなっているという感じはありません」

That is the snag for Mr Abe. Years of deflation and low growth have cemented expectations of more of the same. In a country where the working-age population has fallen about 8 per cent since 1995, companies have been reluctant to pass on higher input costs by lifting prices, for fear of losing market share.

これこそが安倍氏が直面している障害物だ。デフレと低成長が何年も続いた結果、人々は同じ状況が今後も続くという見方を強めている。またこの国では生産年齢人口が1995年に比べて約8%減少しており、市場シェアの低下を恐れる企業は投入コストの増加を価格に転嫁することに消極的だ。

As tough Japanese labour laws make it almost impossible to fire workers, the result has been squeezed salaries. That, in turn, has reinforced the cycle of sluggish demand that has nudged Japan into its third recession in five years.

日本では労働関係の法律が厳しく、従業員を解雇することはほとんど不可能であるため、代わりに給与が引き下げられている。そのせいで需要がさらに低迷するという循環が強まっており、日本はここ5年間で3度目の景気後退に陥っている。

Lower pay in itself has not been too hard on consumers, as total cash incomes have fallen by less than the drop in the broadest measure of the price of goods and services since the mid-1990s.

給与の減少はこれまでのところ、消費者にとってそれほど過酷なものにはなっていない。1990年代半ば以降の現金給与総額の減少率は、財・サービスを最も幅広く網羅した物価指数の下落率よりも小さなものにとどまっている。

Still, that effective rise in purchasing power has failed to spur consumption because employees fear that their next pay packet will be even lighter than the last. As a result, many automatically associate higher prices with lower standards of living.

しかし、その意味で購買力は実質的に向上しているものの、消費を喚起するには至っていない。自分の給与はこれからさらに減るのではないか、という不安感があるからだ。その結果、国民の多くは、物価が上昇すれば生活水準は低下すると考えている。

More than 80 per cent of respondents in a recent Bank of Japan survey who noticed a rise in prices last spring - driven largely by fuel costs - said it was a bad thing.

日銀が一般の国民を対象に行っているアンケートによれば、昨年春の(燃料価格上昇による)物価上昇を認識した回答者の80%以上は、物価の上昇はどちらかと言えば困ったことだと答えている。

On Friday, Bank of Japan governor Masaaki Shirakawa - who has embraced Mr Abe's target with no great enthusiasm - made the point that even during Japan's bubble years in the latter half of the 1980s, inflation averaged just 1.3 per cent.

安倍氏のインフレ目標を渋々受け入れた日銀総裁の白川方明氏は25日、1980年代後半のバブル期においてもインフレ率は平均で1.3%にすぎなかったと指摘した。

"Regardless of gender, age or occupation, the 'price stability' that most Japanese want is the sort where the economy improves in a sustainable and balanced way, with employment, salaries and corporate profits rising, and mild price increases following as a result," he said.

「性別、年齢、職業を問わず、多くの国民が望んでいる『物価の安定』とは、雇用の増加と賃金の上昇、企業収益の増加などを伴いながら経済がバランスよく持続的に改善し、その結果として物価の緩やかな上昇が実現する状態だ」と白川氏は述べた。

This week Yajiuma TV, a popular breakfast show, ran a segment on strategies to "cope" with 2 per cent inflation, should the government achieve it. One suggestion was to stock up now on non-perishables.

早朝に放送されている人気情報番組「やじうまテレビ!」は先日、2%のインフレに「対処する」戦略を特集した。提案された対策の中には、保存食を買いだめするというものもあった。

Mr Abe has stressed that higher prices must be accompanied by better wages. His cabinet has floated the idea of offering tax cuts to companies that boost pay and bonuses.

物価の上昇には賃金の上昇が伴わなければならない、と安倍氏は強調している。内閣からは、給与やボーナスを引き上げた企業を対象に減税を行うという構想も浮上している。

For now, though, the outlook is not encouraging. Keidanren, Japan's most powerful business lobby group, claims that there is "no room" to raise pay in the traditional round of negotiations that will take place this spring, blaming the weak economy.

しかし、今のところ見通しはあまり芳しくない。企業のロビー団体である経団連は今年の春に行われる伝統的な労使交渉「春闘」で、「ベースアップ」を実施する「余地はない」と断言している。景気が悪いというのがその理由だ。

In discussions for the next fiscal year, the management side "will give priority to employers' survival, and the maintenance and stability of employment", Keidanren said this week.

経団連は先日、企業の経営側は来年度についての議論で「企業の存続と従業員の雇用の維持・安定を最優先する」と語った。

However, it may not be long before the double-digit drop in the yen against the US dollar touched off by Mr Abe's recent talk of monetary easing starts to trigger a rise of gas and electricity prices, notes Satoshi Okagawa, an analyst at SMBC.

しかし三井住友銀行のアナリスト、岡川聡氏によれば、安倍氏の金融緩和発言を機に進んだ2ケタの円安・ドル高がガス・電力料金上昇の引き金になり始める日は近いかもしれない。

If it takes until the next round of pay negotiations in spring 2014 before wages can begin to rise to compensate for those rising prices, "costs could go up ahead of income", he says, crimping consumption further.

物価の上昇を相殺する賃金上昇が実現する可能性があるのは2014年の春闘以降だということになれば、「収入より先に生活費が上昇する恐れがあり」、そうなれば消費をさらに抑制するだろうと岡川氏は述べている。

Back at Donki, founder and chairman Takao Yasuda says he welcomes the prospect of inflation, describing it as a "southern wind" to boost demand. "Inflation creates sensitivity to prices," says Mr Yasuda. "People feel like they have to hurry up and buy things, before they get more expensive."

ドン・キホーテの創業者である安田隆夫会長は、インフレになるとの見通しは需要を喚起する「南風」だと表現し、これを歓迎すると話している。「インフレになれば物価に対する感度が高まる・・・そうすればみんな、値上がりする前に急いでモノを買わなきゃいけないという感じになる」そうだ。

But down on the shop floor, the feelings are different. "I heard about [the 2 per cent target] on the news, and I don't really understand it," says 72-year-old Chieko Tsujii. "I'm worried, though, because I'm a pensioner. My income is not going to go up."

しかし、ドンキの売り場にはそれとは異なる雰囲気が漂っている。「(2%のインフレ目標のことは)ニュースで聞いたけど、どういうことだかよく分かりません。」ツジイ・チエコさん(72歳)はこう話す。「でも、心配は心配ですね。私は年金暮らしで、収入はもう増えませんから。」
世界に愛されるアベノミクス
(2013.1.22 Newsweek Japan by ピーター・タスカ)
■日本経済-投資家は熱視線を送るが圧力をはね返し成長戦略を実行に移せるかが課題だ

自民党がいない日本なんて、アルプスのないスイスか、キース・リチャーズの抜けたローリング・ストーンズと同じくらいあり得ない。
最近のニュースを見る限り、そんな例えも大げさではないように思える。

かつて中曽根康弘元首相は結党したての民主党をソフトクリームに例えたが、まさに炎天下のソフトクリームのように民主党政権は溶け落ちてしまった。
今や残るのは、路上に垂れ落ちたクリームの白い汚れのみ。
一方、自民党はずっとそこに存在していたかのように、再び政権の座に返り咲いた。
だが「失われた20年」を生み出し、2009年の総選挙で有権者に明確に拒絶されたのは、まさにこの自民党ではなかったか。
「持って生まれた性質は変えられない」という言葉にも例外がある、ということだろうか。

確かに自民党はそんな「例外」なのかもしれない。
ただし、すべては安倍晋三首相が妥協を求める圧力をはね返し、選挙中に約束した「スピード感のある成長戦略」を実行に移せるかどうかに懸かっている。
成功すれば、安倍は日本をデフレから脱却させ、国際的な存在感を取り戻した男として歴史に名を刻むことになる。
逆に官僚の操り人形になってしまったら、自民党の行く末には、民主党と並んで路上のゴミとなる運命が待ち受けている。

日本の政治家にとって、自分の名前に「ノミクス」という接尾辞が付けられるのは異例の栄誉だ。
「ノダノミクス」や「コイズミノミクス」という表現は生まれなかったのに、安倍の場合は首相就任前から「アベノミクス」が世界中の投資家から熱烈に支持された。
高い期待を反映して、衆議院選挙の実施が決まって以降、急激に円安が進み、日経平均は20%近く上昇した。
安倍は文字どおり、指一本動かすことなく時価総額でおよそ50兆円の富を生み出したわけだ。

安倍の思想や手腕が広く知られていることを考えると、この歓迎ムードはなおさら意外に感じられる。
06~07年の首相在任中には安倍はろくな業績を挙げておらず、新たな経済政策にも興味を示さなかった。
当時と今で何が変わったのだろう。
なぜ前回、国の舵取りに失敗した安倍が、今回は成功するといえるのか。

実際には、日本を取り巻く状況すべてが変わっている。
そして安倍は、そのことに気が付いている数少ない政治家の1人だ。
08年秋のリーマン・ショック以前のグローバル経済は年率4~5%で着実な成長を続け、インフレ圧力もほぼなかった。
BRICS諸国が急成長し、富裕国の生活水準も高まるというグローバリゼーションの黄金時代を謳歌していた。

■経済危機後の「新基準」

日本経済は当時も脆弱だったが、大手メーカーは好調な海外需要の恩恵を受け、円の対ドル相場も100~120円で落ち着いていた。
当時の小泉純一郎首相はメディアを巧みに利用し、サッチャー流の改革で日本経済を再生させた立役者として国内外で喝采を浴びた。

残念ながら、すべては幻想だった。
アメリカの住宅バブルやユーロ加盟国間の相違など、深刻な格差と社会のゆがみは蓄積される一方。
08年の経済危機でそれらのひずみが一気に表面化すると、世界は1930年代の世界恐慌の再来を思わせるような大混乱に陥った。

アメリカのサブプライム危機と無関係だった日本も、07年以降、名目GDPが8%失われるという深刻なダメージを負った。
小泉改革のおかげで日本経済の基盤が強化されたという評価は明確に否定され、日本はむしろ、かつてないほど外的要因の打撃を受けやすくなつてしまった。
長年続くデフレによって、企業の国内での利益率は限りなく縮小した。
終身雇用が減って非正規雇用が増えたため、若い世代の購買能力も失われた。

経済危機以後の世界は「新標準」に適応しつつある。
先進国は低成長にとどまり、BRICS諸国にも急ブレーキがかかったまま。
消費者は借金返済に忙しく、企業は投資するよりカネをため込もうとする。
日用品の物価は上昇せず、多くの国で不動産価格が急落している-。

この新標準はいつまで続くのか。
答えは誰にも分からないが、悲惨な前例として世界が注目するのが日本だ。
各国の指導者は、低成長とデフレに長らく苦しめられる「日本化」を避ける方法を必死で模索している。
インフレもデフレも金融問題だから、対応策の主眼は金融政策に置かれてきた。
アメリカでは、ベン・バーナンキ議長率いるFRB(米連邦準備理事会)が極めて迅速かつ積極的に対策に乗り出し、量的緩和策を何度も繰り返した。

この方針は当初から激しい論争を引き起こした。
保守派は、ドルの価値を下げる無責任な政策だと激しく批判。
テキサス州知事で共和党の大統領選候補の1人だったリック・ペリーは、バーナンキの政策を「裏切り」と呼び、テキサス州に来たら「痛い目に遭う」と警告した。
だが、こうした批判は間違っていた。
彼らが警告したハイパーインフレが起きることはなく、株価は2倍に伸びた。
ドル安のおかげで輸出企業は好調を取り戻し、インフレ懸念は経済危機以前の水準に戻った。
アメリカ経済は今も絶好調とはいえないものの、ヨーロッパや日本に比べればずっとましな状態を保っている。

■世界でも珍しい日銀の政策

各国の中央銀行もバーナンキ路線を踏襲した。
イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、日本の金融行政に詳しいアメリカ人エコノミスト、アダム・ポーゼンを金融政策委員会のメンバーに任命。
日本の失敗を熟知しているポーゼンは委員会で、積極的な量的緩和策を行うよう訴えた。
だがイギリスでも、この政策は論争の的となった。
委員会の他のメンバーはインフレを懸念し、量的媛和をしなくてもイギリス経済はいずれ回復すると主張した。

結局、正しいのはポーゼンのほうだった。
イギリス経済の回復ぶりは予想をはるかに下回り、インフレが加速することもなかった。
欧州中央銀行(ECB)は、スペインやギリシャなど財政危機に陥った国の国債を無制限に購入してユーロ圏の崩壊を防いだ。
さらにスイス国立銀行(中央銀行)も、従来の保守的な政策を180度転換して、為替相場に無制限介入することでフラン高の進行と輸出業への打撃を食い止めた。

こうした各国の措置に比べると、日本はほとんど何もしてこなかった。
過去10年以上にわたり、ほぼすべての政権がデフレからの脱却を政策課題に掲げてきたが、何の成果も挙げられなかった。
理由は簡単だ。
日本銀行は97年の日銀法で独立性を確保したものの、実質的に責任がない。

イングランド銀行とECBは明確なインフレターゲット(物価上昇率の目標)を設定している。
FRBも物価の安定と雇用の最大化が義務付けられているし、昨年12月には失業率目標という新たな目標を自ら導入した。
世界でも珍しいことに、日銀は自らの目標設定とパフォーマンス評価の両方をやっている。
「われわれは素晴らしい仕事をしている」と、自己評価が甘くなっても不思議はない。
問題は、そんなふうに思っている人間が外部にほとんどいないことだ。
経済学の重鎮、故ミルトン・フリードマンは98年、日本経済の問題は日銀の「10年にわたる無能な金融政策」のせいだと論じている。
フリードマンは06年に死去したが、今も生きていたとしたら何と言ったか想像するのは難しくない。

デフレがあまりにも長期間放置されてきたため、それに慣れてしまった日本の消費者や企業、投督家の態度を変えるのは容易ではないだろう。
識者たちは最近、消費者や企業のマインドを切り替えるには、政府がパワフルなメッセージを発信する必要があると指摘している。
その点、主要ポストの人事は強力なメッセージになる。
図らずも白川方明・日銀総裁は4月に任期が満了する。
次期総裁に任命されるのが元官僚なら、古い体質が変わっていないというサインになるし、ポーゼンのような新しい考えの持ち主が任命されれば、安倍政権は脱デフレに本気で取り組むつもりだという強力なサインになる。

■国債発行の絶好の機会

日本が大きな間違いを犯してきたのは金融政策だけではない。
もともと需要が弱い国なのに、消費税を引き上げれば需要が冷え込むのは間違いない。
税収を増やしたいなら、デフレによる貨幣価値の上昇で、企業や個人に見えない利益をもたらしている貯蓄に課税するべきだ。

民主党政権時代、財務省は「増税しなければ日本は次のギリシャになる」と党指導部を言いくるめたらしい。
だが現在、通貨主権(通貨発行権)を持つ国で債務危機に陥っている国は1つもない。
ギリシャやスペインは、単一通貨ユーロを導入した時点で通貨主権を放棄した。
これらの国が陥っている現状は、独自の金融政策を取るすべもなく財政破碇するしかなかった北海道の夕張市と同じだ。

これに対して、通貨供給量を調整できる国は現在、途上国か先進国かを問わず、また財政赤字があるか否かを問わず、史上最低水準のコストで借金ができる。
なかでも日本の長期金利は最も低い。
つまり日本は、好条件で国債を発行するまたとないチャンスに遭遇している。
財務省はメキシコのように100年債、あるいはかつてのイギリスのように永久債(コンソル債)の発行を検討してもいいのではないか。

日本は既に莫大な公的債務を抱えており、これ以上の借金は危険だという批判があるが、その批判はせいぜい半分正しいという程度だ。
公的債務と貯蓄の関係を考えてみるといい。
銀行や郵便局は顧客から預かった資金を運用するが、それは通常、企業への貸し出しという形を取る。
ところが頼みの企業が、需要低迷や景気動向が不安だから借入金を増やしたくないと言いだしたら、銀行は政府に金を貸すしかない。

こうして日本の莫大な公的債務は、同じくらい莫大な貯蓄によって均衡が保たれている。
いや、均衡が保たれている以上だ。
日本にはGDP比50%超の対外純資産があるのだ。
財政赤字を適切な水準に抑えたいなら、日本は成長重視の政策に回帰して、賃金や企業利益の拡大を促すことで税収増につなげるしかない。
97年の消費税の税率引き上げが散々な結果に終わったように、ないところからカネは搾り取れない。

■悲観的な見方が常態に

公共事業の縮小路線にも終止符を打つべきだ。
日本は防災対策を強化し、主要機能を地方に分散し、東京オリンピック前に建設されたインフラを補強する必要がある。
国債の格付けが下がることを恐れて公共事業を控え、トンネルが崩落したり、耐震構造が十分でない建物を放置するなんてばかげている。

安倍には「成長戦略」がなく、「インフラ投資は利益誘導政治につながる」との批判もある。
だがいわゆる「成長戦略」は、非経済的なプロジェクトへの投資につながることも多い。
近年で最悪の例は、ばかばかしく高い再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度だろう。
政府は経済性を無視したイメージ先行のプロジェクトを優遇するのではなく、企業部門が自力で成長できる経済環境の整備に集中するべきだ。
それはデフレに終止符を打ち、通貨競争力を高め、消費税の税率引き上げをやめ、資産市場を活性化し、国民に自信を持たせることだ。

日本ではあまりにも長い間、新しい試みに対してネガティブな批判をするのが「冷静」な態度と見られてきた。
その結果、政策当局者もオピニオンリーダーも腰が重くなり、悲観論に満ちた経済の停滞が常態化した。
ローリング・ストーンズ同様、自民党はしぶとく生き延びてきた。
そのエネルギーレベルは、60年代の黄金時代に比べればずっと低いが、民主党に比べればはるかにましだ。
だから安倍と麻生太郎財務相にもう一度だけ、大舞台で仕事をするチャンスを与えてみようではないか。
断固たる決意と運があれば、彼らは日本に「サティスファクション(満足感)」を与えられるかもしれない。
火中の栗を拾った総理と幹事長
(高橋洋一著:「さらば財務省!政権交代を嗤う官僚たちとの訣別」より)
われわれの案に賛同してくれた安倍総理と中川幹事長は、間を置かずして「ねんきん特別便」の発送と年金記録確認第三者委員会の設置を決めた。
ねんきん特別便の話は安倍総理が党に投げるまで出ていない。
中川幹事長の決断だった。
幹事長も、情報公開が重要だと感じておられたのだろう。
共産党も、ねんきん特別便の発送には賞賛を惜しまなかった。

私は安倍さんと中川さんの年金問題への対応は、大英断だったと思っている。
与党にとって、これは辛い選択である。
データの不備を明らかにすれば、「いい加減なデータを放置していた。俺の年金はどうしてくれるんだ」と国民は怒る。
国民の怒りを真正面から受けなければならない。

情報を公開すれば、文句が山ほど来る。
年金記録のミスは生半可な数では収まらない。
とりあえず郵送した1000万通の特別便にしても、少なくとも五%くらいの間違いがあるはずだ。
さらに段階的に送っていけば、500万人から1000万人の怒りを買う。
しかも、騒ぎは一年や二年は続く。安倍政権はおろか、その先の政権にまで累が及ぶ。
参院選を控えていた安倍さんと中川幹事長にしてみれば、なおさら、できれば避けたい方法だった。
だが、国民が怒るからこそ、早く解決しなければならないのも否定しようのない事実だった。
自民党、安倍政権への風当たりは一時的に厳しくなっても、何よりも国民の不利益を解消することが最優先である。
そう考えて、安倍さんと中川さんは、捨て身の覚悟で、あえて火中の栗を拾ったのだ。

これには提案したわれわれが驚いた。
コンテンツ・クリエータの私には政局などは関係ない。
正しいと思われる案を出したまでである。
しかし、さすがにこの案は受け入れられないだろうと読んでいた。
こんな案を採用すれば、政局でも選挙でも圧倒的に不利な立場に追い込まれる。
厚生労働省も猛反対していた。
支持率はガタ落ちになって、政権は足もとから揺らぎかねない。

だが、安倍総理は躊措なく「やろう」とおっしゃった。
安倍さんはある意味、政治家に必須の老檜さには欠ける。
だが、それを補ってあまりある正義感のようなものがある。
まっとうな政策には首を縦に振り、立場も顧みず、実施しようとする純粋な心を持っている。

当時、街頭演説に立った安倍総理が、「みなさんには払い損はさせない」と声を張り上げていたのを思い出す。
「最後の一人、一円まで」-
これは当たり前の話ではないか。

中川さんも立派だった。
中川さんの口から「選挙を抜きにしてやろうか」という言葉を聞いたときは、並々ならぬ覚悟が伝わってきた。
選挙に敗北すれば、中川さんは幹事長のポストから去らねばならない。
政治家としては大きな打撃を受ける。
中川さんも国民の利益を最優先させて、あえて茨の道を選択したのだった。

2月2日(土)-ワールドインベスターズ河口湖オフとSNSの復活

富士山去る1月19日と20日にワールドインベスターズの風太さんご夫妻に誘われて山梨県の河口湖へ行ってきた。
参加者は、彼ら夫妻に、ジャンク債さん、アンチャイさん、こうさん、kaneさんに私の総勢7名だ。
そのときの様子はオフ会レポートのコーナーに「ワールドインベスターズ河口湖大寒オフ」として写真を掲載した。

私が国内の宿泊オフ会に参加したのは久々のことである。
前回は2年半ほど前にあったワールドインベスターズ沖縄オフ会なのだが、今回のような温泉旅館に泊まっての部屋飲みというのは初めてという気がする。
これ以外のオフ会は宿泊のオフでも外飲みが基本で、ホテルは各自がお好みのところを押さえるというスタイルだからだ。
今回は、部屋で酔い潰れても、ホテルや家へ帰らなくていい、そのまま部屋で布団を敷いて寝るだけというのは何と楽なことかと思った。
しかし、こういうオフ会のセッティングは、幹事の負担が大変だ。
あらためて風太さんご夫妻には感謝したい。

ところで、昨年の12月中旬以降、サーバーの故障で休止していたワールドインベスターズのSNSが復活することになったようだ。
メンバー登録は招待制を取っているので、旧SNS時代に私と友人関係になっていた人で、新SNSの登録を希望される方は、ご自身の旧SNS時代のハンドルネームとメールアドレスをこちらまで送っていただければ幸いだ。(私と友人関係になかった人は旧SNSのお問い合わせフォームから登録手続きが可能だ。)
しかし、旧SNSのときの記録を復旧することまでは困難だそうで、ちょっと寂しい気持ちだ。
幸いなのは、旧SNS時代にはオフ会が盛んに行われてきたので、お互いの本名がわかっている人もかなりいて、Facebookでも繋がっていることが多いことだ。
もちろん、新SNSでは、友人関係の設定も一からやり直しということで、この1ヶ月半の間にFacebookでの交流をメインにしてしまった人は、ダブルで交流関係を構築するのが面倒だという人も出てくるだろう。
例えは悪いが、東日本大震災後の超円高局面で日本から海外へ出て行った企業が、アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)で円安に振れたところで、日本には容易に戻って来ないのと同じ感じだ。
せっかく復活したSNSだが、もしかすると、そんな悲哀を感じることになるかもしれない。

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